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丘を越えたり、下ったり(仮)  作者: ムギオオ
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高校時代 (2)

 佐藤事変の後、俺は三年の先輩たちに校舎裏に呼び出され、三年の不良グループに凄まれた。教室での出来事が余程悔しかったのだろう佐藤が三年の先輩に俺の事を悪く言ったらしい。


 三年の連中はみな俺と同じ位の背丈でそれぞれ赤色の髪、金髪、茶髪で全員が鼻や耳にピアスをしていた。

 俺は佐藤の一件の後も決して偉そうにした事もいきがった事もない。俺は相変わらずの屁たれだがクラスのみんなが俺の事を勝手に一目置く様になっただけだ。それが佐藤には我慢できなかったのだろう。


 厄介な事になったと思いながらも俺は全く動じずに落ち着いていた。なぜならこの三人は佐藤に俺の事を悪く吹き込まれただけだし、誤解を解き三人の手を煩わせた事を謝罪すれば三人の自尊心も満たされ、すんなり帰らしてくれるだろうと思っていたからだ。


 今回は校舎裏なので余計なギャラリーもいないし、女子の眼もない。最悪土下座でもすれば終わると思っていた。ところが三年の茶髪が

「ニヤニヤしやがってこいつやっぱり俺らの事をなめてんな」

「お前俺たちの事馬鹿にしてんのか? 」

 俺はびっくりした。威嚇している相手には笑顔は誤解を生む。俺の精いっぱいの笑顔が何でそういう事になるのだろうと思い慌てて否定しようとした時、

 「ワハハハハ」

 三人の後ろから笑い声が聞こえてきた。

 「誰だ! 」

 三年全員が一斉に振り返った。 大笑いしながら長身の男が校舎の横からひょいと現れた。

 「須藤! 」

 三年の不良たちに緊張が走るのが伝わった。これが須藤 恭也との初めての出会いだった。俺が一年の時百七十五センチ位だったのに須藤がかなり大きく見えた。そして、かなりの男前だった。俺はまた面倒くさいのが増えたと思いながらも三人と須藤を静観していた。


 須藤を認識した三人は驚いた様子で固まっている。三人の様子で須藤という男はただものではないという事だけは解った。須藤は堂々とした態度でゆっくりとこちらに歩いて来た。

「三対一は、無いなー。うん。一年生相手に三年が三人で囲むってカッコ悪いな、うん」

 須藤は三人を完全にばかにした口調ニヤニヤしながら、さらに続けて

「一対一で勝つ自身が無いからってそれはないな。うん。ないぜ、センパイ」

 全員が恥ずかしさで顔を真っ赤に染めているように思えた。

「てめえには関係ないだろ」

 金髪の三年だけがなんとか自分達の面子を保つ為にやっとの思いで絞り出した言葉だったに違いない。俺はこの時初めて須藤の名前を知った。


 須藤はさらに三人に近づき赤髪と茶髪の間に入り二人の肩に手を回し言った。

「なあ。俺も古川の側につくけど三対二でやるか? 一年二人にやられたなんてことになったら恥ずかしくて学校にいてられなくなるんじゃないですか? センパイ」

 俺はこの時に須藤が一年生だということを初めて知って驚いた。そして俺はお前と二人で三年生三人と喧嘩をするつもりなどないということを伝えたかった。


 須藤は三年の三人の中にあってもやはりかなり大きい。三人は完全に須藤の余裕のある態度に呑まれ萎縮してしまっている。

「俺達は別にこいつをシメてやろうってわけじゃなくて、只こいつが俺達の事を馬鹿にしたって聞いたんでな」

 金髪が言い訳をするように喋り出した。その言葉に被せ気味に俺は

「僕は先輩方を馬鹿にした事なんかありません。僕は普通の真面目な一年です。先輩達の存在自体初めて知りました」

 と真剣な態度で三人を見て言った。三人は、ホッとしたように見えた。そして金髪が

 「そういう事なら、まあ」

 と言い終わるのを須藤は面倒くさそうに遮った。

 「ハイハイ、では先輩方そういう事で」

 と須藤は三人をシッシッと追い払うように手をヒラヒラさせながら言った。


 はじめは敵か味方もなくただひっかき回しにきたような須藤だったが結果俺の味方をしてくれたわけだ。須藤は三人が去っていくのを見ながら「ほんと情けねえ奴らだな」と独り言を言い俺に向き直った。

 「よお! 俺の事は知っているかい? 俺は須藤 恭也」

 俺が名乗ろうとする前に奴は爽やかな笑顔で

 「古川だろ。古川 晴一はるいち。こないだの佐藤との事で有名人だぜ。俺もあの時、見ていたからな」

 俺はあの時の事を思い出し少し照れた。

 「余計なお世話だったかな。お前なら三対一でも大丈夫だったかもな」と笑顔で須藤が言った。

「いやいや、とんでもない何を仰いますやら。本当に助かりました。これからも何卒よろしくお願いいたします」

 「ハハハ、古川ってそんな感じなのか。おもしろいな。」

 それから直ぐに俺達はお互いに打ち解けた。お互い片親家庭だという共通点(俺は父子家庭で須藤は母子家庭)も二人が仲良くなる一つの要因だったのだろう。

 須藤は中学から既に背も高くそして顔も良く三年の先輩が恐れる位のかなりの有名人だったみたいだ。色々な意味で。


 そんな恭也と俺はいつもつるむようになって俺達には三年生でさえも何も言えない存在になった。恭也は俺と違い成績も良く何事も卒なくこなしそし女子からもてた。男子からは恐れられた。

 恭也は中学の頃は学校も良くさぼったらしいのだが大学に進学するつもりなので高校は真面目に通うつもりだと言っていた。母子家庭だからお金に不自由しているというのは俺の偏見だという事がわかった。こいつはアルバイトをしなくてもいつもお金に困っていなかった。

 俺は女子に話しかけられる事が多くなったが会話のほとんどは、恭也の事に関してだけだったのが悲しい思い出だ。

 

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