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「―――それで、その後どうされた、と……?」
「どう、と言われても、普通にダンジョン化していた処にララさん達戦闘要員が突入して行って、最奥に在ったコアを破壊して潰して来た、ってだけですが?
幸い、本当にまだ発生したばかりの若いダンジョンで、領域の外まで魔物が溢れ出して来るよりも先に突入出来たので被害もほぼ『無し』と言っても良いレベルで済みましたけど、潰しちゃ不味かったですか?」
「……それは、判断としては間違っていなかったと思われます。
人気の少ない場所で、かつ管理し易く魔物も弱いモノしか出ないのであれば、資源の採取と言う観点からは残して頂きたかったですが、聞く限りですと例のスゥホーイ村に近すぎる様子でしたので、処理して頂けたのであれば幸いでした。流石に、何の罪も無い村人達に、村を棄てて他へと移れ、とは言い辛いですからね」
「まぁ、それはそうですよ。俺としても、折角依頼を達成してこれからまともに収穫出来る様にしたって言うのに、村一つ散り散り、なんて事態は流石に許容出来ないですからね」
「……!と言う事は、私からの依頼は全て……?」
「えぇ、俺の主観としてですが、取り敢えずは達成出来たかと。
第一の依頼『実地での不作の原因の調査』。これは普通に現地に行って調べた限り、恐らくは、とつきますが原因を突き止めるに至りました。
そして第二の依頼『原因の把握とその対処法の確立』ですが、取り敢えずは今回の様な特異な例と、通常で考えられる場合の二通り用意してあります。
最後に、第三の依頼である『原因の除去並びに耕作可能地への復帰』ですが、軽く実験してみた限りでは今度はちゃんと育つ様になっていたので、もう心配はしなくても良いかと。あ、勿論、災害だとか疫病だとかで収穫出来なくなる可能性までは否定出来ないので、そこら辺だけは覚えておいて下さいね?」
「………………失礼。もう少し、全体的に詳しく説明をお願い出来ないでしょうか……」
額に手を当て、眉間にシワを寄せた状態にて説明を求めて来るオルランドゥ王の姿に、思わず首を傾げる事で応えてしまう俺。
約半月程振りに、依頼を達成して帰還したと言う報告をしに来たら、何故かオルランドゥ王に直接報告する事になり、こうして結果を報告していたと言うのに、何が不味かったのだろうか?
流石に、情報量を圧縮し過ぎたから分かりにくかった、と言う事だろうか?
なら、もう少し分かりやすく、それでいて詳細な情報も加えて本格的な報告でもした方が良いかね?
そう判断した俺は、向こうで行った諸々についての記憶を思い返しながら、再度オルランドゥ王へと向かって口を開く。
「取り敢えず、向こうでの調査とダンジョンを潰した、までは良いですよね?」
「……えぇ、普通はそんなにアッサリと流すべき事柄では無いですが、当面の間はそう言う事にしておきましょう」
「……?まぁ、良いのなら良いのですけど。
それで、不作の原因ですが、恐らくはダンジョン、と言うよりも[マナ]の澱み、でした」
「…………それは、良くない[マナ]が溜まっていた付近に在り、長時間澱んだ[マナ]に触れていて影響を得ていた溜め池の水を使用した事により、新しい作物であったコムギに良くない影響を及ぼしていた、と言う事でしょうか?」
「えぇ、概ねその通りかと。勿論、先程も言った通りに土もあまり相性が良かったとは言い難いですが、ララさん達にダンジョンを潰すついでに採取して来てもらったサンプルの水を調べてみた処、俺が作った小麦とは致命的に相性が悪かった事が分かりました。
まぁ、あそこの水だったからそこまで相性が悪くなったのか、それとも[マナ]の澱みに触れた水であればそうなるのかまでは流石に不明ですが、取り敢えずの原因と見ては間違いないでしょうね」
「では、一つ目と二つ目は完遂出来たと考えても良い、と言う事でしょうか?」
「一応は。取り敢えず先程も説明した通りに、大元の原因はダンジョンが発生した事による影響だったと見て間違いは無いでしょう。
基本的に、小麦の栽培が上手く行かないのでしたら、水に含まれる[マナ]の量と、畑の土の色が黒くないか、を調べてみるのが一番手早く済む、と言うのが今回の依頼で出せた結論になります。
勿論、今回の件で得られた情報のみに基づいた結論なので、他の原因で失敗する事も多々あるとは思いますけどね?」
「……成る程、そう言う事でしたか……」
「因みに、原因が水に在った場合は水源の近くにダンジョンが出来ているか、もしくは出来かけている可能性が高いので要注意。
