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せめて君だけは

投獄20日目。

ライは座ることの許されない、人が1人立ってようやく入れるくらいの独房にいれられた。

『もう、辛い、アル。マオハオがいない世界で、私は何を支えに生きていればいいのか。。』

姉のように、両親のいない自分を支えてくれたマオハオ。一緒にお風呂に入ったり、ご飯を作ったり命からがら戦地から帰ってきたり、いろんな思い出が頭の中をよぎる。

『マオハオ、マオハオ、、、』

ライは泣きすぎて涙が枯れていた。本当に涙は枯れるのかと、そのくらい食事も水も支給されることが少なくなっていた。

『こいつはそろそろダメだな。』

看守はライを見ながらニタニタ笑いながら別の看守と話をしている。


投獄23日目


『私、なかなかしぶといアルね。』

3日前にもうそろそろ息絶えるのではないかと

自分ではそう思っていたが、なかなか世界は自分を離してくれない。世界から逃げることを許してくれない。この先、何を糧に生きていくのか。

そんなことを10日近く考えていると、なんだかバカバカしくなってくる。自害できる環境でないこともあるが、何も考えずただ生きている。

喜びも悲しみも何もない。ライはただ独房に立ったまま、牢の外を見て、たまに差し込む太陽光を眩しく思いながら、ただただ生きる。静かだ。誰もいないように。

『ん、というかここ2日ほど看守が見廻りに来てないような、、、』

ライは不思議に思った。処刑の銃声も囚人の絶望の声も聞こえてこない。


バンっ!


突然独房が開いた。

『ライちゃん!』

アカネだった。アカネはおそらく敵兵ではないのだろう、兵士を数名伴っていた。

ライが解放された。ライはそのままアカネによりかかるように倒れた。

『ライちゃん、ライちゃん!死んじゃ、ダメ!』

自分のために泣いてくれている。助けに来てくれる。ライはニコリと笑った。

『生きてて良かったアル。』

とだけ呟き、束の間の休息に入った。


♦︎

ライが解放され、2日が経った。

『ん、、ここは??』

ベッドの上にいた。自分の周りにはベッドが何十台とあった。

『野戦病院よ、ここは。』

アカネがいた。

『なんで、私たち助かったアルか?』

『敵の本隊が降伏したんだって。もともと私たちの味方は戦況は良かったんだけど、私たちのいた地域だけ孤立しちゃって、捕まった。それで敵の降伏で、監獄も閉鎖することになって助けが来たの。』

『そ、そうアルか。』


ライは目をつぶる。

『私がマオハオを止めておけば、、もう少し頑張れば、マオハオは、、、。』

ライは震えながら涙目になる。

アカネが強く抱きしめる。

『ライちゃん!ライちゃんは頑張ったよ!マオハオさんを助ける為に命かけて、独房に入っても生きることをあきらめず、絶望はあったと思うけど、抗ってさ。もう自分を自分を責めないで!』

アカネは泣いている。

ライは思った。自分の為に泣いてくれる人がいる。アカネも自分のことを思って助けに来てくれた。マオハオはもういないけれど、アカネがいる。この先の人生ももっともっとたくさんの大切な人ができるかもしれない。

『ライ、、あなたは生きて、、』

死んだはずのマオハオが後ろから抱きしめてくれたような気がした。


『私は、私は今回大切なものをたくさん失ったけど、でもアカネがいる。命が続く限りはどんな無様でも生きていればこんなに大切な人にも会えるんだと。仲間の死も、独房も私にとっては簡単に癒えない傷だけど、、それでもそれでも、人生で起きた事の意味づけは自分で決められるのだから、私はいつかこの凄惨な出来事も何かの意味が

あったんじゃないかと思える日が来たら、その時は、、』

『ライちゃん、、一緒に前に進もう。傷は簡単に癒えないけど、、私は私は夢の外で待ってるから!みんなと一緒に過ごすあの寮で待ってるから!』


アカネとライは閃光に包まれた。


♦︎


『アカネ!』

キミコやソノエ、寮メンバーがそこにはいた。

病院のベッドだ。そうだ、ライちゃんを夢から救い出す為に飛び込んだんだった。

『ライちゃんは!?』


『ライは、、、、、。』

一同が黙る。

『そ、そんな、、、。』


ガラっ!

『お、アカネ!起きたアルか!肉まん、あんまん、ピザまん、どれがいいアルか?』


ライが大きな紙袋を抱えて、肉まんをかじりながらアカネの元にやってくる。


『ライちゃん!体は大丈夫!?』

『アカネは大袈裟あるなあ。ほれ、ぴんぴんあるよ!』

力こぶを見せる。

『ライちゃぁぁぁぁん!』

アカネはライに抱きついた。

『本当に良かった、良かった。』

『こらこら、くっつくなアル。みんなも饅頭食べるアルよ!』

紙袋を広げおのおの好きな饅頭を食べる。

ライは窓の外を見ながら呟いた。

『アカネ、ありがとう。』


ライの頬には一粒の涙が流れていた。

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