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丘を越えたり、下ったり(仮)  作者: ムギオオ
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高校時代(3)

 俺達が森元 涼介と出会ったのがそれから半年後の夏休みが明けてからの事だ。いつもの様に昼飯を一緒に食べに行こうと須藤の教室に向かっていると、途中の教室から楽しげな声が聞こえたので、ドアの窓から教室を覗いて見ると、小柄な男子生徒が足の太もも辺りを蹴られるのが見えた。


 次に違う生徒がまた同じ小柄な生徒の背中辺りを蹴るのが見えた。四人の男子生徒が代わる代わる順番に小柄な学生を蹴っている。

 周りの生徒連中は、いつものことだという様に誰も気に掛ける様子も無く弁当を食べ始めている者もいる。

 最初楽しそうに聞こえたのは蹴っている生徒が楽しそうに騒いでいるだけで、何も楽しい事ではなかった。そこまで本気で蹴られているわけではないだろうが、かなり痛いはずだ。だが蹴られた生徒は我慢強く「やめてくれよぉ」と言うだけで、にこやかにしている。

  

 これはどんどんエスカレートするパターンだなと思い始めた時

「楽しそうだな」

 何時からいたのか俺の横に立っている恭也が、ニヤニヤしながら言った。

「お前、どう見たらあれが楽しそうに見えんの? どう見てもあれはいじめられているんじゃないのか」

 俺達がごちゃごちゃ喋る中、俺達とは別のドアから教室の中へ入っていく男子生徒が現れた。その生徒はかなり痩せた体形をしていた。そいつが四人のグループにニコニコしながら近寄って行くのが見えた。


「まあまあまあ、もうここらで終わりにした方がいいんじゃないかな。高橋くん達が強いってのはみんな知っているからさ、な。平和に過ごそうじゃん。俺達もう高校生なんだから。それに今は昼飯の時間だからみんなの迷惑にもなるしさ。イジメかっこわるい! なんちって」

 調子良く喋り続けるそいつを、四人のうちの一人が、いきなり殴りつけた。殴られた奴はうつ伏せに倒れた。


 そこではじめて教室内の無関心だった他生徒達がザワザワと騒がしくなった。先程までずっと蹴られていた生徒は何事も無かった様に教室からそっと出て行ったのを俺は呆れながら見ていた。(俺の時と同じだな)

 「高橋くんを怒らせると怖いぜ」

  手を出していない三人が笑いながら大声で言った。

 殴った奴は、恐らく先程、高橋と呼ばれた奴だろう。うつぶせに倒れこみ呻いている生徒の胸ぐらを、掴み仰向けに引き起こして中腰になった高橋。

 「なあ森元、これから毎日、俺が殴るのは、お前にするから」

 高橋は森元と呼ばれた生徒の胸倉をつかみながら、教室全生徒に聞こえる様に言った。

 「ちょいぃぃ、いきなり殴るかなあ。俺はただクラスの雰囲気のために」

 うろたえながらもまだ何か軽口を叩きかけた森元に

 「だまれ! 」

 高橋は冷めた表情で、森元の腹を上から殴り、森元はもう一度呻いた。


 一部始終を見ていた俺は、佐藤に絡まれた時の事を思い出し気分が悪くなった。いや俺の時よりも酷い。とにかく高橋と呼ばれた奴のグループの蛮行、助けてもらったにも関わらず逃げ出した奴、見ているだけのクラスメイト達に腹が立った。

 「おいおい、俺、助けに入った奴が虐められる側になってしまう瞬間、初めて見ちゃったよ。よくドラマとか漫画とかであるけど」

 何故か楽しげに話す恭也。

 「おい。関心している場合じゃないぞ」

 「何で? 俺はこのドラマチックな展開をまだまだ楽しみたいんだけど」

 「そんなわけないだろ! どこが! どこがどうドラマチックなんだよ」

 「いや、この先の展開が………」

  恭也の言葉を遮り、俺は

 「この先に新たな展開なんかねえよ」

 「だからって助けに入っても何も無いと思うぞ」

「お前、俺の時は助けてくれただろ」

 「お前とあの森元ってのとは全然違うんだよなあ。お前は一人でも俺の助けなんて要らなかったろ? 森元ってのは弱いくせに調子に乗ってペラペラ喋ってるいたからああなんのよ」

 助けようと思えば簡単に助ける事が出来るのにそうしようとしない恭也にだんだん腹が立ってきた。


 俺はどちらかと言えばこういうのに首をつっこみたくない方だがあの佐藤の時の記憶が蘇り助けに入ろうと思った。(あのとき俺には確実に助けは必要だったし、今の森元にも必要なはずだ)

