第13話 新旧
カピト都立ドームで行われる『勇選会』に来た。皆が皆勇者が誰になるかを見届けるためにここに来ているが、実際はは娯楽のためだろう。俺はオッサンの付き添いで来たが、本人が行かんと揺らがないために一人来ることになった。
試合の形式はトーナメント、総勢32人の英雄が争う。順位に応じて勇者に選ばれる優先度が決まるが、結局は複数人パーティにする関係で選出は複雑なものになるそうだ。そんな大事な場で、俺はケシュタルと言うおじさんの熱弁を試合が始まるまで聞かされる事になった。
『それでは!第一試合!始め!!』
そしてやっと試合が始まった。ケシュタルのせいで10分弱位しか経っていないのにかなり疲れた。
試合のルールは『光球』、二つの光の玉を胸部と背部に取り付け制限時間五分以内に破壊された方の負け。しかも複雑かつ大掛かりな魔法によって特別な領域を作っていて、武器防具は魔素の塊になり、武器攻撃での人体への影響は透過するため0、しかし武器同士のぶつかり合いはするし、防具もしっかり防いでくれる。炎などの魔法も同性質の魔素で構成され人体への影響は0と、かなりややこしい。
とにかく、英雄同士で潰し合わないようにとの配慮で成り立った無血の対人戦って事だ。一回戦から試合は瞬く間に終わって行き、それらは制限時間の半分もせず終わったものばかりだった。実力は拮抗し、個々の得意とする技をこの上なく巧く使い、結果練度の高い方が勝つ。参加していた英雄には、魔道士、剣士、拳術師、鞭使いや弓使いもいた。あ、そうだ、あの男もいた。
『第9試合。東に立つは『光騎士』ミル・アーサー!西に立つは『死面』ターラ・ブルーニー!それでは始め』
あの全身金色の男はミル・アーサーと言う名で、相手は映像で見たあの仮面の剣士だ。アーサーはオッサンと戦った時と同じように斬撃を飛ばしたが、相手には当たらず領域の壁に辿りつき爆ぜた。ターラはその斬撃が爆ぜる前に後ろへ回っていた。アーサーが振り向く動作を起こす前に背面の光球を両断、アーサーの振り返りざまの一閃も躱して再び背後へ。棒立ちから袈裟がけに一太刀、鎧も機能せず、胸部の光球も破壊され試合終了。
『そこまで!勝者、ターラ・ブルーニー。それでは、メル・クリオネア様とルヴェイゼン・リドロフ様は準備をお願いします』
放送が入ってもアーサーはしばらくその場に固まっていたが、ターラに背を軽く叩かれてやっと我に返った。その後は暗い気配を発しながら、とぼとぼ歩いてどこかに行ってしまった。あの人の事は嫌いだが、これは少し同情してしまった。そんな中、俺が面白いと思った試合があった。第14試合、フィーク・オールとモロウの対決だった。
『それでは第14試合。東に立つは『稟剣』フィーク・オール!西に立つはイデ出身『朱凛』モロウ!』
フィーク・オール、高身長で表情の読めないエルフの女性。事前に紹介アナウンスがあったが、驚く事に年齢は146歳。この世界のエルフは人間と同じ成長速度と聞いた、人間と同様に二十歳で成人になるが寿命は二倍以上で不老だと言う。もちろんフィークも老いは見えない。比較的薄い鎧とオッサンのような大剣を背負っている。
対してモロウは、フィークより二回りは小さい人間の男性、異名の通り朱色の服を着ていて、藍色のインナーと腕に巻いた何本もの綱が見え、凛とした顔立ちをしている。彼の着る服は鎧では無いため、魔素と化すことは無いらしい。腰には身の丈の半分はある刀を帯びている。
『それでは…』
二人が向かい合った所で司会が言葉を詰まらせた。闘技台の上に上がったフィークが大剣を捨てたのだ。その後も着ていた鎧を脱ぎ始め、全て脱いだ所で捨てた大剣へ手を伸ばした。
『あ!』
司会が叫んだ。同時に観客場でも騒めきが起こった。
「オイ、どうなってんだ!?フィークは大剣使いじゃ無かったのか?」
