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【Re転生】転生した先でエルフになった  作者: 夜風 邑
第一章 『異世界転生初日』
1/5

プロローグ 『死因』


――「棲光(すぴか)ーっ!ケーキ食べに行こーよー」


「りょーかい!どこの店行く?」 

踵を鳴らし、鞄を片手に振り回す。

茶髪の一房の三つ編みを肩にかけ、棲光はグループの仲間の声に応じた。


「ねぇ、まやっちー。ここりんりんと相談して決めればー?美味しい店、知ってるっしょ?」

「ここりんりんって、私の事ですか⁉︎もうちょい良い渾名を知りたくなる一言ですぅ!」

梨花と心奈のじゃれあいが聞こえ、傍観者である棲光と麻也の苦笑が交じる。


「もー、駅前の『シュルル』でいいじゃーん」

「あそこかー!お手頃価格で、アタシら高校生にも優しいよな!」

麻也と梨花の肩を組む姿に、心奈は微笑を返す。


「ぴっかーはどう思う?」

麻也の視線の先にいるのは、棲光だった。


「そうだねぇ。私は、雑誌に出てた『リュ・レ・ミ』がいいかなー」

「マジか!雑誌で見た時、美味しそうだったもんねぇ。でもさー、あそこ高くない?」

棲光の提案に、乗った後、ギョッとした様に梨花は後ずさる。


「まぁ、棲光先輩は、お金持ちの写真ですからー」

おっとりとした口調で、心奈は頬に片手を当てる。

お気に入りのモデルのポーズを真似するのは、後輩を見る先輩の余興と言えよう。


「そう言う心奈も、親が凄いじゃん!」

麻也が心奈を小突く音が聞こえる。


放課後の通学路に響く若者の声に、棲光のテンションも高くなりつつあった。

まだ少し青みがかった空に、セーラーの制服に馴染んだ鞄がかざされる。


まさに、青春のひと時と言っても、過言ではなかった。

そして、このひと時を味わえた理由でもある、この三人には多大な感謝を感じていた。


だから、その恩返しでも、とあるアイデアを思い付いた。

実行は、わけないだろう。

口が先走るのは止められない。

例えそれが、後に後悔する事となるのは知っていても。


「よーし!じゃあ今回!私が自腹で奢っちゃうぞー!」

後5分で後悔するのは目に見えていたのに、両手を空に突き上げて、息の良いフラグを張ったものだ。


「すげぇ!やっぱ無しとか無しだかんな!」

ここぞ、とばかりにはしゃぐ梨花とは違い、麻也と心奈は不安そうである。


彼女らは、棲光の懐具合を承知している様だ。

棲光は、不安そうな彼女達に鞄を優しく打ちつけた。


「心配いらない!今月のお小遣い、結構残ってるんだから!」

どーん、と胸を叩きむせた棲光に、場の全員の笑いが返される。

ハッタリではあったものの、何とか二人に了承を得る事が出来たので、元は取ったと言えるが。


三人に隠れ、さっと財布を開く。

「うぇ……」

小銭しか入っていない。

ケーキでギリいけるだろうか。

しかも、四人分。


「ほらー!今月ピンチなんでしょ!」

気付いたのは、麻也だけではなかった。

「まあ!先輩!三百円しか入ってないですよ⁉︎」

「これで四人はキツイでしょ……」

呆れた心奈と梨花。


……とんでもないところを、見せてしまった。

「私も、これは予想外だったよ。せめて四百円はあると思った」

「なんか、それでもキツイ気がしますよ先輩⁉︎」


うぐぅ……。

しゅんと項垂れた棲光に、救いの手が差し伸べられる。


「じゃあこれで、スナック菓子に買おう!棲光、奢ってね」

上まつ毛の長い瞳で、麻也がウインクする。


「うぅ……。麻也ぁ!私のために……!ぐすっ」

「五十個買ってもーらお!」

「私は百個でお願いします!」

「ちょっと待って破産する‼︎」

良いところに割って入った梨花と心奈が、棲光のツッコミを喰らったのは言うまでもない。


四人は自然と信号を待った。

湿った暑さを肌に感じる。

車は、止む事なく走っている。

今此処で車の海に飛び込んだら、直ぐに吹き飛ばされると恐れる程に。


「でさ――」

「えー⁉︎」

「うっそぉ!」


四人の話し声が響く。


日が傾いて、信号の歩道に夕日が差し込み、その影にスマホ歩きをするという、とんでもない形が影に映る。

高校生達の楽しげな声が、その影に聞こえ、ブレザーの人影が足を速めた。


黒髪の彼が、人影と称した彼が、苛ついている様に見えた。


棲光達は、その危なさに気が付かない。


イヤホンをつけて信号を渡ろうとする人影。

