八方塞がり
レプリカ解放軍の団長息子の検死を申し出たが、
断られてしまった。
従軍医師の仕事ではない、同胞の死は我々のみが真実を知る、という謎理論が理由だ。
そんなんだから、解放も進まないだろうと思った。
先日の状況を鑑みるに、
自殺する、とは思えない。子どもと奥さんのことを考えている余裕はまだあったし、経験上まだまだ自殺へのステップにはほど遠いと、メンタルケア専門として見立てた。
ただどう考えても、自殺にしか見えない状況だった。
『自殺したくないけど、自殺せざるを得ない、みたいな感じかしら。』
クレハは早朝の診察室でコーヒーを啜りながら呟く。
ただこんな推理じゃあ、何も進まない。決定的な証拠が欲しい。
レプリカ解放軍の領地に入っても、進展がない。そのことに焦る。
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『次の人どうぞー。』
女性と子どもが入ってきた。
『どうされました?』
『はい、実は夫が自殺しまして、、その仕事は大変そうでしたが、その自殺するように思えなくて、、』
『なるほど。旦那様が自殺なんてと。』
『はい、夫は軍で働いていて、実は今朝首吊りで見つかった遺体でして、、』
ああこの人か、軍団長の息子の奥さんというのは。
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ひとしきり、診察が終わった。
『ふー。今日も忙しかったな。』
『おう、景気良さそうだな。』
テツノスケが入ってきた。
『テツ。実はね。』
軍団長の息子の件を話した。
『ふむー。それは、面白いミステリーだな。』
『ミステリーよね、こんな仮説。』
『ただな、まあなんというか麻薬みたいなものならそういう誘導はできるんじゃないか。』
『薬ね。それすらミステリーよ。証拠がない。』
『証拠か。もうすこし入り込めればいいんだがなあ。こんな前線にいてもいつまで経っても進展がないな。』
『入り込むね。何かツテがあればいいんだけども。』
一介の医師がそんな暗部に踏み込めるとは思えない。
もはや、打つ手なし、と思っているとチャンスは巡ってくるものである。
レプリカ解放軍が吸血鬼派の幹部を捕縛したというニュースが流れた。
『捕縛ねえ。レプリカ解放軍も知らない事があるのかしら。』
診察前に部屋でテレビでそんなニュースを見てると、部屋がノックされた。
『はい?』
目の前には軍服をきた髭面の男性が1人。サングラスをしており、なんかロックな感じだ。
『キミがクレハ君か。実は頼みがあってきたのだよ。吸血鬼派の幹部を捕縛されたのは知ってるね。レプリカの解放に立ちあったキミの腕を見込んでお願いしたい。その幹部の取り調べに立ちあってくれ。幹部クラスだから、あまり手荒なことはしたくないのでね、メンタルケアの力を貸して欲しい。』
なるほど。それなりの実績だったということか。
ということで、早々に本部に向かうこととなった。