大剣を手に取ったフィークは、何を思ったかその一部を剥がした。だが、それで初めてそれの形ははっきり見えた。剥がされた一部は、どう見ても刀を納めた鞘に見えた。
「同じ格好してるぜ…あの二人」
誰かが言った。フィークは運営の方へ目を向けて口を開く。
「すまなかった、こう言う演出をしてみたかっただけだ。いつでも良いぞ」
向かい合う二人の人物は、どう見ても同じ素材の服を着ていた。着込みはモロウの方が多いが、着方も固定具も同じ物。恐らくはイデの国特有の戦闘装束だった。その出立は侍と忍びを足して割ったような雰囲気をしていた。始まる直前、二人は会話を始めた。
「如狼、君の名はよく聞いていました。私が身を引いて100年余りになる叉禅の技はどこまで磨かれているのだろうか」
俺の耳では判別出来ないが、周りの反応に変化があった。
「あれは、イデの言葉だぞ!…やっぱり何言ってるか分からん」
そんな観客をよそに二人は会話を続けていた。
「貴女の顔は幼少の時より道場で見てきました。まさかと思っていた所だったが、そのまさかであった」
モロウは目を閉じて自身の鞘に手を伸ばし、ゆっくりと光沢のある刀身をあらわにした。
「ふふっ、そうか。始めてくれ」
彼女は快く笑い、目を本部へ向けて言い放つ。
『あ、はい!では初め!』
俺しか分かってないだろう事実、それは同じ道場出身の者同士の戦いである事。これほど燃える試合は他に無かった、それほどこの試合は印象に残っていた。
初めにフィークが重心を傾け、高速で移動した。音もなく、少ない予備動作で緩く手に持つ刀を滑り込ませた。それに応えモロウも緩く持つ刀で太刀を弾き、同時に斬り返した。フィークは後方へステップして避け、またイデの言葉で会話をした。
「ふむ、腕は聞きしに勝る。君は花守では二等だったな?ならばこちらでは一等並の実力だな」
フィークは話しながら緩く手に持つ刀を揺らしてコツコツと歩いている。モロウはその場に止まり常に体を向けている。
「いえ、まだまだ甘いのです。いずれ師範となる身である故、常に背負った使命故に、負ける事は許されぬのだ」
固い事を言うモロウに対し、フィークは元から釣り上がった眉を更に吊り上がらせて言った。
「ふーむ…君、眉間の皺が多いな。もっと緩く行こうじゃないか」
会話が切れたと思えば既に火花が散っている。金属の耳を貫くような音がテンポよく響き続ける。互いが互いに拮抗した実力を持つがために、一太刀二太刀攻撃した後一太刀二太刀弾くの繰り返し。しかしどれも同じ軌道の攻撃は無く、弾くもの、先端にぶつけるもの、防御も真正面から受けたりするが、中には受け流しに近いものもある。これに観戦客は、事情は知りもしないが徐々に熱を帯びていった。そして今度はフィークが戦闘中に話し始めた。
「良い腕だ、お前は疾風の如き戦術だ。力無くして私の剣を弾くとは、根からの叉禅の申し子じゃな」
攻守が切り替わりモロウが返す。
「叉禅は元より技術のみの流派だった、儂がこうなるのも無理なかろうて」
フィークが後方へ飛んだのを見てモロウが追い、モロウが完全に攻めになった。それでもフィークの語りは止まなかった。
「君は速度の値が吹っ切れておると聞く。極めた叉禅の技、見たいぞ!」
今までとは違うカチンと言うような金属音が響くと、フィークが上へ跳ね体を捻っていた。モロウは素早く太刀を身へ寄せ、降り掛かる攻撃を弾き、続く二連も綺麗に弾く。俺に聞こえた音は鈍器で殴った時の音が一番近いと感じた。直後にはもう先ほどの様な攻防が繰り広げられていたが、分かりやすくフィークの戦闘法が変わっていた。近距離での打ち合いは無くなり、中距離以上で戦闘が続き、刀を振った捻りの後に追加で蹴りも入れるようになっていた。
(さっきの…蹴落としたのか?)
