元夫はストーカー
ここは、美しい河川によって栄える国。
武神と呼ばれた騎士団長が、戦争の功労として大公の称号と共に賜った地だ。
そして、その地で幾多の店を営む帝国一のキャラバンが、私を筆頭とするアイン商会である。
品質は随一、品目の数は業界最多種、おまけに豊富な取引先とのコネクション。
また、私が月に一度発表する商品は、他に類を見ない目玉商品として有名だ。
そんな私は現在、とあるカフェで半年ほど前から働いている。
一応男爵令嬢であり、アイン商会も所有している私が何故働いているのかって?
ひとえに、経験と知識のためである。
「いらっしゃいませ。本日のおすすめは、チョコレートと抹茶のスフレになっております。」
もちろんこのお店も商会が営む店のひとつである。
ちなみに、今おすすめした商品も私が発表した月一の目玉商品だ。
なぜ、チョコと抹茶が目玉なのか。
賢い皆様ならもうお気づきだろう、私は前世の記憶を持って生まれたのだ。
ありがたいことに、前世で存在したはずの食べ物は、材料こそあれど商品化されていなかった。
そこに目をつけた私は、前世の知恵を使い、今や大商会の主人にまで登り詰めたのだ。ふふん。
まぁ、ここまでくるのに紆余曲折あったのだが……。
加えて、その曲折がさらに紆余を呼び、新たな曲折を作りかけている。
「店長、またあの方がいらっしゃってます」
「またぁ?全く、自分のご身分が分かってらっしゃらないのかしら?」
小さく耳打ちをしてきた従業員の視線の先には、背丈が2メートルを超えるフードの男が立っていた。
現在午後4時、この時間は忙しくもなく常連のご婦人方が、サロン代わりに使っているぐらいだ。
だが、それでも護衛1人つけずに大公本人がうろつくのはいかがなものか。
「お一人でよろしいですか?」
「……」
口を開くことなく小さく首を縦に振るので、この時間一番西陽の直射が強い席に案内した。
金を払わないわけでも、文句をつけてくるわけでもないが、問題が起こる前に帰ってもらいたい。
なぜなら、彼こそが私がさっき話した曲折だからである。
名はセイジュローン•タイガー、数多の戦場で勝利を勝ち取った武神、元皇太子で現皇帝の兄、帝国最強の男。
彼を称える代名詞は多くある。
だが私にとっては、この言葉が一番しっくりくる。
私、モモラ•クイーンの元夫である。