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【Re転生】転生した先でエルフになった  作者: 夜風 邑
第一章 『異世界転生初日』
3/5

2. 『最悪の死を間近に』


――茶色い建物が続く街を、スピカはひたすらに歩いた。




「うわ!茶色い建物ばっか!凄〜い!あ、でも屋根は違う色なのかー。凄っ!白色もある……。アンティーク風を守り通せばいいのにーって思うけど、さすが異世界ね!」

周りはアンティーク調の建物で埋め尽くされ、肝心の道には、丸い小石が敷き詰められている。


「不思議な馬車〜。グリフィンが引いてる〜!だけど、個人的にペガサスじゃないから減点対象って言われちゃうかも」

軽口を叩いて、街並みを楽しむ。

国の主な都市であろうこの街では、何せ人が多く、馬車も多い。

街行く人々が、何事かと振り返るが、スピカは気にせずに探索する。


「やっぱ、異世界だ〜。テンションが上がっちゃうっ」

異世界の生活に、スピカは胸が躍った。

伸びをして、ぶらぶらと散策を続ける。


グリフィンの馬車、アンティーク調の数々。

それらは、ラファニア聖国の雰囲気を作り出していた。


「聖国って言ってたから、てっきり、ギリシャ風みたいな神殿があると思ってたけど、そんなことはないのね」

綺麗に光る建物を見つめて呟く。


「わーい!」

すぐ側を、亜人の少女が通りかかる。

そのすぐ後に、買い物に来たであろう人の姿も。

小さな子供も見かける。

沢山の人々を見かけ、現実世界と身なりの違いに気づく。


「うん。異世界あるある1。服装が、ちょっと不思議。面白い格好なのよね」

自分の服をつまみ上げ、ひらりと回ってみる。

この世界では普通に着る服装であろう服は、現実世界では見ることの無い装いだった。


「メイヴ、身嗜みだけは、ちゃんとやってくれたのよね」 

大きなお世話……と言いたいところだが、行き交う人達に怪しまれないので、そこは素直にお礼を言おう。


何せ、服は勿論のこと、髪型までセットされている。

髪の毛先は少し水色に染まり、先程池で見て確認した瞳の色も、アクアマリンの様な色をしている。


服はレースの白い服。

おまけと言っては何だが、尖った耳に、背中に付いた青色の羽。


「ご丁寧なのか、そうじゃないのか。エルフの耳と羽を隠すフードまで装備してくれちゃって……」

エルフだとバレて仕舞えば、周りがまた土下座をする羽目になる。

当人としては不快ではないが、一応、周りのことも考慮しようという考えだ。


フードを深く被り、街の探索を再開した。

通りには、グリフィンの馬車が通る。

街は賑わい、人口が多いのはすぐに分かった。

さすが――


「さすが――。えっと、ここは、王都……?帝都……?聖国だから聖都……?どれだか全然分かんない」


見るからに首都な感じがするが、ラファニアでは何というのだろう。

教養の差を感じられる。


そして、数々の店を見て回るうち、文字についても気づくことがあった。

「異世界あるある2。言葉は通じるのに文字は読めない。なのに、何故か内容は頭に入ってくる。ちょっと気分悪いかも」

メイヴの言っていた通り、言葉は通じ、文字も理解できるが、方法が怖すぎて逆に困る。


「お前、何やってんだ?」

「あ、いえ。何も」

隣の男性に声をかけられ、単調な答えを返す。


「だったら、ちゃんと前見て歩けよ?『道行くは人生を行くが如し』っていうからな!後、下を向いて歩くのは止めろよ?それ、相手を侮辱する仕草だからな」

肩を叩いて男性は去る。


「異世界あるある3。文化の違い」

男性が居なくなると、スピカは大きく溜息を吐いた。

「仕草とか、気をつけないと。左手の中指立てるみたいに、変な意味になっちゃうかもだしねー。ちょっと不便」

慣用句やことわざの違いと同じく、仕草にも気をつけた方が良いだろう。


改めて教訓にするとして、通りの角を曲がる。

大通りと裏路地の境目に差し掛かった時。


――♪♪〜♬〜〜♩♫〜〜


突如、チェンバロで弾いた様な音楽が流れ、それに釣られて大通りに出る。

通りの中央には、楽器隊が曲を奏でていた。

ストリートミュージシャン、といったものだろう。


傍には、シルクハットの帽子が逆さに置いてある。

その中に、見慣れない小銭が山ほど入っていた。


それもその筈。中々に上手い。

思わず聞き惚れ、時間を忘れる。

静聴している民衆も、時間の流れが止まっている様だ。


「続きましては!チェンバァノによる、曲名『シュシュア』!」

曲が終わり、宣伝者であろう、その人の声を聞くと、またチェンバロ――チェンバァノの奏者が弾き始めた。


――♬♪〜〜♫♫〜


「異世界あるある4!名称の違い。それにしても、素敵!」

音楽のせいか、興奮した顔でスピカが呟くと、宣伝者が声を掛けた。


「『シュシュア』は、家柄のせいで断絶された二人の恋人の彼氏が恋人……シュシュアの元に通い、夜に密かに会い、逢瀬を楽しんでいた、と言う意味をこめたんですよ〜!素敵でしょう?」