見ている者たちからは更に歓声が沸く。モロウはフィークのさらなる太刀と蹴りを弾きつつ、彼女に言葉をかける。
「先程の技、『脚術・蹴独楽』だな。それでこそ叉禅の骨頂よ」
フィークは細く笑み、そこからは剣と脚技を隙なく繰り出すようになった。蹴り上げと踵落としの連攻、太刀の後に斜めに蹴り上げ体を捻って蹴り下げる。空中で回し蹴り二連続の後に突き。後から後から続々と繰り出される技はバリエーションが尽きない。
(僧脚二連、袈裟罰点、空脚無連。どれも比較的隙のなく繋がる技。思った以上に攻めあぐねる)
責め立て続けるフィークに隙はなく、モロウは完全に防戦一方になってしまっていた。ある時モロウが逃げようとするも、フィークは事前に回り込みそれを阻止した。彼がどう足掻こうが逃げれはしなかった、絶妙な間合いを保ち続けるフィークに一矢報いる事も出来ない。
『残り2分を切りました!まだ両者一つも光球が割れていません。これは、今回初の長試合となってしまうのでしょうか』
そのアナウンスを聞いて二人の目は少々移ろいだ様に見えた。現在、フィークは足技を追加したは良いものの、決定打に欠けている。一方モロウは防ぎ切っているだけでこのままでは決着がつかない。流石に焦ったのか先にモロウに変化があった。
弾いた後の攻撃を必ずステップを挟んで行う様になったのだ。フィークは少し惑ったものの、すぐに適応し結果は変わらないままだった。それよりか行動パターンの減少によって簡単に行動を読まれ、逆に不利となっていた。
(叉禅の師範候補の考え、と言うよりかは、この男の考えている事が読めん)
それほど時間も経たずにその時が訪れる。フィークがモロウの太刀を弾いた時、左へ影が移った。彼女はそれを視界の端に確認すると、弾かれた太刀を素早く返し逆手に持ち、自身の後方へ突き立てた。観客含めそこには確かにモロウがいた事が確認でき、誰もが光球に刃が届いたのを見た。
しかし突き立てた刀を残してモロウの姿は無く、いつの間にかフィークの背後へ回っていた。モロウは視界の外から二つの光球を薙ぐように一太刀。だが既の所で防がれた、今までで最も大きな金属音を立てて。
「ふふっ、危ないな。実践では死んでいたかな」
フィークの言った通り、刀は彼女の左半身を切っていた。ギリギリと鳴っている刃は徐々に押し返され、体から刀が抜けた。
「あと数寸で光球は破壊できてた、惜しいな」
交えた刃はそのままにフィークがまた話し出す。そして二人はゼロ距離で向き合う形になった。
『後30秒です!時間外となればサドンデス!先に一つでも欠ければ終了とします!』
アナウンスが入った所でやっと最後の攻防が始まった。突然消えるように移動する様になったモロウ、フィークはそれに苦しみながらもタイミングを見ていた。それでもその口は動いてしまう。
「この技は見た事が無いな、100年の間に生まれたものか?まるで霧隠れ、目が上手く捉えてくれぬ」
モロウを目で追う事なくパターンを読むだけで襲い掛かる太刀を防いでいる。だが明らかにモロウの刃は光球までの距離を縮めていた。
「『霧臣』じゃ。今言うたとて、どうこうできる物ではない」
一太刀振るうとモロウは霧隠れのように視界から外れる。必ず刀と同じ方向へ移動するため幾分か読みやすいが、簡単に弾けるわけでは無い。あとコンマ数秒遅れていたら胸部の光球が破壊されてしまう。
『さて、ここで時間一杯。光球はどちらも無傷、サドンデスとなります』
ここで時間一杯、勝負はサドンデスに切り替わった。瞬間モロウが仕掛けた。フィークの一太刀を『霧臣』の応用で躱しながら跳躍した。頭上に見えたモロウの脚は折り畳まれ、彼女には次の攻撃が読めていた。
