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使役している気でいる魔女を、今日も愛でる。

作者: のん


俺はロイス。黒猫だが魔力のある人間にもなれる猫だ。

魔物よりも魔獣という方が近いかもしれない。とにかく魔力はあるし、魔法も使える。色々と面倒くさいのに絡まれるので、普段は黒猫としてのんびり暮らしていた。


そんな時、魔女の話を聞いた。

魔女というのはこの世界でも珍しくないそうだが、この街に住む魔女の見習いは大層ポンコツだそうだ。使役されるはずの動物達は、絶対にそんな魔女はお断りだと口々にいう。


そんなにポンコツなのか・・と、逆に興味を持って、その魔女の家を見に行くと、玄関で真っ黒な髪に、瞳、そして真っ黒なワンピースを着ている少女が座り込んでいた。


自分みたいに真っ黒だ・・。

そう思って、顔をよく見たら驚いた。

前世で車に轢かれそうになった自分を庇って死んだ女の子だ!唐突に思い出した。前世でも、今世でも縁があるんだな・・そう思ったら興味を持った。


どうせ退屈な毎日だ・・、5年くらい暇を潰すつもりだった。


「・・・・貴方がリトさんですか?私、ロイスと申します。よろしかったら貴方と修行いたします」


そう話しながら、リトの前へ歩いて話すと、目がキラキラ光ってこっちを見る。思わずドキリとする。


「本当に・・・あ・・私、ポンコツだけど、いい?」

「はい、一緒に練習しましょう」

「ロイス・・・!!!ありがとう、すっごく嬉しい!!よろしくね!あ、お母さんに話して早速修行に行きたいの?いいかな?」

「はい、貴方のしたいように」


魔女なのに、子犬のようだと思って、思わず笑うけれど・・、猫の俺の表情はわかりづらい。リトは、突然俺を持ち上げて抱きしめる。またドキリとした。


「ありがとうロイス・・」


そう言って、頬にキスするから・・ドキリどころじゃなくなった。

なんだこいつ・・こんなに距離感近くて大丈夫なのか?逆に心配になった。


俺を自分の母親に合わせて、「一緒に修行する!!」と宣言するものの、住む場所も、行く場所も決まっていないという・・。頭が痛い・・。確かにポンコツだ。

リトの母親は、俺をただの黒猫でないとすぐに気付いて、それとなくリトに気をつけるよう話していたが、全く聞いてない・・、どこに行きたい?どんなものが好き?と、嬉しくて全く聞いてない。


「話を聞け!!!」


と、怒鳴られてる姿を、一緒にいる3日だけで10回以上は聞いた。


住む場所をなかなか探せないリトを置いて、こっそり探しに行った。

人間になって、場所を探し出しすぐ契約して、リトの元へ戻って報告すると、嬉しそうな笑顔で俺を見る。


「造作もないです」


そういうと、ずっと俺を褒めちぎるリトにまたドキリとする。

・・こいつ、使役した猫に対する対応・・わかってるのか?魔女としての基本的な勉強は大丈夫なのだろうかと心配になる。


それから少しして、荷物をまとめて箒で引っ越し場所まで飛んで行った。・・下手くそすぎて、酔った。仕方ないので、魔法で飛ぶのを手伝うと、リトは嬉しそうに笑う。


「ロイスはすごいね!!魔法も使える猫なんだ!」

「・・リトは、もう少し頑張りましょうね?」

「うん、まぁロイスがいるから心強いよ!」


・・嬉しそうにニコニコ笑うから・・、なんだかうまく言葉が出てこなくなる・・ポンコツの魔女のくせに。


そうして、古い一軒家を借りてそこで魔女修行を始めた。

・・本当に魔法はポンコツで、借り物の家を壊しそうなので、俺は家を魔法で補強した。破壊の力は誰よりもあるのに、直す力がほとんどない・・。魔女というか、魔法使いの方があっていそうだ・・。


だが、家事は得意だった。

ご飯はどんどん美味しくなるし、掃除は手早く終えられる。

ついでのように、人に親切にし、色々作っては喜ばれる。


魔女といえば、自分の好き勝手に生きている奴が多いんだが、リトの家はどうも違っていたらしい。


魔法はポンコツなのに、いつだって人のために何かをする。

喜んでもらって、嬉しそうに微笑む。


俺にもクッションやら、小物を作ってはプレゼントする。


「・・貴方は家事はちゃんとできて素敵ですね」

「え?そう?」


「・・人が喜ぶ事を、損得なしにできますし・・」

「そういうものじゃないの?」


「・・・・そんな貴方だから、私は、結構好きです・・・」


「えへへ〜〜、ありがとう!私もロイス好きだよ!!」

「・・・・そういった感情とは、少し違いますけれど・・・」


リトという魔女は、恋愛面もポンコツであった。

何度か、上記のような告白めいたセリフを言っても、何も感じないらしい。こちらが急に頭を撫でられたり、頬にキスされて、何度ドキドキさせられたか・・。


「シャツをおじいちゃんに作ったら、喜ばれたんだ!」


ものすごく嬉しそうに話すから、俺も着てみたい・・そう思って、


「私も人間の姿になれますよ?」

「へ〜、便利だね!」


・・・・とても大事な事を伝えたはずなのに、何一つ伝わっていない・・。軽やかにスルーされて、目が座った・・。しかし、スルーされてかえって都合が良かった。


リトを好ましく思う男が出てくれば、気付かれる前に人間になって追い払う。こいつは俺の魔女だ。リトは全く気が付かず、猫に戻った俺をいつものように頭を撫でる。触る手つきが優しくて・・、俺は喉を鳴らす。俺を撫でるのは、リトだけでいいし、他のやつに触れるのは許さない。


それでも、5年経っても向上しないリトの魔女修行。

逆に考えれば、すごいな・・と思う。


魔法薬をどす黒い液体に作れるなんて、ある意味奇跡だ。

すぐ直したら、感動された。

天井に、ものすごい大きな穴を作った時すぐに直したら、感謝されてギュウッと抱きしめられた。また失敗してもいいかな・・と、少し思った。


ずっと、俺はリトの使役した猫として一緒にいたい・・

そう思っていたのに、



「あと少しで18なのに・・。もし魔女になれなかったら、ロイスは次の人を見つけてね・・」



ショックだった。


そんなに・・俺はそばにいる価値がないのか?

