クレハの心
『うー、いたいいい、、』
『あ、あ、ああああああああ!』
北方の医療用テント村で、ケガ人が多数いて私達は治療にあたっていた。
中立国の北方にあたるのだが、ここは紛争地域に指定されており、近くの村はよく巻き込まれる。そんな村は捨て置いて、逃げればいいもののやはり郷里は捨てられないのが、心情なのか定住者はいる。この地区は中立派なので、レプリカも吸血鬼も混ざっているが、レプリカが比較的多い。
『ショウ!こっちの人の手当てをお願い!』
『み、みなさんこ、ちらにも多数。います。』
『テツノスケ!手伝ってくれ!』
圧倒的に医療人材が不足している。従軍医師は正直、紛争にも巻き込まれるので、万年人出が足りていない。その分報酬も高いのだが。
私達はチームとしては、なかなかいい構成である。基本、救急なので、皆オールラウンダーだが
ショウとテツノスケが外科医で、レイコが整形、
ミャーコは感染症や麻酔を得意だし、私とジュンは内科とメンタルケアに精通している。
それぞれの仕事をこなしていく。
それでも、ケガ人や病人はどんどん運びこまれてくる。そうすると、トリアージをせざるを得ない。
『お医者さん!』
小さな子が、話しかけてくる。
『お母さんの呼吸が、その苦しそうで、血を吐いているんだ!』
優先度のタグを見る。
『助けられない。』を意味していた。血を吐き、震えが止まらない感じだった。
『クレハ、仕方ない。』
テツノスケがやってくる。
クレハは子どもから視線を外し、他のケガ人に向かう。
『お医者さん、お医者さん!お母さん、お母さん。目を開けてよ!お母さん!』
命の選別。残酷だが、より多くを助けなくてはいけない。それが、従軍医師の実績と来年度の予算に直結すると、事務局長は行っていた。
それは、そうよね。クレハは思う。この人達は確かに何も悪くない。でも、まさか自分が、というバイアスがかかり、結果この村にいたからこんな目にあった。その選択がこの事態を招いたのだ。
私達は医師だから助けるが、需要に供給が追いついてない。そこは私の仕事ではないのだ。
加えて彼らは無料で救急サービスを利用しているようなものだ。
ただし、こういう争いがあり、巻き込まれる人がいるから、従軍医師という稼業が存在するからパフォーマンスは高くしなくてはいけないし、出来うる最高の医療サービスの提供はしなくてはならない。
『だから1人でも多く助ける為にこれは必要。』
そのくらいじゃないと従軍医師は無理だろう。
1人1人に手厚くサービスを提供したいなら従軍医師をやるべきでない。
というのは少し冷たいかもしれない。
ただ初出動にしては、あまりにも落ちついている私はたぶんそんな感じなのかもしれない。
♦︎
少し現場が落ちついた。
ショウが近づく。
『大丈夫か?初出動、大変だよね。いきなり命の選別は、、』
缶コーヒーが渡される。
『ありがとうございます。』
プルタブを開け、コーヒーをすする。
『気分は大丈夫?』
『ありがとうございます、ショウ先輩。できうることはできたと思います。この後は?』
『君とジュンはメンタルケアでしばらここに残る感じかな。でもね、ジュンにはちょっと気をつけて欲しいんだ。』
『というと?』
ショウはしばらくは沈黙の後にポツリと伝える。
『あいつの担当する患者、廃人になったり、かジュンに依存するケースが多いんだ。』