「ああ、わかった、わかった、じゃあ俺がやめさせに行くけど、やられたらまた助けてくれよな」

 「ワハハハそんな必要ないだろ。ショボイのが四人だけじゃねえか」

 「一人だけでもやっとだよ! 」恭也にはあの四人が雑魚にみえるのだろう。四人だけっていうこいつの考えが恐ろしく感じた。 

「ハイハイいいから早く行けよ。映画みたいにかっこよく助けに行けよ」

 恭也は相変わらず俺が幾ら違うと言っても俺が強いと勘違いをしている。佐藤の件はまだしも三年の先輩とのやり取りでどこを見たらそういうふうに勘違いできるんだろう。

 「黙って見てろ! このヘボ監督が! 」

 捨て台詞の後、恭也の笑い声を背に、俺は自分自身に気合を入れるために、勢いよくドアを開けた。


 ドアのダァンっと開く大きな音に教室の全員が一斉に俺のことを見た。高橋は直ぐに掴んでいた森元の胸倉を離し立ち上がってこちらの様子を伺いだした。俺は教室内全員の視線をまったく気にしていないふりをしながら、四人組の方にゆっくりとたっぷり時間を使って歩いた。

 何故なら、俺は、高橋の四人組に厳しく言ってやりたいが、何をどう言うか決まってなかったからだ。


 教室内全員が好奇に満ちた視線で俺の姿を追いかける中、俺は高橋軍団の方へ向かってゆっくり歩いて行き、座り込んでいる森元をゆっくり引き起こし大丈夫かと聞くと、森元は「全然、全く平気だ」と言った途端に、また崩れそうになったので、体を支えてやった。

 高橋軍団を見ると、彼らは不安そうな眼で俺を見ていた。

「なにやってんの? 」

 俺の第一声は、高橋に向かって、こう言うだけで精一杯だった。

 「なんだそりゃ」

 いつの間にか俺の後ろにいた恭也がぽつりと言った。俺が教室に入るときにこいつも後からついて来てくれたみたいだ。

 「ヘタクソなセリフ吐きやがって、この大根役者が! 」

 恭也は、吐き捨てる様に俺に言い放ってから、高橋軍団の一人を衝撃音と共にフッ飛ばした。いきなり仲間を殴り飛ばされたことで残った三人は目を丸くして恭也のことを見た。

 「ちょっ、おい、お前、いきなり」

 俺が慌てて止めようとしたが、恭也は構わずもう一人の腹を蹴り上げた。蹴られてうずくまる仲間を呆然と見つめる高橋ともう一人。

 「こいつらみたいなバカは暴力でしか理解しないんだぜ。本当にバカだから」

 恭也は俺に振り返って笑った。恭也の発言から、残りの二人は俺にやれという事だと理解した俺は、二人に俺のへなちょこパンチを繰り出すために近づいた。

「ちょっと待ってくれ。俺達が悪かった。須藤君達が森元の友達って知らなかったから」

「だあれがこんな奴の友達だ! 」

 恭也はさらにもう一人を殴り倒して高橋に凄んだ。


 四人組に圧倒的な力の差で暴力を振るう恭也を見て俺とは全く異なった環境で生きてきたんだなと改めて思った。高橋は縮こまり俺を見て助けを求めているように見えた。俺が被害に遭ったわけでは無いが、さっきまで森元 涼介をいたぶっていたくせに自分がやられそうになると命乞いをするような高橋は最低な人間だと思った。


「ちょっと待ってくれ、恭也! 」

「わるい。お前の分まで全部やっちゃうとこだったな」

 俺の声で高橋に殴りかかろうとした事を止め、恭也は爽やかな笑顔を俺に向けて言った。 

 「いや、そうじゃなくて、そいつと森元とやらせよう」

 凶暴な面と爽やかな笑顔の二つの顔を持つ恭也に戸惑ったが、なんとか気持ちを立て直して森元を見て言った。森元は思いっきり戸惑った顔をしていた。

「やっぱりやられた奴がやり返さないとスッキリしないからな。こいつもこんだけやられたんだからムカついているはずだろ」

「そう、それ! そういうのが見たかったんだよな」

 恭也は嬉しそうに頷いた。

「いやいやいや、ちょっと待ってくれ。俺は、決してムカついてはいないし、暴力で解決しようとも思わない。俺は君達と違って武闘派ではなく平和主義者なんだよ、こう見えてもっていうか、そう見えるだろうし実際そうなんだよ! 」

