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元夫の部下もストーカー

「ハジメ、ビャク、ちゃんと運んでね。」

「何でこんなことやらされてんだ。」

「文句言うな。」


 かくして、100人前のお弁当を作り終えた我ら一行は、ぶつかった少年が指名した闘技場までやってきていた。

 アダムは、カフェでお留守番。

 しかし、また闘技場とは……何かイベントでもあるのかな?

 大公領は、大公が武神なだけあって格闘技や騎士達の力比べも、領民達に観戦される。

 格闘や戦いごとは、この領ではお祭りごとも同然。


「今日は闘技場じゃ何のイベントもなかっただろう。」

「あれば、うちの商会がこんなに静かな訳ないよ。」

「どこかの貴族が貸し切っているんでしょう」


 とんだお金持ちの貴族がいたものである。

 いや、貴族だからお金持ちなのか。

 少年が言うには昼になれば皆集まるから、観戦席に持ってきてくれだそうだ。

 早くこの重い弁当達を置かないと、ビャクが暴れ出しそう……。


「デケェ馬車だな。」


 ビャクがふと呟いて、その視線の先を追った。

 黒と少しの金色が施されたそれは、かつて私も何度か乗車したことのあるものだった。

 大公が直々に訪れているとは考えにくいが、関係者に顔を見られるのも気まずい……。

 世の離婚した女性は、こんなにも肩身の狭い思いで生きているのだろうか……。


「大公のものですか?」

「そうだけど、本人が来るとは限らないわ。」

「毎日決まって店に来てるのに、今日に限ってここに来るか?来てたら本物のストーカー野郎だな。」


 ハッと鼻を鳴らすビャク。

 お前はきっといつか大公に首をはねられるだろう。

 流石に直接対面は哀れに思ったのか、ハジメが私に先に帰るよう促した。

 だが、お弁当を台無しにした私が行かないのは、筋違いにも程があるだろう。

 たとえ大公がいたとしても、うちのハジメとビャクがなんとかしてくれる……はず。

 長い闘技場の門を潜れば、大きな広場にそこを取り囲む高い壁。

 いつも、彼に会うのを避けて闘技場に来ないようにしていて、遠くから眺めるだけだったけど、随分と大きな場所だ。


「私初めて来たんだけど。」

「元はこれほど大きな場所じゃなかったそうですよ。五年前に大改造されたそうです。」

「そうなの?通りで、実家がないわけね」


 ハジメの説明に、ずっと疑問だったことが解けた。


「アンタの家、消えてなくなってたんだって?」

「たぶん、この闘技場の拡張で買収されたのね。建物の位置が変わってないから、分からなかったわ。」

「自分家がわからないほどの阿呆に、俺は雇われてると思うと泣けてくる。」

「仕方ないでしょ。家なんてほとんど出してもらえないから周辺の景色なんて知らないし、馬車に乗ったのも大公の持ち物が初めてよ。」


 実際に、当時の大公はまだ騎士団長であったわけだが……。

 当時の馬車を使っているのを見ると、やはり大公ではない気がする。

 一国の王と同等の権力を持つ大公だ。

 お古の馬車一つ、誰かにくれてやったのかもしれない。

 観覧席まで重い弁当達を運び込み、ビャクはまたいつものように悪態を吐いた。


「クソ、今日は森で鳥でも打ってこうようと思ってたんだが……。」

「領内の森で狩りは禁止だぞ。」

「ハジメ。それでビャクが人打っちゃったらどうするの?」


 ビャクは根っからのスナイパー気質で、どんな場所からも百発百中の腕を持つ。ビャクだけにフフっ。

 ただ難点なのは、自分の趣味である狙撃の腕も、森ならまだしもこんな人が多い街では、活用されにくい。

 故にビャクちゃん、最近は森に出向いてこっそりストレス発散をしている。

 溜まったストレスを、民に向けるよりマシだ。


「おい、だれか出で来たぞ。こっからなら余裕でブチ抜ける。」

「だから、俺はお前に銃を持たせたくないんだ。」

「……アンタ今日ついてないな」


 ビャクが銃を構えるようにして眺めていたのは、見るからに頑丈そうな大きな門。

 それを軽々と片手で開ける巨漢が一人。

 金髪の坊主頭に、何故か黒い顎髭を蓄え、褐色の肌は太陽で艶めいている。

 大公閣下その人である。


「……こっち見てるな。」

「流石にこの遠さで見えてはいないだろ。」

「一説には、大公は山一つ分向こうの敵の軍勢も見逃さないらしい。」

「それが事実なら、俺らの黒子の数までわかってるんだろうな」


 事実である。

 黒子云々はわからないが、彼が遥か上空の鳥を見て、足に手紙がついてる伝書鳥かと呟いた時は驚いた。

 私は、手紙どころか鳥の姿すら確認できなかったのだから。


「大丈夫ですか?」

「いささか気まずい。」

「いよいよ、ストーカーと直接対決だな。」


 ハジメとは正反対に、腕がなるぜと、ニヤニヤ大公を見ているビャク。

 ……お前、絶対首が飛ぶからな。

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