(『脚術・梟爪』、二連続の蹴り、勝負を急き過ぎだ)
自ずから空中という無防備な場所へ赴き繰り出す技、主に急襲として使う技であった。フィークは二回とも弾き、地に着く前に胸部の光球を破壊する算段だ。初弾を見事弾き、次弾を弾くために斬り返した。しかしそれはこの試合で初めて完全な空を切った。
(拍子をずらされたか)
次に来るだろう蹴りは想定より遅れていた。光球が破壊されぬよう少しだけ体を傾かせ、体にしか足が当たらぬようにした。光球を破壊させないためならそれで良かったのだが、それが逆手に取られ悪手となった。最後の瞬間、フィークに訪れたのは衝撃ではなく重さだった。
「踏んだ!」
「剣がすり抜けたぞ!」
フィークにとって想定外の攻撃によって体勢が崩れた。疲れ果てた体と、酷使し続け張り詰めた体幹は簡単に崩れ去る。前のめりに膝から崩れるフィーク、浮かんだモロウは彼女の首を掴み背後へ回り足をつけた。そのままモロウは刀を輝かせてガラ空きの背に突き立てる。
「詰みです」
フィークの胴を貫通したモロウの刃は、綺麗に二つの光球を捉えていた。刀を手放し体の力の抜けた彼女は、最後に満足そうな微笑みを浮かべていた。
『そこまで!勝者、モロウ!』
司会が決着のコールをした途端、これまでで一番大きな歓声が起こった。モロウの持つ刀は結界と共に消え去り、二人の初めに立っていた場所に再び現れた。フィークはゆらりと立ち上がるとモロウへ言った。
「完敗じゃな、旧い技ではちと足りんかったか」
その言葉にモロウがすかさず返した。
「いいえ、危なかった所です。長い貴女の腕により繰り出される太刀は油断など許されるはずは無く、洗練された脚技にも隙はなかった。『霧臣』をも使った全霊でやっと兆しが見えるのみだった」
二人は向き合ってほのぼのと話を続けていた。
「そうか…にしても、この領域の特性を利用したのは素直に脱帽だな」
その言葉で互いが装備を取りに戻ったが、直ぐに二人は横に並び、そのまま会話を続けて運営側の壁にあるドアの向こうへ消えて行った。その姿を見届けると、隣にいたケシュタルが口を開いた。
「蹴りを弾けていたのは一定の破壊力を持っているからであって、ただ落下しているだけの足は身体と認識されてすり抜けてしまったんだろうな」
うんうんと首を縦に振るこのおじさんは自分で言って自分で納得していた。
「ほんとにあの領域か結界か知らないけど、判定がよく分からない…」
俺はまだ理解が追いついていなかったから未だに頭を抱えていた。それにケシュタルが一言。
「その内感覚で分かるようになるさ」
そう言うものかと思って領域について考えるのは一旦辞めにした。ともあれ、面白いと思える試合はこれしか無く、後は全て圧倒的な差をつけ勝利する展開が続いた。あのウノン・カピトというパーティが著しく目立って無双していた。アーサー戦も含めどれも10秒以内で終わってしまっている。分かっていたかのような周りの反応も繰り返されるようになり、さっきの熱狂はどこへやらと思った程だった。そしてあっという間に決勝戦となっていた。
『東に立つは『氷天使』メル・クリオネア!西に立つは『戦子』スピット・ロヴェル・ヴォイルーゴ!それでは始め』
