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 村長の案内にて木立の中を進む事暫し。


 俺達は、幾度も魔物からの襲撃を受けていた。



「……ん!散れ!!」


「邪魔であります!!」



 呟く様に言葉を溢す二人の手により、何度目になるか分からない魔物達の襲撃が蹴散らされる。


 村長が言っていた様に、そこまで狂暴な魔物は出て来ていなかったので、ララさんは俺が贈った無銘の刀で戦っているし、ドラコーさんもララさんとやり合った時の様に、地面にクレーターを作る程に全力を込めて得物を振るって訳ではない為に、二人ともある程度手抜きして戦っているのであろう事が見て取れる。


 そして、当然戦っているのは二人だけではなく、俺を除いた他の面々は全員が参戦を果たしている。



「ほい。[火矢(ファイア・アロー)]から[風矢(ウィンド・アロー)]に[水矢(アクア・アロー)]まで繋げて、最後に止めの[風刃(ウィンド・カッター)]っと。

 ……大して強くないけど、数が多いのが面倒臭いなぁ、もう……」


「[盾撃(シールド・バッシュ)]![盾撃(シールド・バッシュ)]![盾撃(シールド・バッシュ)]!

 この程度なら、守らないで殴っていた方が早そうだね」


「……[標的固定(ロック)]、[狙撃(スナイプ)]、[驟雨ノ矢(アロー・レイン)]!

 ……楽なのは良いですが、コレでは折角作って頂いた弓の性能を試す事すら覚束無いですね。残念です」


「……いや、王女様はまだ出番があるだけましだろうに。ウチなんざ、カタヤの嬢ちゃんが片っ端から始末しちまうから、手を出す暇も無いって言うのにさ」


「あら、これは失礼を。でも、だからこそタキガワ様の護衛としてお側に侍っている事が出来るのですから、ある意味役得では無いかしら?」


「……ん。そうそう。それは役得以外の何物でもない。

 そんなに殺りたいなら、代わろうか?」


「あ!自分も!自分も代わって欲しいであります!」



 この様に、何処か気の抜けた会話を織り混ぜながら、その上で非戦闘要員まで出した状態でも軽く蹴散らせる程度の魔物しか出て来ていないが、それでも村長曰く



『そこまで頻繁では無いですが、魔物が出ないこともないのでご注意下さい』



 との前説であったので、恐らくは普段はここまでの数は出ないのだろう。


 その証拠に、ここに慣れているハズのグラッド村長も表情を険しくしながら持ち込んだマチェットを振るって魔物を叩き切っている。


 慣れた手付きで叩き付けた刃を引き戻し、動作の合間に血振りを済ませた上で[スキル]も交えて再び別の魔物に切り付けるその後ろ姿は安定感と頼もしさを纏っており、少し前までの『若干草臥れた中年』と言った感じの風体からは予想も出来なかったであろう程に洗練された技術の跡が窺える。



「……先程のお話だと、そこまで強くは無いにしても、ここまで沢山出てくる様な話題は無かった様に思えるのですが?それとも、あの時のお話は虚偽だった、と言うことでしょうか?」


「……まさか、誤解です!普段の通りであったのでしたら、ここまで多くの魔物と次々に遭遇するなんて事は今の今までありませんでした。それに、ここまで危険が多く在る様な場所に、溜め池なんて言う村の生命線とも言える重要施設を作るハズが無いでしょう?」


「……まぁ、それもそうですね。農作業の合間に、それこそ日に何度も往復する必要の在る溜め池を、ここまで手間が掛かる場所にわざわざ作る必要は無い、か……。

 ……しかし、それにしても少し遠くは無いですか?地理的な問題だったとしても、もう少し畑に近い場所に設えておけばもっと楽に農作業が出来たのでは?」


「…………じつは、その事なのですが……」



 グラッド村長が、とても言い難そうにしながら口を閉ざしてしまう。


 その様子からは、ほぼ間違いなく現状が異常事態であると言う事を認識している事が窺えたが、その認識が在ったとしてもこうして口をつぐみたくなる様な事情が在る、と言う事なのだろうか?