 森元は唇から血を流しながらも慌てて俺の提案を否定した。

「森元、これだけは言っておく、俺も平和主義者だ。でもな平和主義者でもやらなけりゃならない時ってのがあるだろ」

 俺にしては熱く語った。自分に少し酔っていたかもしれない。

「うそつけ! 平和主義者がやり返すとかそんな事を言うわけないだろ。それからやらなくちゃならない時は別に今じゃない」

「ああもう、お前は黙ってろ」

 恭也が面倒くさそうに森元を黙らせてから高橋の方を見た。

「俺は全然かまわないぜ」

 高橋は余裕を取り戻しながら俺達に言った。高橋軍団の倒れた他の三人もこちらを見ていた。

「よし、じゃあ、俺の合図で始めろよ」

 恭也が二人の間に入りスタートの合図をだそうとする。俺は森元から離れ二人を見守ることにした。森元はまだ心の準備が出来ていない様子なのに対し高橋が余裕の顔でニヤついているのが気に食わなかった。


 高橋軍団の三人も周りで見ている状況の中、恭也が手を大きく一回叩いて、「よし、始め!」と言った。

 俺は背を向けている高橋の背中を思いっきり蹴った。高橋は勢いよく森元の前に吹っ飛び、手を床についた。蹴られた高橋も含め全員が呆気に取られた顔で俺をみた。

「なんで? 」

 四つん這いの体勢のまま高橋が俺に聞いた。

「いやあ、さっき森元が殴られてダメージ受けた分、不公平だなと思って」

「フフ、フハハ、ワハハハそうだな。二発だったからあと一発だな」

 恭也が嬉しそうに高橋を無理矢理起こして怯える高橋の顔に軽く一発叩き込んだ。ぐったりしている高橋。

「これで公平になったよな。じゃあ、行け、森元。やれ、森元! 頑張れ、森元! 」

 俺に言われて森元が慌てて蹴る足が高橋の顎を蹴り上げるように当たり高橋は一言呻き気絶した。

「これですっきりしたし、昼飯食いに行こうぜ、ハル」

 俺達は気絶した高橋と呆気にとられた顔の高橋軍団を残し、さっさと教室を後にした。教室内では俺達が出て行くまでクラスにいる全員が流布の目で俺達を見ていた。森元も俺達の一員の様に黙って俺達の後について来た。


 俺たちはこのまま次の授業をサボって学校の外のカレー屋に食べに行こうと話していた。

「で、いつまで俺達について来るんだ? 」 

 恭也が冷淡な表情で冷たく冷静に森元に言った。

「えっ俺? なんで、なんでなんで? さっきの一件で俺達もう仲間じゃんか。そういう仲間加入イベントだったじゃん。賢者がパーティーに加入しましたよってことじゃんか。なあ、ハル! 」

「お前、距離の縮め方が凄いな」

 いきなり下の名前で呼ばれた俺は、思わず呻いた。そして恭也の冷たい一言を物ともせずに調子良くまくし立ててくる森元に関心した。俺ははっきり言って森元みたいなお調子者は大好きだ。

「森元、お前が賢者ってことは、俺たちは勇者か? 」

 俺はなんだか嬉しくなって森元に乗ってみた。

「いや、お前たちは、関羽と張飛だ」

「はあ? お前、何言ってんだよ」

 恭也が冷めた眼で、冷たく言い放った。

 「関羽と張飛って、どっちが関羽なんだよ? 張飛って馬鹿な奴なんだろ。あんま知らないけど。俺、絶対、張飛は嫌だからな」と、俺。

「まてまて、ちょっと待て、ハル。そもそも何で俺達がこいつの手下になるんだよ! 関羽と張飛ってそういうことだろ。ただどっちかって言うと俺が関羽だろ! 」

 といつも冷静な口調の恭也が慌てて俺に言った。

 「わかった、わかった。お前ら二人は関羽と趙雲ってことで」

 「そもそも何で、お前が劉備ってのが決定事項なんだよ」

 恭也が森元に怒鳴った。はっきり言って俺はこの話にあまりついていけなかった。

 この日、俺は、家に帰る途中の本屋で三国志を買って帰ろうと思った。

 「いやいや俺のことは劉備でなく涼介って呼んでくれよ」

 「当たり前だろ! 誰がお前を劉備なんて呼ぶかよ」

 カレー屋に着いてからも恭也と涼介はまだ言い合っていた。それからは、いつも三人でつるむようになった。恭也は涼介をよく邪険に扱うが、涼介のことを徐々に気に入り始めたのが俺には解った。


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