合図と共にメルが領域全体を氷で囲んだ。ツララの様な棘が内側を埋め尽くし、視界を遮っていた。彼女はその場から動かないスピットに氷の槍を数本生成し発射した。スピットは双剣でその槍を斬りつけ軌道を逸らした。最後の一本は両断され同時にスピットが駆け出した。更に氷の槍を放ち追撃をするメル、スピットは天井のツララに剣を突き立てそれを蹴り、次々に伝って彼女に近づいていった。氷の槍は徐々にスピットを掠める様になったが、スピットは気にも止めずに駆けていく。そして二人の距離が2メートルまで来た時、氷の槍がスピットに直撃した。胸の光球が破壊され、鎧も砕け散った。彼は吹っ飛んだが、すぐにまた駆け出した所から、やはり人体に影響は無いみたいだ。スピットはツララを剣の支え無しで駆け始め、メルは再び氷の槍で追いかけ今度は背面の光球を狙う。だが追った先に彼の姿は無く、スピットが姿を眩ました。直後ツララの一つが切って落とされ、見えた隙間からスピットが一直線にメルへ向かって行った。彼は透明な鎧に足を着けると、双剣で切り下げ胸部の光球も背部の光球も両断してみせた。
『そこまで!勝者、スピット・ロヴェル・ヴォイルーゴ!』
流石スピット、スピードも火力も桁違いだ、とケシュタル含め観戦客達は唸っている。それから放送はされなくなり、観客の声だけが行き来している。日もまだ高いが、どうやらこれで勇選会は終わりとなるようだ。そしてやっと十数分音沙汰の無かった運営から放送があった。
『ええ、これで勇者選抜会合のトーナメントを終了します。観客場の皆様は速やかな退場をお願いします。また、トーナメント参加者の皆様は…はい何です?』
放送をしている女性の声が引いて行き、そこで放送は一度切られ無音になった。ここにいる全員が足を止めて戸惑っていた、しかし場の混乱は徐々に観客の高揚に変わって行った。そして運営がもう一度放送を始めた。
『ただいま、試合にて第三位の成績を残した英雄ターラ・ブルーニー様が、エキシビションの申し出を致しました』
この司会の発言で、観客達は一気にどよめいた。まだ勇選会は続くらしい。
「今度は何を始めるんだ?」
「こりゃ負けた相手に再戦を申し込む時によく使われるやつだ、だが奴がやる意味はほとんどないはずなんだがなぁ」
俺の呟きに反応してケシュタルが説明してくれた。つまりは下克上ができるシステムだ、その用途に加えて戦いたい相手がいたらこの会場にいる人同士でなら戦うことができるという。これは非参加者が自身の強さを誇示し、少しでも自分が勇者になれる様にする為だ。この場合ターラは三位で上の二人も同じパーティの人、自分が勇者になる事は約束された様な物、だとすれば一体何がしたいのだろう。
『ええ…大変驚くべき事ですが、ブルーニー様の所望する相手は三等英雄であるヒカル様です』
「ん?」
『おそらく観戦場に居られると思いますが、闘技台に上がって頂きたいと思います』
その放送は確かに言った。あの怖い仮面の人が戦いたい相手と言うのは自分だと。まだ現状を理解出来ない頭では体を動かすことは出来なかった。そんな折ターラが台上に現れた、何も言わずただ俺を見下ろしている。その目は仮面越しでも鋭さが分かるほどにギラついていた。これは現実だ、それを受け止め深く息をつき、俺は覚悟を決めた。
「おい、まさかお前じゃ…」
ケシュタルが言うのを聞き流し歩き出した、ターラと反対側の階段から闘技台へ上がる。
「うわぁ、えらいことになったぜ…」
何も言葉を発さぬまま俺はターラと睨み合った。奴は背に負っていた剣をゆっくりと手に取りながら口を開いた。
「覚えはあるか?ネヴェンデストを葬った事を。私はその時からお前を追っていた」
オルミボスの時の食人植物の事だ、あの痕を見られたのだろう。
「ここまで来てようやく分かった、お前は使える。当初の目的とは外れるが、ここで一つ手合わせ願う」
表情が全く出ない故に何を考えているか分からない。だが奴の声色は、敵とも味方とも言い難い中立的な抑揚だった。一段と騒めく観客達を他所に、二人は静かに見つめ合う。
「…分かりました。バレてるなら仕方ないですね」
やってくれるよ、このへっぽこ爬虫類。