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「……まさか、あり得ないとは思ったけど……」


「…………ん。それは、間違いなく。でも、そう思って調べてみれば、確かにここはダンジョンっぽい。良く気付けたね?」


「……おぅふ。俺が言い出した事だったけど、まさか本当にダンジョンになっているとは、ね……」



 俺からの仮説を聞いた二人は、最初こそ驚愕に染まって思考停止していた様子だったが、気を取り直して他の面々にも声を掛けて周囲を軽く調査してみた処、俺の仮説が本当に当たっていた事が判明した。



 そう、この溜め池を隠していた木立は、現在ダンジョンと化してしまっているのだ。



 ……いや、確かに俺本人が言い出した事だし、ある程度は確証も在っての考えではあったけど、まさか本当にそうなってるとは思わないじゃん?

 おまけに、割りと簡単な調査でちょちょいと判別出来るとも思わないじゃん?なら、言い出しっぺの俺が驚いていても不思議じゃないよね?そうだよね!?



「……でも、ダンジョンってそんなに急に出来上がる様なモノなのかな?この世界の常識に詳しくは無い僕が言うのは違うかも知れないけど、でも不自然じゃない?」


「それ、私も思ったよ。私もその手の事情には明るく無いからなんとも言えないけど、それでもいきなり『はい、完成!ここはこれからダンジョンだからね!』ってなる様なモノなの?

 最低限、何かしらの条件が整った上で、それなりに時間が掛かるモノの様なイメージが在ったんだけど……?」



 不思議そうに首を捻りながら、意見を出して来る加田屋と桐谷さん。

 俺としても、条件がそうなっている様に見えたから提案してみたと言うだけだったので、概ね二人の感想と同じ様なモノを抱いていた為に首肯して賛意を示しておく。


 すると、調査を実行していたララさんと、本来は外交畑でありながらも現在はほぼ戦闘要員として参加しているドラコーさんが、興味ありげな風にして会話に参加してくる。



「……ん。確かに、その辺は気になる。今まで、取り敢えず『こうなったらダンジョン』って基準は在ったけど、なんでそうなるのかは知らなかったから興味はある。なんで?」


「そうでありますなぁ。確かに、ドラグニティでも幾つかダンジョンと判断する為の基準があったでありますが、どんな条件が揃えばダンジョンと化すのか、は聞いた事は無かったであります。

 それに、ダンジョンとは『発生したのならば攻略するモノ』と言う概念が先行しておりましたので、何故発生するのか?と言った事は考えた事が無かったでありますなぁ。その辺、なにか分かっていたりするのでありますか?」



 二人の視線が向けられた先には、残りの面子たるセレティさんとレティシア王女の、周囲の調査を続けている姿が在った。


 生えている木立の樹を叩いたり虫眼鏡の様なモノで観察していたセレティさんや、腰にくくりつけていたポーチから取り出した何かの道具で周囲を探っていたレティシア王女も、質問と言う形にて水を向けられた事により、作業の手を一時止めてこちらの会話に加わって来た。



「あん?ダンジョン発生の定義かい?そんなの、自然の澱んだ[マナ]が一定量以上溜まった場所がダンジョンへと変異するんだから、『[マナ]が澱む事』じゃないのかい?」


「…………いや、[マナ]が澱むってなんですか?初耳なんですけど?と言うか、[マナ]って人や魔物以外も持ってるモノなんですか?なんだか、自然界に普遍的に存在するモノ、みたいな感じに聞こえましたけど?」


「なんだい、分かってるみたいじゃないのさ。と言うか、[マナ]ってのはそもそもが人や魔物みたいな生き物の中に在るモノじゃないからね?大元は、自然界に存在している純粋なエネルギーなのさ」


「私達は、その自然界に存在している[マナ]を呼吸と共に体内へと摂取し、特別使用しない時は心臓の近くに貯蔵している、と考えられています。ちなみに、[マナ]を加工して[スキル]を発動させると体力が消耗するのは、[マナ]を加工する際に自らの身体に合わせた調節を施す為に消費されている、と考えられております」


「へぇー、初めて聞きましたよ。

 それで、『[マナ]が澱む』って言うのは一体……?」


「それは、[マナ]の循環が滞る事で発生する、と言われております」


「……[マナ]の循環、ですか……?」


「えぇ、そうです。私達が身体へと取り込み、そして加工・使用した後の[マナ]は大気中へと溶け出して、元の自然界に在る[マナ]へと戻る、と言われております。

 そして、その自然界に在る[マナ]は、水や空気がそう在る様に、世界中を循環し対流していると言われております。

 しかし、その循環が何らかの理由で滞り、長時間一ヶ所に留まる事になると、そこの[マナ]の濃度が自然と高くなり、そこから魔物が発生する、と言われております。その現状を指して、私達は『[マナ]が澱む』と表現している、と言う事です」