 しかし、俺達としてはその『事情』を汲んでやる事も、慮ってやる事も現状では不明な点が多すぎる為に出来ないので、無理矢理にでも口を割らせるべく、多少の殺気と苛立ちを織り混ぜた視線を強烈に村長へと向けて降り注がせる。


 すると、流石に言い逃れする事や黙りを決め込む事は俺が許さないと悟ったのか、気まずそうに視線を逸らしながら再び口を開いた。



「…………じつは、既にこの木立に入ってから、普段であればもう溜め池へと到着しているであろう距離を歩いたハズなのですが……」


「…………まだ、到着していない、と……?」


「………………はい、そうなります。

 そもそも、目的地としておりました溜め池は、周囲に目隠し等の役割として木立の中へと造りましたが、本来であれば到着するのにそんなに歩く必要は無いのです。ですが……」


「……が、現状としては着いていない、か……」


「…………はい。何故こうなっているのかは、さっぱり分かりません。昨日までは、普通に直ぐに辿り着けたのですが……」



 ……まぁ、確かに、言われてみれば道理と言うモノか。


 そもそもの目的として農業用の用水源の為に作った施設である、と言う事であるならば、大前提として畑の近くに無いと、その存在意義を否定する様なモノだろう。わざわざ便利にするために作ったのに、使い勝手を悪くする必要は無いからね。


 木立の中に設えたのだって、周囲から隠す必要に駈られてそうしたのだろう事も容易に判断できるが、そう言う事情を鑑みればそこまで木立の奥深くに作る訳が無い、と言うのが道理だ。


 ……ならば、何故現状としてはこうなっているのか。これが、目下の処の最大の謎にして、最大の問題であると言えるだろう。



 と言うよりも、そもそもの話として、施設までの距離が変わる、なんて事があり得るのか?


 グラッド村長が騙している、と言う可能性は未だに残ってはいるけれど、その彼本人が一番現状に戸惑っているから恐らくはそれは無いと見ても良い……かもしれない。

 まぁ、国から調査の為に派遣されて来た俺達に嘘を吐いて心証を悪くする必要も、この場で俺達を嵌める意味も無いので、恐らくは違うのだろう。多分。


 だが、となると最初から『こうなっていた』と言う訳ではないと言う事になる。そんな事はあり得るのだろうか……って、あれ……?



 そこまで考えた俺の脳裏に、とある記憶が過って行く。


 ……そう言えば、割りと最近、具体的に言えば数ヵ月程前に、似た様な事例を聞いた様な……?


 確かアレは、本来何も無かったハズの空間に、後付けで自身の存在を無理矢理割り込ませる事で固定する事で発生する、とか言うのを『あの件』の後で耳にした覚えが在る……様な気がする。


 そして、その在り方は千差万別であり、共通する事は『魔物が発生する事』と『最奥にコアが置かれている事』の二つのみ。

 そして、その発生の過程も、文字の通りに『何も無かった場所』に突然発生する場合もあれば、『元々在った洞窟や遺跡や森』が変異して発生する場合もあるらしいが、定義的には同じものとして括られるのだそうだ。


 故に、()()()()()()()()()()()()をしていたとしても、それまで()()()()()()()()()()()()()()だったとしても、『ソレ』である事に変わりは無い。


 ……で、あるのならば、()()()()()()()()()()()()()()()()が、突然異空間と化してしまったとしても、定義的には不思議ではない……のかも知れない。


 かも知れないが、そんな事本当にあり得るのだろうか?

 俺達が来て、調査を始めた段階で?

 偶然にしては、確率的にあり得なくないか?

 まるで、図ったかの様なこのタイミングで?


 ……でも、現実として目の前に存在しているのだから、諦めて認めるしかない、と言う事だろうか。


 …………正直な話をすれば、以前のアレで死にかけた事もあるし、もう二度と潜るのはゴメンだ、と思っていたのだけどなぁ……。


 まぁ、その手の方面に詳しい面子も多いのだから、取り敢えず聞くだけ聞いてみれば良いか。うん。


 …………外れてくれていたら、嬉しいなぁ……。



「……ララさん、セレティさん、ちょっと良いですか?」


「……ん?なに?」


「あん?どうしたよ?」


「いや、ね?現状、村長の話によると、どうやらおかしいみたいじゃないですか」


「……ん。そうみたい」


「まぁ、らしいけど、それがどうしたよ?」


「……いや、ね?一応、彼の言う『元々こんなに魔物も出て来なかったし、そもそもこんなに奥には無かったハズだ』って話が事実だったと仮定した場合、現状を丸っと説明出来る仮説が思い浮かんだんですけどね?それってあり得るのかなぁ、と」


「……ん?どう言う事?」


「……つまり、その仮説をウチらが聞いて、この世界の常識やらと照らし合わせてあり得るのかどうかを判断すれば良いってかい?」


「まぁ、そんな感じです。

 ……で、回りくどい事をする様な盤面でも無いし、そもそもそう言う事が大好き、って訳でもないんで単刀直入に聞きますけど




 …………ここ、ダンジョンになってる、って可能性はあり得ないですかね?」



「「…………え……?」」




 俺の予想を聞いた二人は、珍しく揃って目を丸くして、間の抜けた様な表情にて固まってしまうのであった。

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