土が原因の場合は、取り敢えず別の作物を植えて実りを収穫してから、残った部分を土に鋤き込んで休ませるか、もしくは近くの森から土を運び込んで元在った土と混ぜ合わせれば、大概はそれでどうにかなるハズです」
「水の方は、調査を徹底させるとしましても、土の方はどのくらいの信頼度で回復が見込めますかな?」
「割合保証までは出来ないですが、少なくとも俺が実験的に植木鉢でやってみた限りではキチンと芽を出したので、多分大丈夫?程度には恐らく。
もっとも、そろそろ季節的にも寒さが強くなってくる頃合いだったハズなので、実際に種籾を蒔いて試すのは来年以降の話になるでしょうけど」
「……成る、程……。
では、依頼として出していた三つ目も、ほぼ完遂出来ている、と言う事でよろしいでしょうか?」
「そう考えても良いかな?程度には、と言った処ですけどね。
何せ今回一件だけですから、コレが万事同じ結果になるのか、それともあのスゥホーイ村だけの結果なのかは流石に保証しかねます。
まぁ、取り敢えず今後同じ様な事例が起きた際の前例としてのテストケースとしてでも考えておいて下さい」
「……それも、そうでしたな……。
……しかし、タキガワ様に言われてみれば、確かにそろそろ季節が巡る頃合い。時の流れと言うのは早いモノですな……」
俺からの説明に納得した様子を見せていたオルランドゥ王が、唐突に季節の話を始めながら遠い目をし始めた事に若干の戸惑いを覚えながらも、取り敢えず意味が無い訳ではないのだろうと判断して聞きに回る態勢を整える。
「…………私達が、タキガワ様をこちらにお呼び立てした直後にお話した事を、覚えておいでですか……?」
「……?どの部分に関してなのかは今一分かりかねますが、まぁ、一応一通りは」
「……では、皆様をこちらにお呼び立てしてからどのくらいの時が経ったのか、お覚えですか?」
「……確か、そろそろ半年……って事は、もしかして?」
「えぇ、その通りです。そろそろ、皆様を送還する為の魔方陣を起動させる事が可能になる頃合いです。お忘れでしたか?」
「ははっ、確かに、すっかり忘れてしまっていましたよ。こちらでの生活が、余りにも濃厚で刺激的でいて、それでいて楽しみに満ちておりましたので、最近は意識して数える事を忘れていましたが、そうですか……。
もう、そんなに経ちましたか……」
俺もオルランドゥ王と同じ様に、若干遠い目をしながらしみじみと呟く。
……そうか……もう、そんなに経ってたのか……。
こっちに呼ばれてから色々と在ったから、すっかり忘れていたなぁ……。
元より、向こうの世界への執着心が色々な理由にて薄かったからか、それともあの手この手で向こうの世界のモノを再現したりしなかったり出来なかったりしているからか、もうすぐ帰れる、と言われても特に感慨深くも無いし、望郷の念や安堵感と言ったモノも特には浮かんでは来ない。
……と言うよりも、ぶっちゃけた話をすれば、向こうに戻っても残りの短い余生を碌に動かない身体を引き摺ったまま、四六時中監視の目に晒されたままで過ごす羽目になる向こうに戻れる、と言われても、だからなに?としか言えないと言うのが本音だったりする。
と言うよりも、こちらの世界の方が確かに不便ではあるし直接的な命の危険は多く在るのは間違いないけれど、それでも不当に実験台にされることも、意味も称賛も無い殺し合いをさせられる事も、的外れに虐げられたり不快に監視されることも無く、それでいてある程度までは自分の意思で身体を快調させられるのだからかなりマシなんじゃなかろうか?
正直な話をすれば、俺的にはこちらが快適過ぎて帰りたくないと言うのが本音だったりするのだけど。
そんな俺の内心での考えが顔に出ていたのか、それとも長い間一国の王として君臨していた事によって彼の身に付いた観察眼によるモノかは不明だが、それまでよりも雰囲気を引き締めて存在感と覇気を顕にしながら、厳かな雰囲気を作り出して俺へと向けて言葉を放つのであった。
「……タキガワ様、いえ、救世主殿。私、ディスカー王国国王たるオルランドゥ・ウラギルタン・ディスカーが、貴方に提案させて頂きます。
……これより七日の後、送還の儀を執り行いますが、その際に貴方にはこちらの世界に残って頂きたい。これはあくまでも要請ではありますが、私の全ての立場として、一人のオルランドゥとしても、一人の父親としても、この国の王としても発言しているととって頂いて構いませぬ。
……ですのでどうか、刻限まで、互いに最も良い結果を出せる様にご考慮頂ければ幸いであります」
些か突然ですがそろそろ締めにかかります
どんな結末になるのかお楽しみに