新生活だよ!
『うらあ!根性焼きだぜ!レプリカさんよぉ!』
『ほらあ、食べなさいよ、ゴキちゃん美味しいでしょう?』
『何寝てんだ、てめえ!』
『うわあああああああああああああああ!』
アカネはそこで目が覚めた。
天井は真っ白で、日差しが反射しているのかまぶしく感じる。何か自分の腕に繋がれている。
点滴だ。そうか、栄養補給か。点滴?注射?
『ああああああああああああああああああ!』
アカネは暴れる。
看護師が駆けつける。
『アカネさん、アカネさん!』
『いやああああああ!シュン!もう薬剤を打たないで!いやああああああああああああ!』
『アカネさん、アカネさん!大丈夫よ!』
看護師が暴れるアカネを抱きしめる。
『う、うわあああああん!』
アカネは看護師の胸を借りて泣き始めた。
程なくして落ち着いたアカネは、
自分を助けてくれた福祉ワーカーから説明を受けた。
ワーカーさんは、カナエという名前で落ち着いた雰囲気の女性だ。黒髪の長髪で緑のカーディガンにベージュのシャツと言ったまた落ち着いた雰囲気を助長する感じの格好だ。
『あなたはお父さんから虐待を受けていた。だから、私が保護したの。あのまま続いていたら衰弱死していたと思う。』
『あの、お父さんはどうなりましたか?』
『あなたのお父さんは、警察に連れていかれたわ。まあ、私に襲いかかったのと、公務実行妨害だけれどもね。あなたが被害届を出せば余罪は追及されるそうよ。』
『そうですか、、、。』
『お母さんも事情聴取されてるけど、たぶんあなた次第かしら。立件されれば2人とも数年は刑務所暮らしね。』
『あの、、私は、お父さんお母さんを訴えた方が
いいのでしょうか??』
『そうね。でも、それを決めるのはあなたなの。
福祉の人間が決めることじゃなくてね。
被害届を出さなければ、そんなに重い罪には問われないわ。だからすぐ戻ってくるでしょうね。』
『私はこれからどうすればいいのでしょう?』
『あなたはあの家に住みたい?それともどこか安全なところがいい?』
『私は、、、、。』
唾を飲み込む。少し冷や汗が出てきた。
カナエは声をかけた。
『ちょっと休みましょうか。そろそろお昼だし。』
看護師が来た。
『アカネさん、1ヶ月ほど何も食べてないと伺ったので回復食からはじめましょう。』
そうだ。病院に来て、少し診察を受けた際にそんな事を話した。話の途中で倒れたんだっけ。
おかゆが出てきた。
スプーンですくう。口に運ぶ。おそらく普段食べたら味が薄いのだろう。しかし1ヶ月ぶりの食事だ。涙が出てくる。少しずつ食べて、薄味を噛み締めて涙が止まらなくなった。
『カナエさん、おかゆ、とても美味しいです。』
『良かったわ。あなたが生きていてくれて。』
その言葉が何か心を貫いた感じがした。
この1ヶ月の半殺し生活中、ずっとずっと
『生まれてきて、ごめんなさい。』
としか思えなかった。誰もが私の存在を疎ましく思い、憎しみしか抱いていないのだと。
カナエのことばは、無条件に私を認めてくれている。
そういう人と共にいたい。
『カナエさん、私あの家を出て安心して暮らしたいです。』
そう泣きじゃくりながらアカネは伝えたのだった。
♦︎
1ヶ月の入院を経て、アカネは退院した。
父親と母親を訴えはしなかったが、今後アカネへの接触は禁止となった。
また学校での凄惨ないじめがあったことを受けて
学校側は連日、マスコミの対応に追われた。
いじめをしていた、シュンやその他の生徒も週刊誌に追われているようだ。
なんだか、自分のことで学校全体を壊してしまったような気がして安堵とともにやり場のない自己嫌悪に襲われているアカネだった。
アカネは他に身よりもないので、養護施設に住まいをうつし、学校も変えることにした。
傷は癒えることはまだまだ先だが、地獄のような日々には別れを告げる事ができた。
『新生活か、、、。』
雲一つない空を見上げて呟く。
『アカネさーん、行きましょう!』
カナエがアカネを呼ぶ。
『はーい!今いきます!』
アカネは明るく振る舞い、カナエの元に駆けて向かった。




