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古き友との再会

土曜日。


「カナエさーん!」

アカネは病院の前でカナエと待ち合わせをしていた。


ライのお見舞いの日である。

ライは5年前の火事以来、ずっと入院生活である。

包帯は相変わらずとれておらずだが、入院直後に比べると

以前と同じように話ができるようになった。歩くこともできるし、日常生活において

ほぼ支障はないのだが、全身の火傷はあまり良くなっていなく入院が長引いている。


「ライ!調子はどう??」

アカネは明るい感じでライに話しかけた。

「まあまあアル。火傷は相変わらずひどいから1日中身体が痛いだけども。」

ライの美しい髪も大きな目も火傷ですべて損傷してしまい、かつての面影はほとんどない。

1日中火傷に悩まされているのもあり、かつてほど元気はない。


「最近は何して過ごしているの??」

「病院生活も5年目になると、暇つぶしのレパートリーが増えてきてな。こんなのを読んでいる。」


美術雑誌であった。

「ライはは芸術にも興味があるのね。」

「芸術はいいぞ。なんかこう出歩けない私を違う世界に連れて行ってくれるような感じなんだ。

ほらこの絵とか何時間見ていても飽きないんだ。」

アカネもライが指し示した絵を見る。

海の絵だった。光が差し込むくらいの海中の絵で、色とりどりの魚が無作為に泳ぎ回っている。

海の色の表現が見事で、全くの透明なところもあれば、深緑のところもあり光の表現が

とても見事である。

「この絵が見事なんだよなあ。。。どんな人かもあってみたいアル。」

「そうだね。とてもきれい・・・。」


絵か・・・。アカネは、ふと思った。かつて芸術家を目指していた友がいたことを。

なぜか突然、街を出て行き砂場町で働き始めたこと。そして、バックボーンにいる謎の男。。。。


今や、友人と呼べるのはライとソノエしかいないが、

そのソノエとは会うことができていない。


ライはつぶやく。

「ソノエに会いたいアルね。ソノエの絵もとてもきれいだったアルよ。」

さびしそうに床に視線を落とす。


アカネは、ソノエが描く絵を見たことがなかった。

「ソノエはどんな絵を描いていたのかな。私、見せてもらったことないんだよね。」

「ソノエもな、こんな海の絵をよく描いていたアル。そういや、この絵はソノエが描いていた

モチーフに似ているアルな。」

「でも作者はソノエではないんだよね。」

作者の名前はカツラギトオルという画家だった。


「そうアルな。私も暇だからカツラギトオルについて調べたことがあるんだけど、

砂場町出身らしいアル。」

「そうなんだ。有名人って以外と近場にいたりするんだよねえ。」

その後、ライとアカネは2時間ほどたわいもない雑談をして別れた。


「ライさん、少し元気そうでよかったわ。」

とカナエがアカネに言う。

「そうね、入院して1年くらいはすべてに絶望していたけど。。。。少し前向きになっていて

よかった。」

アカネは空返事だった。カナエの発言は気休めにすぎないと感じていた。5年も時間が進んでしまった。

世の中も少しずつ変わってきている。アカネはなんとか、就職して世の中についていっているが、

この5年、ライは病院という箱庭の世界しか知らない。雑誌を読むようになったのも最近だ。


「カナエさん、私ちょっと砂場町でによっていきます。せっかく明日も休みだから、

すこしひっかけて帰ります。」

アカネはオカベのバーにいった。

「おう、いらっしゃい。」

今日も先客がいた。少しくたびれた感じの男性で年齢はだい40代中盤くらいだろうか。

「こんにちは。」

アカネは先客に声をかける。

「ああ、これまたお若い可憐なお嬢さんだね。オカベさんもこんなお客さんがいると

仕事に精が出るね。」


「先生は口がうまいですね。アカネさん、何作ろうか?」

「じゃあいつものやつお願いします。」


先客の男性は無口でバーに流れている音楽を楽しみながら飲んでいる感じだ。

「じゃあ、オカベさんまた。」

先客の男性は帰った。

アカネは少し疲れていたのまわるのが早い。

「マスター今日は私も帰るわ。ん?これさっきの人の名刺かしら。マスター、はいこれお客さんの

落とし物。」

特に名刺の名前を読むことなくオカベに渡す。


「ありがとう。今後来たら渡しておくよ。」

マスターはカウンターに名刺をおいた。

アカネがふらふらになりながら帰宅した。

「今日はお客もこなさそうだし、私も一杯飲むか。」

オカベはカクテルを作り、くつろぎながら飲む。ふと、名刺に目をやる。

「あの人、画家なんだ。。。」

















名刺にはカブラギ トオルという名前が書かれていた。

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