幸せな時間
『なんで、私が解放軍からオファーが来たのかしら?』
『あなたはレプリカ街の火災の生き残りだ。それに、病院立て篭もりにも深く関係している。』
『それで?』
『レプリカの象徴なんです。差別に負けずに生き抜いてきた人として。あなたが1人我が軍に入っていただければ、』
『レプリカ解放軍の士気があがる、でしょ?はじめてじゃないのよね、誘われるのは。』
『では、なぜ、、お受けいただけないのですか?吸血鬼が恋人だから!?』
『違うわよ。憎しみは連鎖するし。ライの動機はよくわからないけど、結果そうなった。それにね。』
『それに?』
『私、子どもが出来たの。子どもを育てて、守ることが第一になったから。』
解放軍一同は目を丸くする。
『だから、あなた達のお仲間に伝えて。レプリカのカリスマはただの子煩悩だって。残念だけど。』
口から出まかせでない。サトウとの子どもだ。
『だからね、あなた達はあなた達で戦ってちょうだいな。』
アカネはその場を去っていった。
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『なあ、アカネ。』
『なあに、サトウさん。』
『同じ名字になるんだから、いいかげん、名前でよんでくれよ。』
『確かにそうね、ショウイチさん。』
アカネとショウイチは、ささやかな挙式を済ませ、夫婦になった。もうすぐ子どもも産まれる。
挙式にはキミシマとソノエとソノエの施設の子ども達、施設長に参列してもらった。ご時世を考えて、最小限の挙式にした。挙式中に、レプリカ反対派はレプリカ解放軍に攻め込まれても厄介だからだ。
『アカネお姉ちゃん、おめでとう!!』
『わああ!お姉ちゃん、キレイ!』
アカネはささやかながら、祝福を受けた。人生で祝福を受けたことはあっただろうか。恨まれたり憎まれたりしたことはよくあったが、こんな最良の日を自分が迎えることが出来るとは思わなかった。
『ショウイチさん、私と夫婦になってくれてありがとう。こんな紛い物と一緒になってくれて。』
『アカネがレプリカだろうが関係ないさ。俺が一緒になりたい人と一緒になっただけだよ。』
挙式を終えて、アカネ達は街のハズレにひっそりと一軒家を建てた。やはり、何かと街だと目立ってしまうからだ。レプリカと吸血鬼の夫婦もそうだし、その子もしかりだ。これは、アカネからの提案だった。ショウイチはそんなに気にすることはないと伝えたが、自然が多い方が子育てにはいいということもあり、ひっそりと暮らすことにした。
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時は流れる。家を建てて5年が経った。
『ママー!早く海でお魚捕まえに行こうよー!』
『こらまちなさい!クレハ!海に入る前に、お片付けしなさい!』
アカネとショウイチ、そして長女のクレハ。
すでに5年が経っていたが、世間ではレプリカと吸血鬼の争いは日に日に激化している。そんな中3人は人目をさけて暮らしてた。
5年経つも、砂場町跡は復興せず、ガレキ、廃墟だらけになっていて治安がますます悪くなっている。砂場町はなくなったものの、首都にあるほんの1つの町だったので、不安定ながらも世の中は動いていた。
ささやかな幸せも束の間である。
首都の庁舎の1つで大爆発が起きたのは、クレハの5歳の誕生日の日だった。




