闇堕ちしちゃうぞ!
キミコが亡くなった現場では実況検分が行われていた。
『サトウさん!やはり、ガイシャは通り魔のような者にすれ違い様にさされたようです。』
サトウと呼ばれる髪がツンツンの刑事は部下からそのような報告を受けていた。
『つーと、即死かい。かわいそうに。最近増えてんな、レプリカ殺しが。』
『そうですね。国としてもレプリカの支援制度も整えて、通常の吸血鬼と同じように暮らせる体制を作っているというのに。』
『いるんだろうな。レプリカと吸血鬼の共存という流れに反発したい輩がな。この街一帯レプリカが多く住んでいるが、わざわざ遠征とはご苦労なこった。』
『このあたりのパトロールは強化した方がいいでしょうか。何かと物騒な気がします。』
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キミコがなくなり、3ヶ月が経った。
少しずつ寮のメンバーもかつての日常を取り戻しつつあった。
『ソノエー!学校行こ!』
『アカネ、私来週のコンクールのために絵を仕上げなくてはいけないの。ちょっと今週は休むわ。』
『そうかあ、わかったよ!』
アカネは寮を出た。
ソノエはこのコンクールにかけていた。キミコがなくなり、なんとなく学園の雰囲気が暗い。
ここでレプリカである自分が賞を取れば、世間のレプリカのイメージも変わるしまたこの街に活気が戻ると信じていた。
『ソノエ、キミコのためにもみんなの為にも頑張る!』
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放課後、アカネ達は寮に戻ってきた。
『カンナさん、ただ今ー!』
『あらみんなお帰りなさい。』
『ソノエは部屋から出てきてないアルか?』
『ソノエちゃん、相当気合いが入っているみたいで、ご飯も食べてないのよ。』
『それだとコンクール前に倒れちまうぜ。』
ガチャ。
ソノエだった。
『あ、ソノエさん!大丈夫ですか?』
とアスカ。
『さすがにお腹空いてね。カンナさん、何かあるかしら。』
『菓子パンくらいならあるわ。後2時間で夕飯だからこれで凌いでちょうだいな。』
ソノエは菓子パンをかじる。
『ソノエ、めちゃくちゃ気合い入ってるね!私応援してるよ!コンクールも見に行くよ!』
『アカネ、ありがとう。ソノエ嬉しいわ。』
『ああ、ソノエの絵はレプリカの希望アル!』
『頑張れよ!お前なら金賞とれるさ!』
『ありがとうみんな。よーし、夕飯までもう1頑張り!』
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コンクールの日。展示会のような形態でプロのアーティストが絵を品評する。
『ワクワクするね!』
アカネは目を輝かせている。
『ソノエ、緊張するわ、、、。』
『なあに、ソノエの絵なら大丈夫だ。俺らの思いをのせているんだ。希望の絵だぜ。』
『ソノエ、大丈夫アル。ほれ、肉まんでも食べるアル。』
ライは胸元から熱々の肉まんを取り出した。
『ライさんの体ってどうなっているんですか??』
アスカが舐め回すように見る。
『お、おいアスカ!あんまりライの体をジロジロ見るな!』
リュウヤが怒る。
『あれーリュウヤ、嫉妬アルか?愛しのアスカが私の体に見惚れていて、、』
『ば、バカ言うな!アスカは別にそんなんじゃねえよ!』
『そんなんじゃないんですか、、』
アスカは泣き出しそうだ。
『あーアスカを泣かせたアル!ひどい男よのお。』
ライはさらにからかう。
『ほら、みんな会場に着いたよ!』
一向は会場に入る。
『ソノエの絵はどこアルかなあ??』
ライは探す。
『結構奥の方かな?』
アカネも探す。
『なかなか見つからないな。』
リュウヤも探す。
しかしながら会場にソノエの絵はなかった。
『なんでだろう?まだ届いてないのかな??』
『あのもしかしてソノエさんでしょうか?』
見知らぬスーツの初老の男性が声をかけた。
『はい、ソノエがソノエですが。』
『ちょっとお話しがありましてね。別室に来てくだされ。』
ソノエは男性についていった。
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そこには同じようにスーツの男性女性が何人かいた。
ソノエはその面々を知っている。絵画芸術の道では有名な画家や、評論家である。このコンクールの品評を担当している。
『ソノエくん、君はレプリカだそうだね。』
男性画家が切り出した。
『ソノエくん、悪いんだがコンクールを辞退してほしいのだ。』
『え!?それってどういう、、』
『レプリカの描いた絵を品評するとなると我々も迂闊に品評できないのだ。ほら、ここ最近の世論のこともあるし。。君の描いた絵はこちらでしっかり処分しておくから今日は帰りなさい。』
『で、でもだからこそ、レプリカの希望になるかと、、、、!』
『まだわからんかね。紛い物の絵を品評したとなると我々の名誉が傷つくんだよ。』
『レプリカは最低限の生活は保障されているはずだ。だからあんまりでしゃばらないで欲しいんだ。血も吸えない汚れた吸血鬼に芸術を語って欲しくないんだ。さっさと帰りたまえ!この紛い物が!』
ソノエは部屋の外に出された。
コンクール会場を後にする。
そのまま寮に戻り部屋にこもった。
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『ソノエ!ソノエ!何があったの!?コンクールは?』
アカネは部屋の外から呼びかけるも返事はない。
『結局、ソノエの絵はなかったし、なんだったアルかねえ。』
『今はそっとしておいた方がいいと思うんだ。リュウヤはどう思う?』
『ソノエが話したくなるまで待つ。それが鉄則だ。』
一同は各々の部屋へ戻った。
ソノエは部屋では、自分の描いた絵を見ながら涙を流していた。
そして、目を見開き血走らせていた。
親指の爪を噛む。噛みすぎて血が出ている。
自分の血を見る。
『同じ色じゃない、みんな同じ色なのに。これが吸えないってだけで、、、』
血を吸う。すぐに嘔吐する。
一通り吐き、よだれと吐瀉物を口から垂らしながらソノエは呟いた。
『ワカラナイヤツラニハ、ワカルヨウニ、カラダデワカラセナイトイケナイナ。』
その夜、ソノエは寮から姿を消した。