しかし、信号を待つ一行は、向かい側に立つ人影には気もとられていない。

むしろ、限りないほど影に近い人に、気付く方が無理であろう。


信号は、赤だった。


危ない!そう、思った。

やっと気付いた。


どうして⁉︎


目の前の信号が赤なのに。

目前にトラックが迫っているのに。


人影は、信号無視で渡ろうとした。


トラックが、人影にぶつかる瞬間が頭をよぎる。

舞っていく血。

人を避け、信号を跨いだ何台もの車――対向車を掠め、激突していくトラックが目に浮かんだ。


――「冗談だってー!」

――「それにしたって、もー!」

高校生達の笑い声に。

棲光は気付いていた。

信号を渡ろうとした人影に。


「危ねぇぞーーッ‼︎お前っ!逃げろっ!」


キキーィッ‼︎


――どう考えても助からない至近距離で、ブレーキの音が響く。

それも、止まりそうもない音で。







鞄が擦れる音がする。

叫び声がする。


黒髪の髪が、はらりと舞う音も。

双眸を見開く姿も見えた。


棲光を止める叫び声も。



「危ないッ!」




顔が、見えなかった。

でも、必死の顔だけ見えた。

自分が庇った相手。


――顔。見えたのか、見えてないのか、どっちなの?


悪態をつく余裕はあった。


危機は、回避した。

トラックが、ぎりぎり棲光の髪を掠めた。


棲光が、人影をトラックから避ける様に押し倒したのだ。


安心した。

そう思える一瞬はあった。

二人とも無事だった。


そこで、安堵して息を吐かなければ良かった。



キキーィッ!

金属音で現実に引き戻された。


回避したはずのトラックが、自分達を避けたせいで、対向車線の車に激突した。そこからドミノの様に、車が転落していく。


一つの車が、思い切り後ろに下がった。

前の車が、自分の所に落ちるのを防ぐ為だろう。


前に圧力がかかれば、車の後方が浮く。

車体が、後ろだけ立ち上がる形になる。


しかし、重力には逆らえない。

車の後方はものすごい勢いで下に落ち、また直ぐ後ろの車の後方が持ち上がる……。


そうなれば、渋滞で溜まっているこの地帯は、大事故が、さらに広がる。


だから、急いで横にずれた。

後ろには、車がある。だが、横には多少隙間があった。


――此処に入ればいい。


そう横の車も信じられれば良かった。


真横にいた車は、いきなり急発進した。

前に沢山の車があるのに、だ。


自分の車に衝突すると思ってのことだろう。

ところが、スピードを抑えきれず、前へ前へと圧力がかかった。


コの字になる様に倒れ、衝突した車。

そしてその凶器は、安堵している棲光達へと向かっていた。



「「「駄目ぇっーーーー‼︎」」」


梨花、心奈、麻也の声が聞こえる。


「――っ!」

倒れ込んだ姿勢の棲光。

逃げられる訳がない。


庇った相手も――人影も動けない様だ。


瞠目し、こちらを見つめている。

人影に上乗りした棲光。

それに対して、圧力がかかって前に滑り込む乗用車は、無残にも突っ込んでいく。



「逃げてぇぇええええ!」

「先輩っっっ‼︎」

「棲光ーーーーーッ‼︎」



叫び声がこだまする。


目の前の視界がブレた。



――巻き込まれる。

即座にそう思った。

目の前の人影――彼も、巻き込まれる。


「いやぁぁあああ‼︎」

乗用車の運転手が悲鳴を上げた。


二人を引く事を恐れたのだろう。

高校生を殺す事を、恐れたのだろう。



――ごめんね。人を殺させちゃって。



棲光が運転手に思ったのは、それだけだった。

信号の横断歩道に一番近かったばっかりに。

目の前に棲光達がいたばっかりに。


この人の運命が狂ってしまった。


善人を、暗い淵に追い落としてしまった。

どうしようもない後悔が疼く。


でも、もう後戻りは出来なくて。

――ゆっくりと目を閉じる。

目の前の彼にも、謝罪を述べる。



「……ごめんね」



私が、不甲斐ないばっかりに。

……目の前の運命に、覚悟を決めた。


――茶髪が舞う。黒髪が舞う。

庇って死ぬ棲光と、庇ってもらって死ぬ彼と。

二人は抱き合った様な状態で。





――死んだ。






☆★☆☆☆★☆☆☆★☆☆★☆☆☆★☆☆☆★☆☆☆


野々夜(ののよ)棲光ねえ。死因は、腹部損傷による失血死だねえ。若いのに、大変だよねえ」


微笑んだ彼女は、棲光に笑った。

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