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丘を越えたり、下ったり(仮)  作者: ムギオオ
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高校時代(1)

 須藤 恭也と森元 涼介、二人とは高校からの友人だ。俺たち三人の出会いは高校一年の春まで遡る。


 俺の通っていた高校はかなり沢山の中学から色々様々な種類の学生が入学してくる、不良からガリ勉、オタク、金持ち、貧乏、どんな奴もそろっている高校だった。


 俺は中学三年の卒業式が終わり直ぐに父の転勤に合わせてこちらに越して来たのでこの地域には友達は全くいなかった。

 高校の入学式が終わって一月が経った頃、クラスの不良グループのリーダー的存在である佐藤が至って普通の俺に目を付けた。休み時間にようやくできた友人達と喋っていた時、突然佐藤が俺に向かって大声で呼び掛けて来た。


「おい古川ふるかわ! お前、背はでけえけどこっちの方はどうなんだ。」


 佐藤はボクシングの構えをして、俺にパンチを繰り出す仕草をしてきた。佐藤は背は高くはないがガッチリとした体格をして実際の背丈より大きく感じられた。

 その時一緒に喋っていた友人達は俺が席を立つと何事もなかったように、ふわりと空気のように周りの外野に溶け込んで行った。


 今思うと佐藤は一年の早い段階で奴の仲間達やクラス全員に自分自身の力を誇示したかったのだろう。それでわざと身長差のある俺を相手にして自分より大きい奴とやっても平気だということをみんなに知らしめたかったのだろう。どうせなら身長差のある喧嘩慣れした奴の所に行けよ。


 佐藤は、最初は当ててはこなかったが、軽くジャブを俺の胸付近で何度も繰り出しながら話し続けた。映画や漫画でのシーンならそのうち当ててくるのだろうなと思いながらも奴を黙って見下ろしていると奴は俺を見上げてニヤニヤしながら、

「俺と喧嘩しようぜ。」

 と言ってきた。奴の仲間達は嬉しそうに騒ぎ出した。殴り合いの喧嘩なんて、小学校の時以来した事なんて無い俺は、このチビを相手に普通にびびってしまった。こいつチビの癖にと腹は立ったのだが、チビなのに喧嘩を売ってくるなんて、もしかしたら何か格闘技でも習っていて物凄く強いのかもしれないと、かなり警戒してしまった。


 俺の顔は恐怖で固まっていたことだろう。身長が高かったからか絡らまれたことなど無かった俺はどうしたら良いか判らなかった。こういった場合どうすればこの場が上手く収まるのだろうかとそれだけを考えていた。

 今いきなり殴ったら勝てるんじゃないか。その後取り巻きにボコボコにされるかもしれないけど。

 いやでも佐藤は強いって噂だから俺のパンチなんか避けられるかもしれない。色々考えたが答えは出てこなかった。こっちからやってやろうと思ってもやり返される恐怖で身体が思うように動かなかった。


 返事も出来ず只、無表情で考え続ける俺に、

「おい! やるのか、やらねえのかどっちだよ。」

 佐藤の大きな声で、女子を含めクラス全員がこっちを見た。


 隣のクラスからも他の生徒が何事かとワイワイやってきた。ああ、謝って終わらすのは女子の手前、嫌だな。高くはないが低すぎないプライドぐらいは持っている。殴られて痛い思いをするのも嫌だな、何で誰も先生を呼びにいかないんだよ、何か言わないと、とあれこれ色々考えていると教室の外、廊下の生徒たちの群れの奥ヒーローは現れた。

 担任の長谷川先生が生徒達の後ろでこっちを見ているのが俺側からは、見えた。そして長谷川先生と目があった。先生は俺と目が合い頷いた。


 佐藤は長谷川先生を背にしていて気付いていないので俺に今にも跳びかかってきそうだったが、ひょっとして先生はさっきからずっと見ていて止めるタイミングを計っているのかもと思うと俺はかなり冷静さを取り戻していた。