一緒に・・、ただ一緒にいるのも?

言葉が・・うまく出てこない。


「私は必要ないと?」


知らず、言葉が震える・・。

胸がざっくりと切られた感じだった・・・。



「・・・・それだけ優秀な猫なら、私じゃなくても・・」



カッとなって、尻尾でバシッと床を叩く。



「もう結構!」



これだけ好きと言っても、気が付かない・・それどころか、全く対象にもなっていないことにイラだつ。今すぐ人間になって、このまま自分のものにしてしまおうか・・。感情のままに動きそうになって、必死に自分を押さえつけた。

それは、どちらも幸せにならない・・。



次の朝、目を腫らして起きてきたリトに驚く。



・・リトのことだ・・、落ち込んで泣いたのだろう。

泣いて欲しくない、笑って欲しい、最初に望んでいたのはそんな事だったのに。リトの顔をいつものように舐めると、リトは小さく笑う。


誤魔化すように笑うリトに、


「貴方は、一生懸命すぎるから心配です」


そう話すと申し訳なさそうに笑う。

・・・違う、そんな顔をして欲しいんじゃない。ただ、いつものように笑顔で笑って欲しいんだ。そんな言葉さえも出てこない自分が不甲斐ない。


きっと18になったら、パートナーを解消しようというに違いない。

5年も一緒にいれば流石にわかる。

もちろんそれを許す気はない。


リトの18の誕生日の夜、部屋で案の定・・


「ロイス・・、あのね私は魔女としては半人前だから、ロイスは別の子を紹介するから、もう・・パートナーを解消しよう!!!こんな情けない私と5年もいてくれて・・本当にありがとう!!」


本当に予想通りの言葉に、冷静に返す。


「魔法薬も作れなくて、すぐに物をあちこち飛ばす魔女の分際で?」

「言葉もございません!!」

「ご飯は美味しいし、掃除は行き届いてるけど、ポンコツの分際で?」

「うん?多少のお褒めありがたき幸せ!!!」

「私がどれだけ貴方が好きだと表現してもまったく気付かない分際で?」



「え?!ちょっと待って!ストップ!!!今、一言なのに情報過多だったよ?!!」


当たり前だ。

何度言ってもお前は全く聞いてないからだ。


人間の姿になって、初めてリトの前に立った。

少し緊張しているのがバレないといいが・・。じっと俺と同じ真っ黒なリトの瞳をみる。



「・・・え?どなたでしたっけ?」


目の前で変身したんだが・・?


「ロイスですが」

「あれ?人間になれたっけ?」

「何度か話しましたが、貴方は聞いてませんでした」

「え?!そうなの、ご、ごめんね・・・」


そうだ・・・、何度か話してなんなら変身しましょうか?というが、その度に目の前の魔法薬を爆発させてたから・・きっと何一つ頭に入っていない。


過去世で縁があったから、興味本位で会いにきたのに、こんなポンコツなくせに・・いつも人に優しくて、俺を触る時に嬉しそうに笑うリトにすっかり心を奪われるなんて思わなかった・・。


もう一人前の年になったし・・、我慢をやめた。

リトの柔らかい頬を、指でそっと撫でる。

撫でる指先が熱を持ったように熱い。


こいつは俺のだ。

この頬も、柔かく撫でるこの手も、この瞳も・・。


「・・・貴方に恋をしたので、責任を取って頂きます」

「せ、せ、責任?!」


「最初に恋人になって頂き、その後妻になって頂きます」

「え?!なんで???!!!」


・・このポンコツは、俺の言う事を聞いてたのか・・?思わずため息が出る。


でも、このポンコツな魔女を好きなんだ・・、どうしようもなく。

綺麗な形の額にそっとキスして、しっかり覚えてもらえるように言葉を囁く。



「・・・・貴方が好きだからです」



少し・・いや、だいぶ頬が熱い。

俺を見ろ、意識しろ、そんな風にじっと見つめると、驚いて椅子からリトは盛大に落っこちた。


・・・こいつは、本当に・・。

全く恋愛に耐性がないのをいいことに、追い詰めていく。だって、これは俺のだ。そう決めたのだ。真っ赤になっているリトが可愛くて、そっと椅子から立たせる。



「返事は、はい・・でいいですよね?」



まぁ、「いいえ」なんて聞く気はさらさらないが・・、ジィッとリトを見つめると真っ赤になって頷くから・・愛しい気持ちが止まらない。ようやく捕まえた俺の魔女。


ゆっくりキスをすると、体が固まるリトにこれ幸いと、これは俺の魔女だとばかりに何度か更にキスをした。



そんなわけで、俺はリトの膝の上で今日も眠る。

これは俺のだから・・とばかりに。



リトに耳を撫でられ、うっとりする。

あとで、俺も同じように撫でよう・・そう思いつつ。



使役している気でいる魔女を、俺は今日も愛でる。





魔女として使役している黒猫に愛された話・・聞く?の、ロイス君視点です。

夏休みだし、甘いよ!!!って感じの仕上がりです。

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