美しい恋物語に、スピカも乙女心がくすぐられた。


♫♬♪〜♩♩♫〜――


演奏が終わり、観客の拍手が大通りに鳴り響く。

逆さになったシルクハットの中に、大勢が銅貨や銀貨を入れていった。


だが、スピカの手元には銅貨どころか、一円すらない状況である。

「む」

後ろめたい気持ちではあるが、仕方なしに大通りを離れる。


「またぜひ!お聴きにいらして下さい!」

いつかまた聴きに行き、次こそはその帽子の中に金貨を入れる、と決心した。




「あ、異世界あるある5。貨幣の価値が違う!」

側にあった洋服店を覗き込み、うっ、とうめき声を残して、値段から目を逸らす。


『26リュト』『31リュト』『19リュト』


「ぅ。意味わかんない……。でも、とんでもなく高いのは、見て取れるっていうか……」

周りの人達は、気に入った服を見つけた後、値段を見つめて帰っていく。

この服は、庶民には優しくないらしい。


買う人も居そうだが、かなりの大金持ちか、権力者だろう。

綺麗な服に後ろ髪を引かれつつも、諦めて出る。


後ろで、買い物客であろう人達の声が聞こえ、その人達がレジに行く様だったのは、周りの響めき、と言っておこう。


「了解!26リュトな!あー。50リュトしかあらへん!24リュトお釣もらえるやろか」

「50リュトって……!」

スピカは立ち尽くす。

周りも、さらに驚いた様だった。

価値は存じ上げないが、相当な金額らしい。


「も、申し訳ありません、エルフ様……。当店には、24リュトもなく……」

「えぇ!?どないしょう……」


エルフという単語も無視できないが、それ以前の問題だ。

スピカは、大金持ちであろうその人を凝視する。


「わ。関西弁がここで聞けるとは……!凄い……」

懐かしの関西弁。

後ろから見る彼女の声は、透き通る様な声だった。

若草の髪に、緑色の羽。


彼女は二人で店に来ているらしく、隣のもう一人もエルフだった。

隣のエルフは藤色の髪に、さらに薄い色の羽がついていた。

「エルフって、沢山いるのね」

無論、周りの人々は凝視した後、二人に頭を下げている。


「あ、せや!ミリュウさん!26リュト貸してくれへん?」

「おや、悪いけどウチも持ってへんさかい、貸されへんのどすえ……」

京都弁のミリュウと呼ばれたエルフは、困った様な声を出した。

それに驚いたのは、若草色の髪のエルフ。


「えぇ〜!?ほんま!?ミリュウさんも持ってへんて……。どないしたらええの?」

「せやったらな?明日また来たらええんどす。すぐには売れへんやろ」

「えーっ!えーっ!」


服が相当気に入ったのか、一向に離れようとしない彼女を宥めるのは、少し……。かなり……。……。……とても大変そうだ。

スピカは、藤色の髪のエルフに同情する。


梨花も同じ性格な以上、こういう事は多々あったが、対処法として無視&放置だったのだ。

そう思うと、彼女は中々にお節介と言える。





――「お、いたじゃん。あいつか」


思案するのに夢中になりすぎて、周りが見えていなかった。

スピカは、背後の人影に気付かなかったのだ。


エルフに夢中になっているスピカを、人影が襲う。

まるで、迷える子羊を、喜んで狼が喰う様に。


「ねぇ、ねぇ。ちょっと、こっちおいでよ」

「え?あっ、きゃっ」


叫べたのも束の間だった。手首に痛みを感じる。

気味の悪い男に引かれ、裏路地へ連れ込まれていることを、即座に理解した。

狼は、子羊を逃そうとはしない。

人混みの中で連れ去られ、必死に動こうとするが、全く動かない。


「大丈夫だからぁー」

「いっ、嫌あっ!は、離して!警察を呼ぶわよっ」

「ケイサツぅ?へぇ、それは彼氏か何かかなぁ?」

「嘘っ!警察が通じない世界なの!?」

いや、警察が通じない世界があるものか。

名称が違うだけで。


「き、騎士を呼ぶわよ!」

「はぁ?騎士ぃ?お前、何者なんだよ?騎士なんて滅多なもん、来るわけねぇだろ」

騎士はある様だが、これも通じない。


八方塞がりということわざが、これだけ似合う場面は、またと無いだろう。