 誰だか知らないが先生を呼びに行ってくれた人ありがとう。よし言おう。ガツンと佐藤に言ってやろう。今なら声が震えない様に堂々と言えるはずだ。そして殴られる前にこの下らない喧嘩を先生に止めてもらおう。


「お前みたいなチビで弱そうな奴と喧嘩なんて冗談だろう、馬鹿馬鹿しい」

 俺が佐藤に向けて大きめの声で言い放ったその瞬間、佐藤の拳が飛んでくると思ったが、意外にもそうならなかった。奴は驚いた顔で俺をまじまじと見ている。


 取り巻き達は佐藤が何も言い返さず俺を殴ろうともしない事に少し動揺したみたいだった。教室全体は俺の言葉で静まり返った。俺は更に続けた。

「お前とやって勝っても弱い者いじめみたいで俺が恥ずかしいだろうが。解ったらどっかに行ってろ馬鹿が」

 佐藤の眼をしっかり見ながら冷静に言ってやった。案外すらすらと、かつ自然に言葉が出た自分に驚いた。奴の顔はみるみる強張っていき引き攣った表情で何か言おうとしているが奴もその取り巻き達も黙ったままだった。

 これで、俺ははっきりと理解した。佐藤と取り巻き達全員が口だけの奴らだという事が。


 こいつは決して俺の迫力にびびったわけでは無い。抵抗してこない奴と思っていてからかっていた相手が強気でかましてきた事に驚いているのに違いない。そうでなければ俺が一言言い放った途端に俺はボコボコに殴られて教室の床に倒れているはずだ。


 こいつもその取り巻き達も只のかっこだけの臆病者なのだろう。臆病者達がかっこをつける為に至って普通の俺に喧嘩を売ってきただけなのだ。この臆病者と臆病者達が睨み合っている今この時、教室の生徒達や廊下の野次馬達にはこの状況がどう映っていたのだろうか。

 そろそろ先生が割って入ってくるだろう。俺は佐藤に更にもう一歩近づき佐藤の頭を上から見下ろし、そして次に奴の取り巻き達の眼を見て冷静に言った。

「お前らみたいなチョロいのと関わるのはみっともないから早くどっかに行けよ」

 少し大きめの声で言った。相変わらず静まり返った教室と野次馬達そして元気を無くした佐藤と取り巻き達。取り巻き達は何か言いたそうだったが。


 そして長谷川先生のいるほうへ目をやると先生はそこには、居なかった。いつ帰ったのか、 俺の見間違いなのか、先生は最初からいなかったのか?     

 先生の姿を確認出来なくなり俺の心臓の鼓動がだんだん早くなり動悸が激しくなってきた。

「このクソッタレが! 」

 と言い残してやっと佐藤とその取り巻き達は教室の外へ、すごすごと出て行くのが見えた。助かったという安心感と同時に本当に捨て台詞って言うもんなんだなあと思った。

 ようやく嵐が過ぎ去ってホっとすると力が入らず何とか椅子に座った俺は小刻みに震えていたと思う。さっきまで空気と化していた友人達がおれの周りに戻ってきて俺に調子よく話しかけてきた。

「ハハハ あいつら悲しそうに出て行ったな」

「さっきまで長谷川先生いたよな」

「けど佐藤達も口だけだよな。」

「ほんとだな」

 うん、まぁ良いんだけれども。


 結果俺が佐藤達四人をやり込めた形になったのだけれど一歩選択を間違えれば地獄の高校生活になっていたかも知れないと思う。この後の高校生活において俺は佐藤とその軍団に絡まれる事は一度もなかった。

 後になって聞いた事だけど佐藤は中学の時から本当に喧嘩が強くて有名だったらしい。俺との一件があってからすぐ同級生が俺との一件のことで佐藤をからかいボコボコにされたと聞いた時には俺は運が良かったと思った。 

 

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