恋心
『お先に失礼します。』
アカネは金曜日の勤務を終え、オカベのバーに向かっていた。
ここ数週間いろいろあったが、日常もうまくまわしていかないといけない。
『仕事があるだけ恵まれているか。』
ライとはソノエの件があってからは連絡をとっていない。会いたくないわけではないのだが、あったら自分もソノエの事を忘れてしまいそうな気がして、会うのが怖い。だったら距離を取ろうと言うのが、アカネのロジックだ。
砂場町に着く。
見たことある顔と出会った。
『サトウさん。お仕事ご苦労様です。』
『ああ、アカネさん華金ですかな??』
『ええ、いろいろあったのでちょっとリフレッシュをと思いまして。』
『そうですよね。ぜひ楽しんでください。最近、この辺も物騒ですから、何かあればご連絡ください。』
サトウはアカネの瞳を真っ直ぐ見て、伝える。
アカネはきょとんとする。
持っていたバックを両手で後ろに持ちながら、
少し身をかがめて上目遣いでサトウに悪戯っぽく伝える。
『その時は、私を守ってくださいね、サトウさん。』
サトウは少したじろぐ。
『そ、それが市民を守る私の勤めですから!それでは。』
慌てて、サトウはその場を立ち去る。
アカネはその様子を見た。少し経って、顔が赤くなる。
『私、なんてことを。』
サトウは刑事なのだ。だから、アカネ自身の証言も邪険にせず、1証言として参考にするし、市民を守るのは警察の仕事である。でも、、、、
『なんだか、ああいう真っ直ぐな感じな人、はじめてなんだよね、、、、』
アカネは消え入りそうな声でつぶやいた。
♦︎
オカベの店に着く。
『あれ、休みか。かき入れどきなのに。』
珍しくオカベの店が休みだ。台風の時すら開けていたのに。
『どうしようかなあ。。。』
アカネは彷徨う。
なんだか寂しいな。また1人だ、誰も私の側にはいない。まるで世界で1人きりになってしまったかのような感覚だ。ふらふら歩いていると、男3人組のグループが話かけてくる。
『はーい、お姉ちゃん1人かな?俺らと飲もうよー。』
『奢ってあげるからさ。』
ナンパか。うざい。どうせ、行きずりだ。タクトのように品性を感じないし、下心しか見えない。
『ごめんね、ちょっと約束あるからさ。』
断って去ろうとする。
『いやいや、ずっとふらふらしてたじゃん。暇なんでしょ?』
『奢ってあげるからさ。』
うるさい。
うるさい。
うるさい。
うるさい。
うるさい。
『彼女、社会人?なんかいいねえ、くたびれたOLさんは俺らが癒すよ。』
うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい
『うるさい。』
いつの間に声に出ていた。
『んだとこのアマ!調子に乗りやがって!!』
アカネは路地裏に連れ込まれた。
『おとなしくしろ、このっ!』
男の1人がスタンガンを取り出した。
アカネはかつてのシュンによる、いじめを思い出した。
『いや、いやああああああああああああああああ!』
『うるせえ、このアマ!』
その時だった。
『お前ら、何をしている!警察だ!』
『ヤベ!ズラかるぞ!』
アカネは朦朧とする中、声の方を向く。
サトウだった。
『アカネさん、アカネさん!大丈夫ですか!』
『ああああああああああああああああああああ!』
嫌だ、見ないで。サトウさんに、レプリカだってこと、紛い物だってバレたくない、、、
次の瞬間、アカネは嘔吐した。