その後の恭也と涼介
「ダァーン!!! 」
突然勢い良く開くドアの音。
「秒刻みのスケジュールの俺たちが来たぜぇー!! 」
響き渡る大声と同時に恭也と涼介がドカドカと部屋に入って来た。
飛び上がるほど驚くアオイに気が付き大声の張本人の涼介と恭也は平謝りする。俺は笑って二人に座るように声をかけた。
俺が意識を回復して直ぐに恭也に連絡が行ったのだろう。二人は忙しい中、予定を調整して直ぐに来てくれたようだ。
二人はソファーに腰掛けるとあの日のことを大袈裟に面白おかしく話し出した。俺が何気にサオリは来ていないのかと訊くと、恭也があたふたと慌て出した。アオイの言った事もまんざら外れてはいないのかもなと俺の胸の中にしまっておいた。
みんなで少し話していると部屋の電話に看護士から連絡があり、検査結果が出たので来て下さいとの事だった。
俺は恭也と涼介を部屋に残し、家族であるアオイと一緒に自分の検査結果を聞きに部屋を出た。
驚いた事に俺は全くの健康体で、結果報告は五分程で話は終わり、追い出される様に俺たちは部屋を出た。
俺とアオイは顔を見合わせて、お互いに笑い出した。俺はホッとして、アオイは恐らく俺に連られて笑ってしまったのだろう。
入院部屋に戻るとドアが少し開いていた。中から恭也と涼介の話し声が聴こえるので、俺はアオイを制止して中の様子を伺う事にした。
俺は二人の会話をコッソリと聞きたくなった。恐らくバカみたいな話しをしている筈である。
俺がニヤニヤしながら口の前で人差し指を立て静かにするようにジェスチャーをすると、アオイも嬉しそうに悪どい顔で声を殺して笑う。
「おい、恭也! 何で直ぐに話さなかったんだよ! 馬鹿だなぁ」
涼介の喚く声がする。
「しょうがないだろ、言いにくかったんだよ! アイツの義妹もいたから! 」
と恭也が言い返す。
俺とアオイは、俺たちの事を話しているのだと理解してお互いの顔を見た。
「ハルの奴、俺の会社で働くなんて絶対に嫌がるだろうな」
「まあそうだろうな、自由人だからな、アイツは」
「俺が会社を継ぐって話した時だってあんまり興味無さそうだったからな。あん時涼介お前はすんげえ悪態ついてたな、そう言えば」
「だって羨ましかったんだよ、本当に、心底。そりゃ、そうだろ! 」
二人は勝手に俺の事で話し合っているが、俺が恭也の会社で働くのが嫌だなんて一言も言ったことなどは無い。二人とも酷い誤解をしている。
「うちの海外の警備会社に勤めるってのもあるぞ。お前英語得意だろ? て、こう言う風に勧めるってのどうだろう? 」
「おいおい、流石に向こうは銃を扱うんだろ? 」
「イヤ、本当に警備として雇うわけないだろ! 形だけだよ」
「うーん、読めん。あいつの考えは読めんなぁ、三国志の賈詡をもってしても無理だろうな」
「だから、誰だよそれ。やっぱり友達同士で同じ会社でたまに飲みに行って遊んでなんて我儘なのかなぁ? 」
「それは良いけど俺たちの場合、部下と上司、イヤお前は社長だからな。まあ、アイツがいた方が会社のパーティーなんかは俄然楽しくなるだろうけどな」
「アイツがいると確実に運気が上がる気がするんだよな。今回の事で全日本警備会社の石田会長とも仲良くなれたし」
「それは、分かる、うん。確かにアイツがいる方が何故かそんな気はするよな」
恭也が会社を継いだあの時、俺はもの凄く社員にして欲しかったのを思い出していた。そしてあの時就職の決まらない俺に仕事を斡旋してくれないのかと少し僻んだ。
今、恭也が俺のことを誘いたかった事を知れただけで、それだけで涙が出そうなくらい嬉しい。
俺は親友の気持ちに目頭が熱くなったが、アオイが嬉しそうにニヤけながら俺を肘で小突いたので、冷静に戻ることが出来た。
今俺が部屋に入って行ったら恭也は俺にビーンズグループの社員になれと言うのだろうか?
そしてもしそうなったとして有頂天で申し出に応えたら……側にいるアオイはそんな義兄をどのように思うのだろう。
俺は全日本警備会社の臨時社員である。この先も正社員になれる保証は無い。
だが、もう少し自分で頑張ってみるのも良いのかもしれない……そう思いながら俺は晴れやかな気持ちで恭也と涼介を驚かせる為、少し開いている部屋の扉を勢いよく開けた。
「ダァーン!!! 」
終