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朽ちていく心

日曜日。

アカネは、砂場町に出かけた。

休みの日はなるべく外に出るようにしている。

家にいても、いろいろ嫌なことを思い出してしまう。何かまた失うのではないか、日常が唐突に壊れてしまう。そんな恐怖を纏う時間より、今ここの変わりゆく街、人々の雑踏に目を向けることにより自分の心を保つには必要なのだ。


明日からまた仕事だからアルコールはひっかけず、見たかったインディーズの映画を見て、泣いたり笑ったりして過ごす。

お昼は、行きつけのラーメン屋で済ませ、食後のコーヒーを喫茶店ですすり、読みかけの本を読む。気づいたら夕方である。


明日からの労働の糧になるような食事をするために砂場町を彷徨う。


ふと、ソノエが働いている中華料理屋の前で立ち止まる。ガラス戸越しに店内を覗く。


そこには少し化粧を覚え、大人になったソノエが

接客していた。にこやかに接客している。

最後に、ソノエのあんな穏やかな笑顔を見たのはいつだろうか。別にソノエと話をする為でない。

アカネは中華料理屋のドアを開ける。

2人掛けの席が空いており、そこに腰をかける。


ソノエにバレないよう、メニューで顔を隠す。

『いらっしゃいませ。』

ソノエだ。少し声をうわずらせて、

『餃子定食をください。』

とだけ伝えた。


ソノエはメモを取ると、キッチンにオーダーを伝えにいった。


アカネはソノエの表情を追う。

お客様に微笑みかけるにこやかな表情、家族連れの子どもにかける柔らかい表情、1人客の老人にかける温かな表情、キッチンの料理人にかける明るい表情。

そのどれもが5年でソノエがここで作り上げた表情だ。


自分との空白の5年。なんでだろう。私がレプリカだから、ソノエは付き合いをやめたのか。レプリカである自分を認めたくないから、付き合いをやめたのか。街から出たというのはそういうことなんだろう。レプリカであるというのはそれほど、それほど。餃子定食が運ばれてくる。

アカネはメニューで顔を隠したまま、受け取る。

『ごゆっくりお過ごし下さい。』

ソノエは、メニュー越しに笑顔をアカネに振り撒いた。餃子定食を食べる。味がしない。腹を膨らませる為に平らげた。

『ソノエー、お前休憩入れー。』

『はーい、マスター!』


明るくはつらつとしたソノエ。ソノエは休憩に入ったので、勘定はマスターらしいき人が行った。

『美味しかったです。』

心ない言葉をマスターに伝えた。

マスターはニカっと笑い、

『またお越しください。』

と伝えた。なんだか、他人の笑顔が凶器にしか感じることができなくなっていた。自分自身の存在を認めてくれる笑顔がほしい。


アカネは帰り道、涙を流しながら帰った。

もう私とソノエは交わることのない世界。自分という存在に向けられる無償の笑顔なんて存在しない。誰もいない道を歩く。まるで自分の空虚な心のようだ。誰にもかけられない声。誰にも必要とされていない感覚。あの火事の日、自分も燃やされてしまえば、こんなに苦しくないのに。


ふいに携帯電話がなる。

見たことのない番号だ。出てみる。



『アカネアルか!私も携帯買ったアルよ!ところでお願いがあるんだが、、、。』


私の代わりに燃やされた友人からの電話だ。


『来週から始まるカブラギトオルの個展で、買ってきて欲しいものがアル!』


これが償いになればいい。どんな形でも求められているのならば。


アカネは快諾した。


♦︎

次の土曜日。カブラギトオルの個展に来る。

綺麗な絵が多い。


アカネは立ち止まった。なぜなら、そこには

















カブラギの絵を悲しそうに見ているソノエがいたからだ。

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