ママと一緒
アカネとクレハは、誕生日プレゼントを買う為に首都に買い物に来ていた。
外出禁止令がめずらしく解けた日であった。
ただ外出抑制対策として、外出は血縁者のみで3人以下と、テロ対策的なものは実装した上であった。ショウイチは相変わらず警察の仕事だ。警察署も建物として持っておくと、標的にされかねない為、拠点の分散と拠点の非開示により警察組織をなんとか保っていた。しかしながら訓練施設や武器の保管、さらに警察組織が民衆からは見えないということで、いっそう治安は悪くなるなと、何かあってからしか対応できないという対症療法的な形でしか組織運営が成立しなくなっていた。
当然、民衆は自衛手段を持つことになる。アカネもポケットに拳銃を忍ばせながらの買い物だ。
『ママー!クレープ食べようよー!』
『はいはい、どれがいいの?クレハ。』
クレハは買ったクレープを鼻に生クリームをつけながら食べる。
『落ちついて食べなさいな。クレープは逃げないんだから。』
アカネはクレハの鼻をふく。アカネはクレハを久しぶりに首都に連れてきて感じた。この子達にとっては非常事態が日常と化してしまった。自分も凄惨な青春を送ったが、この子達は、日常事態が、殺伐としたものなのだ。レプリカの血が流れている限り差別はあるが、出歩くのすら憚られるし、命に関わる、そういったレベルでこの国は荒れてしまったのか。
『ママー!デパートで、おもちゃ見たい。』
『はいはい、じゃあいきましょうね。』
クレハの言葉で我に帰る。クレハはこの大変な時代でも無邪気に今この瞬間を楽しむのに一生懸命だ。
『クレハを見習わないとな。』
クレハの手を引いてデパートに入る。
おもちゃコーナーで何だか難しい顔をするクレハ。
『クレハ、どうしたの。何かあった?』
アカネは声をかける。
『ママ、欲しいものがいっぱいだけど、あんまり贅沢できないよね。パパも給料あるけど、お国が大変だから給料減ってるんだよね。だからどれがいいか迷っているの。』
ショウイチから吹き込まれたのだろう。たぶん、前に出かけた時にクレハがいろいろねだるものだから、、、
『シーっ!恥ずかしいから静かにね!今日は特別2つ買ってあげるわ!』
この戦乱で経済活動も停滞気味だ。ショウイチは国から給料が出てるが、それも民衆の税金から捻出されている。確かに家計簿を見ても、戦乱の激しさが増すにつれて給料は減っている状況だ。とはいえ国の機関だからこそ、給料がゼロということはない点は、会社勤めの人に比べると恵まれている。
という事情があったとしても街中で我が子にそんな話をされるのはなんだか、気恥ずかしい。ショウイチが今度帰ってきたら問い詰めることにする。
クレハは好きな人形を2つ買ってもらい、ご満悦だ。もしかしたらクレハ、同じ手を一度使ってないか?これもショウイチに問い詰めることにした。
買い物を済ませて、クレハの好きなハンバーガーチェーンで食事をする。
『ママなんか機嫌悪いー?』
『なんでもありません。食事中は静かに食べましょう。』
なんだか、クレハの方が大人だ。したたかさは自分に似ているが、大人な思考はショウイチに似たのか。
クレハはアカネの顔をのぞきこむ。
『ママ、ポテト食べる?』
我が子に機嫌を取ってもらう。なんださ怒りを通り越した。
『ああもう、クレハちゃん!食後に食べたいものはあるかしら?』
『あんみつ食べたーい!』
クレハはしたたかなのだった。
アカネはクレハとテラスがある甘味処で、
あんみつを食べる。首都全体が見渡せるアカネのお気に入りだ。
『ママ、これ食べたら帰ろーか。疲れちゃった。』
『そうねえ。』
ふと、少し遠くにある、庁舎が目に入った。
瞬間、庁舎が爆発した。
『緊急警報!緊急警報!市民の皆様は、急いで近くのシェルターに避難してください!繰り返します。』
『クレハ!逃げるわよ!』
『わかったよ!シェルター行くの?』
『街を出るわ!急いで!』
シェルターはレプリカだと判明するとそこで暴力沙汰に巻き込まれるケースもある。
アカネは止めていた、バイクにクレハを抱えて首都を抜けていった。




