大会
家に戻ると母とランスが食事の用意を終えて待っていた。
「遅いよ。僕が飢え死にしたらどうする気だい?」
スープを前にして口を尖らせているランスはもちろん無視だ。
「泳いでたからすっごくお腹すいちゃった。母さん、私の分は?」
「用意してあるよ、早く服置いといで」
汚れた服を家の奥に置いて、部屋へ戻るとスープが入れられた皿が三つと、拳大のパンが人数分揃えられていた。
「大地の神の恵みに、感謝します……さ、食べましょう」
手早くお祈りを済ませると私はスープを一口飲んだ。野菜の味が溶け出していて、ほんのりと甘かった。
「美味しいっ!」
私は固いパンに食いつくとそのまま噛み千切って食べた。
「こらっ、行儀良く食べないか!」
私はえへへと笑ってパンをスープに浸して食べる方式にチェンジした。
「って言うか、何でランスは家で食べてんの? ランスの家ならもっと色々食べ物あるでしょうに」
ランスは固いパンを旨そうに飲み込んだ。
「だってここで食べてると楽しいし」
「何よそれ」
三人は声を上げて笑った。
「ところでランス、アンタどうせ暇でしょ? 後で剣の練習手伝ってよ」
ランスは呆れたような顔でこちらを見返した。
「僕の都合は無視かい? 人をなんだと思ってるんだ、君は」
そう言いながらもランスは私の申し出を断らなかった。うん、中々見込みがある。
「にしても、アンタみたいなおてんばが剣を使うなんてね。最初聞いた時は冗談にしか思えなかったよ」
母が私の頭をくしゃっと撫でながら言った。
「母さん、それはもう三年も前の事よ。今じゃそこいらの男よりも強いわよ」
「何生意気言ってんだい、この子は」
母が更に強く私を撫でた。
「なあ、実は良い話があるんだが」
スープを飲み終えたランスが私の方を向いていった。
「何? 組み手で手加減してあげるつもりなら無いけど」
ランスはわざとらしく顔の前で手を振った。
「いや、そうじゃなくてだな。……今度ノウ・ウッズの町で剣闘士の大会が開かれるんだ。今回は本業の剣闘士だけじゃなくて一般からでも参加出来るんだ。それで……」
「行くっ!」
ランスの話を途中で遮り、私は母の方を見た。
「ねぇ、行っても良いでしょ?」
母は僅かに苦い顔をした。
「でもねぇ、剣闘士の大会って剣を持って斬りあうんだろう? 危ないんじゃないのかい」
私が何か言う前にランスは淡々と続けた。
「優勝商品は金貨三百枚で、準優勝は……」
ランスが続けているのを今度は母が遮った。
「良いともっ! 行っといで、ちゃんと優勝するんだよっ」
「やったあ! ありがとう、お母さん大好き!」
私は両手で母に抱きついた。
「やれやれ、仲の良い親子だな……」
ランスは独り、呟いた。
それから一週間ほどはランスも巻き込んで剣の練習ばかりをしていた。元々剣を握って一日の殆んどを過ごして来た私にとってはどうって事はないが、ランスは段々と余裕面を崩していった。