親殺し
『アカネの福祉ワーカーでしたか。長年行方不明と聞いてまして、そうですか、それは大変でしたね。』
『ええ、少しニホンにお邪魔して薬の研究をしてましたの。』
『いや、それにしてもなんとお礼を申し上げれば良いやら、、こうして無事が確認できただけでも良かったです。』
お父さん、、違う、コイツが、、
あれ、体が動かない。
『ええ。でも残念でしたわ、私の力不足でこのような状態で見つかって。』
『何をおっしゃいますやら。アカネと同じような状態とはいえ命あるのがせめてもの救い。これ以上何を望みますか。』
お、とうさん。
『クレハが無事にこの国に帰ってきてくれて嬉しいですよ。カナエさん。』
♦︎
『アカネ、クレハの体を拭いたら次はお前の番だからな。』
お父さんが私のお世話まで、、なんで私の体は動かないの?
『クレハ、俺はお前が帰ってきてくれただけでも嬉しいんだよ。ふふふ、、』
お父さん、泣いて、る?
『なあ、お前達母娘は、なんだろうなあ。使命感が強すぎたのかなあ。うう、、くう、、。』
からださえうごけば。
あのおんなになにかされたはずだ、
きおくがあいまいだ。くそ、しんじゅくでまちあわせたきおくいこうのきおくがあいまいだ。
『そうだ、クレハ。カナエさんからね、薬をいただいたよ。少しは体も楽になる薬。』
おとうさん、その、おくすりは、だいじょうぶかな。あのくそおんながわたしたくすりでしょ、
のませないでよ、ああ、やめてよ。
ああ、おくすり。
いしきがなくなるなあ。
♦︎
気がついたらあたり一面が血の海だった。
手にしているのは、包丁。
体は、動く。不便なく、極めて滑らかに動く。
このまま、あいつを、、
あいつ?あいつって誰だ?よく思い出せない。
ところで、なぜ血の海?誰の血だろう。
ここは、実家?
あそこの車椅子で顔をぐちゃぐちゃにされているのは誰だろうか?
その隣にいる、男の人も顔がぐちゃぐちゃだ。
何かこう刺されて、皮膚を抉られて鼻も切り落とされた肉の塊。
ああ、血が吸いたい。
帯びただしい血の海を前に吸血鬼本来の欲求が湧き上がる。そりゃそうだ。レプリカなんてものは
数年たてば、治るものだ。自然治癒する。
それを初吸いで強烈なトラウマを与え、お前は血が吸えない吸血鬼だ、というインプットをし、レプリカに仕立て上げる。
あの初吸いの血液パックなんて、国が支給するものだからな。結局仕組まれていた、という事か。
しかし、この死体は誰だ?私はなんで、包丁を持っている?
確か父さんが薬を飲ませたら、急に、、、。
『う、頭痛が、、。』
♦︎
『く、クレハ動けるようになったのか!ああよかった。何をする、クレハ。やめろおおお!お前の母さんだぞ!』
うるさい。
『く、レハ。なんで、、』
うるさい。
『なんで、、こう、な、、っ』
しゃべるな。
私は父の喉仏を包丁で掻っ捌いていた。