手首を動かしても、体を振ってもびくともしない。


動こうとすれば逆効果。

さらに締め付けられ、奥に連れて行かれるだけだ。

足が引きずられて痛い。

助けも呼べない。

大声を出そうにも、口を抑えられていた。


いよいよ、行き止まりになる。

立ち上がったままスピカを下にして、男は壁に手をつく。

必死に声を出して、嫌味をぶつけた。

「壁……ドンなら、もっと……イケメンの…人にやって貰いたかっ…たわ」

「お前、今失礼なこと言ったろ」

男が前に乗り出し始めた動作に合わせ、スピカは下に下がる。


男は、さらに前のめりになる。

「動くなよぉ。お前に用があんだって」

「な、なに……?」

手から口を解放し、男は小声でスピカに用件を伝える。


男から出てくる声も、薄気味悪いものだった。

「怪しいもんじゃねぇって。ある人に人探しを頼まれててだから――」

「やーぁっ!」

冷静に聞けば分かる話ではあるが、スピカも冷静ではいられないと理解して欲しい。


手の先から甲にかけて、大きな水の球が包む。

そして、内側にあった空気が膨らみ、水を押しやった。

ところが、水を内から全て消す前に、勢いを失う。

水で空中に、球を描いている様な形になる。


スピカはそれを、男に向かって放った。

水の球は相手の溝落ち辺りを、直撃する。


これは、魔法というやつだろうか。


「ぐぇぁ――っ」

あまりの激痛に耐えられないのか、男は膝をついて屈む。

暫く、痛みに悶絶したようだった。


――今のうちに。

スピカは、男の横を通り抜けようとする。

しかし、耐えられないのも束の間、男はスピカが逃げる前に立ちはだかった。


「もう…っ、怒っ……た!塵になれぇぇえ!」

「ひゃ――っ!?」

男に銃を突きつけられる。


恐る恐る両手を上げた先には、男の怒りの形相がいともはっきりと見えた。

「あ、あの……」


「嬢ちゃんよぉ、今度街で散歩する時があったら、気をつけなぁ。一人で歩くもんじゃ、ねぇっての。――エルフが」

「!!」

エルフと知っていながら、男はスピカを殺害しようとしている。

これは本当に絶体絶命だ。


死を覚悟する。

目を堅く瞑り、息を止めた。

が。


――「ハハッ。銃じゃつまらねぇや。すぐに殺せちまうからなぁ」

男は何の気まぐれか、スピカの額から銃を離す。


そして懐から――鋭利な刃物を取り出した。


スピカは、微かな怒りを覚えた。


銃を出したと思えば刃物を出す。

相手の死を弄ぶ、最低の殺し方だった。

否、殺し方に善も悪も無い。

殺すという行為が、悪に、罪に、狂気にまみれている。


「これで、完膚なきまでにぶった斬ってやるよッ!!」

男は、ナイフを高く振りかざす。

振りかざされたナイフが、鈍く光った。

死を……確信する。




――あぁ、私、ここでも殺されるのね。


一度目は、大切でも何でもない他人を守るために、死んで。

だが、その他人は守れなかった。

二度目も、素性も知らない男の手によって、殺される。

何も、出来ないまま。



「私の死って、本当に無意味」



スピカの一挙一動に、男は苛立っている様だった。

「その目が、気にいらねぇんだよお!エルフが!」

生気を失った目に向かって。

無造作にナイフを振り下ろす。


――走馬灯くらい、見たかったわ。

その刃先が、今にも届きそうな時。  


ピキッ

ヒビの入る音がする。




――「はぁ。見ていられない」



ナイフの刃先が……刀身が――割れた。


事態の収拾すらつかないまま、スピカは瞠目した。


男は、口を大きく開ける。

スピカも驚愕したまま、声の主を凝視した。



肩に付くかくらいの黒髪に黒瞠。

服装も見慣れた服装で。

横に長い、楕円形の眼鏡を掛けていた。

どこかで見た、懐かしい装い。


「さっさと消えてくれ。鬱陶しい」

「あぐぅ……っ!」



――彼は、男に手で作った銃を当てた。

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