惨劇の始まり
パラレルワールドの概念はなんとなく知っていた。今振り返ると、一度だけ飲み屋で一緒に飲んだ男性に打ち明けることではなかったのかもしれない。
でも、私にはすでに仲間も友達もいなかったから
すがるのは目の前にいる飲み屋で知り合った行きずりの男性に身を任せるしかなかったー
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『アカネさん、ソノエさんに会いたいですか?』
『はい、会いたい。5年の空白を埋めたい。私にはソノエしかいないんだもの。』
『私もお手伝いしましょう。今度、私のオフィスに遊びに来てください。実は私、セミナー業もしているんですが、こういった活動もしているんです。』
名刺には、『一般社団法人行方不明者捜索連合会』と書かれている。
『結構、警察が動いてくれない案件って多いと思うんです。だから団体を立ち上げて人助けをね。』
その時のアカネには、救いの手だったのだろう。
次の休みに早速、タクトのオフィスに訪問することになった。
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オフィスは、砂場町の高層ビルだった。アカネは緊張しながらもビルに入った。1階にはタクトがすでにいた。
『アカネさん、お休みの日にありがとう。今日はあなたにとって最良の日になると思います。オフィスのような堅苦しいところより、近くのホテルのスイートルームにメンバーがお待ちしています。そちらでミーティングしましょう。』
オフィス前にはリムジンが止まっていた。
アカネは初めて乗るリムジンとタクトのいつもと違ういでたちに一種の催眠状態に入ったような感覚になりほうけていた。
ホテルにつく。
『ここって、、』
『ええ、ご存知のホテルです。VIPもよく使っていますね。最高のミーティングは最高の場所で行わないと、最高の結果にはつながりませんから。』
スイートルームに到着する。
中に入ると、アカネと同い年くらいの男女が数人。
『アカネさん、ようこそ。』
アカネはソファに通される。タクトと対面した。
『アカネさん、何か飲まれますか?』
『じゃあ、アイスコーヒーでも。』
アイスコーヒーが運ばれてくる。一口つける。
雰囲気に呑まれているからか、絶品の一品と言った味わいを感じる。
『アカネさん、あなたにはかなえたい想いがある。』
『はい。』
『それは、心のそこから望んでいますか?』
『はい。』
『休みの日を使っても、命をかけたい事ですか?』
『はい。』
『あなたはその目標のためにはいかなる苦労や犠牲も厭わない?』
『はい。』
『目標の為なら多少のコストも厭わない?』
『はい。』
『僕たちは、あなたの為にいかなる協力も惜しまない。なぜなら仲間だから。ただこの世はギブアンドテイクだ。私達はあなたの目標のお手伝いに労力を惜しまない。あなたは僕達にどんなコミットをしてくれますか?』
アカネは考える。こういう時は何ができますか?と聞いてはダメだ。
『あなた達が欲するものは何ですか?』
『うん、やっぱりアカネさんは見込んだ通りの賢い女性だ、、僕らは捜索にかかるコストさえあればいい。毎月10万円、お支払いいただければ結構。ただ、最初の1か月は無料でいいですよ。』
アカネは考えた。10万円くらいなら、、なんとかなるだろう。レプリカは食事補助も家賃補助も出る。
『わかりました。よろしくお願いします。』
周りの男女が一斉に称える。
『アカネさん、今日からは仲間だね!よろしく!』
『あなたの決断は素晴らしいわ!』
その時のアカネは悪い気がしなかった。
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社会人になった私は学んでいた。学生時代のように何もコストをかけずに何かを得るのはもうこの先ないのだ。だから、多少の高い買い物でも、学生時代の掛け値の無い、かけがえのないものを取り返す為なら惜しまないと。
この人達はお金で雇った傭兵くらいにしか思って無かったから、仲間なんて言われても虫唾が走った。
だけど、そんなことは些細なことであった。
なぜなら、次の日、タクトが砂場町で死体として見つかったのだから。