「……じゃあ、その『[マナ]が澱む』って言う現象がここで起きてるから、ここがダンジョンになっちゃった、って感じですか?」


「まぁ、ざっくり言えばそうなるね。ダンジョンで魔物が出てくるのだって、その溜まって澱んだ[マナ]の濃度が高くなってるから、って言うのが、今の処一番有力な説って言われてるよ」


「「「…………へぇ~、そうなんだ~……」」」



 思わぬ事実に、揃って間の抜けた声を挙げてしまう俺達三人。


 先程、俺達と同じ様な反応を示していたララさんとドラコーさんも、声こそ出してはいないものの、反応その物としては俺達と同じ様な事をしている処を見ると、やはり知らなかったのだろう事が窺えた。


 ……他の文化的な方面でのアレコレはあれだけガタガタだと言うのに、こう言う生存や戦闘に直結する方面だけは確り残っていると言うのは、些かアンバランスな様な気もするが、これは極端ではあるが『適者生存』と言う事で良いのだろうか?

 なんだか違うような気もしないでもないが、他に言い表せる言葉が思い至らないのだから仕方無いだろう。



 ……まぁ、とは言え――――




「……でも、そう言う方面だけは研究されているのに、わざわざ他の世界から呼び出さなきゃならない程に文化的に衰退しているのって、ちょっと極端に過ぎるんじゃなかろうか……?」


「「「「…………グフッ……!?」」」」




 俺が思わず溢した呟きにより、この世界に於ける現地人の四人は心当たりが在りすぎるのか、皆一様に胸を抑えて吐血しながら踞ってしまう。

 ついでに言うと、何時もの如く着いてきていた使用人のお姉さん(そろそろ本当に名前を聞いておきたい)も、表情は普段の通りであったが、少し離れた場所にて同じ様に吐血しながら胸を抑えていた。もっとも、流石に踞りはしていなかったみたいだが、生えている樹に手を突いてどうにか身体を支えて堪えている様子ではあったけど。



「…………その、なんと言うか……申し訳無い…………」



 別段、責めるつもりで言った訳でも、弄るつもりで言った訳でも無い為に押し寄せる罪悪感が半端無く、思わず謝罪の言葉を口にする俺。


 ……しかし、ソレにより事実上文化的な衰退を食い止められておらず、かつ一方的な理由にて俺達をこの世界へと呼び出し、その上で自分達の望む[スキル]や【職業】を持っていなかったら冷遇しようとしていた(実際に最初は態度が刺々しかった)レティシア王女が断末魔の呻き声を挙げて気絶し、直接衰退を見守る形で実際に過渡期を生きて来たセレティさんとドラコーさんの長命種コンビは、血涙をながしつつ胸を掻きむしりながら土下座を慣行し始めた。



「……ちょっ!?じょ、冗談!只の冗談ですから!?怒っても怨んでもないですから止めて下さい!?」


「……そ、そうですよ!滝川君も冗談だって怒ってないって言ってるんですから、ここらで止めましょう!ね!?」


「そ、そうだよ、ね?響君も戸惑ってるし、今回はこの辺にしておこうよ。ね??」


「……じ、事情は存じ上げませんが、流石にここでは危のうございます。で、ですので、取り敢えず戻られてからになさって下さいませんか!?お願いしますから!!?」



 突然の事態に、俺と同じくドン引きしている加田屋と桐谷さん、グラッド村長と共にどうにか収めようとする。しかし、場の混迷は収まる処を知らず、より一層深まって行くばかり。


 助けを求めてララさんへと視線を送ると、彼女は彼女で



「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」



 とひたすらに呟きながら近くの樹に額をゴンゴンと叩き付けている(樹の方が砕けそうなのはここだけの話)ので確実に当てには出来ない。


 すがる思いで視線を巡らせれば、そこには最後の砦と考えていた使用人のお姉さんが、息も絶え絶えな様子で辛うじて樹に掴まって立っており、その表情はまるで大切な誰かでも自らの手で惨殺でもしたかの様に青ざめており、今にも意識を手離しそうになっていた。


 それらを目の当たりにした俺は、眼前に広がる地獄絵図に対してどう対処したものか、と頭を悩ませつつ天を仰いで覚悟を決め、どうにか介護しようとしている他の面々の元へと手伝う為に向かって行くのであった。




 …………なお、どうにかあの手この手で宥めすかす事で立ち直らせる事には成功したが、その代償にアレコレする約束をしてしまったのはここだけの話である。

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