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「……つまり?長い間魔王とやらとの戦いを優先していたばかりに?戦闘職系ばかり優遇される風潮が出来上がり?その結果として生産職系が見下される様になってしまい?成り手が極端に少なくなって職人の数が激減?

 その上後継者の絶えた工房が多数出た事で様々な技術が断絶して?現状まともとに生産活動を続けていられるのが、辛うじて食料生産系のみであり?工業系はほぼ全滅しているので?仮に魔王を倒せたとしても生産活動は軒並み絶滅状態故に文明を維持するのすら困難な状態に陥っている、と?」


「…………はい。お恥ずかしながら、その通りです……。

 どうにか、装備品の類いは最前線の一つでもある迷宮(ダンジョン)でも産出出来ますし、質を無視すればまだ造れる工房もありますのでどうにか戦線は維持できているのですが、最高品質の品は既に生産出来なくなって久しく、大昔から受け継がれている伝説クラスの品を少数精鋭の強者達に与える事が精一杯な状況でして……」


「…………良く、まだこの世界の人類滅びずに生き延びてられましたね?もう末期も良い処なんじゃないですか?」


「……実は、これでもまだ多少はマシにしたのですよ?私が王位を継いでからは、職人に対して補助金を出したり、生産職系に対する偏見を和らげたり。傲慢になっていた戦闘職系の連中に、実際に生産活動をさせてみたりもしましたね。

 そのお陰か、多少は生産職に対する風当たりも緩くなったのですが、現状はいかんともし難く……。お恥ずかしい限りではありますが、最早『救世主』様方にお便りするしか方法が無く……」


「……物事の土台となる職人や生産職の方々を冷遇て、一体何を考えていたのかね?以前の指導者共は。

 戦場で剣振り回していれば、勝手に勝てるとでも勘違いしてたのか?むしろ、前線で剣振り回す奴よりも、後方で食い物作ってくれる奴の方が余程偉いだろうに、何でそんな事も分からんのかね?全員、自分一人で衣食住の全てを賄っているつもりでいたのか?アホらしい!それならテメェらで全部戦争終わらせろってんだよ!!クソッタレが!!!」


「…………あ、あの~、滝川君?一体、どうした?ん??

 何か、悩みでも在るんなら僕が聞くけど、大丈夫かい?」


「……そ、そうだよ、滝川君!この人にそんな事言っても仕方無いし、悩みが在るなら私も聞くから、ね?

 あ、でも、男の子特有のエッチな悩みとかだった、時と場合を考えて貰わないとちょっと困っちゃうけど、別に応えるのには吝かでは無いと言うか……!」


「………………あぁ、すまん、大丈夫だ。もう、落ち着いたから」



 王様からの話を聞いている内に、部隊に居た時に無茶苦茶な作戦ばかりをぶん投げてくれたクソッタレな上官の事が脳裏に甦って来てしまい、少々取り乱してしまった。

 マジで、この世界の今みたいな事を平然と言い放ち、それでいて自分は後方で戦いもしないで美味いモノばかりを平然と食らう傲慢な豚野郎だった。

 あのクズを敵方の特殊部隊が苦労の末に始末してくれたとの知らせを受けた時は、部隊員一同でその特殊部隊を讃えた上に取って置きの物資を引っ張り出して来て祝盃を上げたモノだ。懐かしい思い出だと言って良いだろうね。(死んだ魚の目)


 だが、既に加田屋と桐谷さんからの声掛けにより正気には戻っているので、まだ聞き出していない部分について再度追及して行く事にする。



「……取り敢えず、俺が『救世主』とか呼ばれている理由と、あの時皆を二つのグループに分けた理由も、これでハッキリしました。あれは、生産系スキルを持っているかどうか、でのグループ分けだったのでしょう?」


「はい、その通りになります。生産系スキルを持っている方には、身分等の保証の代わりに生産活動に従事して頂く予定でした。

 ……そうでない方々をああ言った風に囲むのは、些か不本意ではあったのですが、過去の事例とあの後依頼する予定の仕事の事を鑑みますと、ああするしか無く……」


「その辺も含めてお聞きしたいのですが、俺達と彼らとの扱いの差は一体何なのですか?

 こう言ってはなんですが、彼らは下手なこちらの人間よりも強力な【職業】や[スキル]を、自ら組み合わせを選んで習得して来ています。なら、今までの風潮からして、実際に必要とされていた俺達みたいな生産系よりも、彼らの様な戦闘系の方が厚遇されるのが自然なのでは?」


「……それなのですが……」



 そこで一旦口を閉ざしてしまう王様。

 その表情は苦渋に満ちており、出来れば口にしたくは無い、と空気や雰囲気を総動員して訴えて来ているが、敢えてそこは無視して藪を突くつもりで続きを促す。


 すると、流石に黙りを決め込んで俺からの評価を下げるよりは、との結論に至ったらしく、苦虫を大量に噛み潰した様な顔をしながら重い口を開いて行く。



「……始まりは、私の代になり、このままでは私達の生活基盤となっている文明が崩壊すると言う結果が見え始めた頃でした。

 その時は、半ば半信半疑にて、高位存在から授けられた儀式を行い、膠着しつつあった状況を打開出来る人材を、との思いから、実行に踏み切ったのです。

 ……そして、今回召喚された『救世主』様方と同じ様に、約30人程の集団がこちらへと召喚されました。その方達は、『救世主』様方の様に、ある程度こちらの事情を把握されており、戦場への参戦も希望されていました。

 あの道具にて鑑定してみた処、全員戦闘系の【職業】と[スキル]を所持していた事もあり、私達も膠着した戦況をどうにか引っくり返せるかと、喜んで提案を受けました。

 ……その代償として、私達に非常識なまでの歓待を要求してきたのです。規模も、内容も、ね……」



 ……あっ……。(ご察し)



「……私達とて、当時から現在まで、そこまで余裕が有り余っていると言う訳では、決して在りませんでした。それに、要求の中には、私達の尊厳を著しく貶める様なモノまでもが、含まれていました。当然、そんなモノは飲めない、と突っぱねようとしましたが、もしそうしたならば主要な施設にて大暴れするぞ、と今度は脅しを掛けて来たのです。

 ……当時、私達は、それでも状況が好転するのならば、と断腸の思いでその屈辱的な要求を受け入れ、彼らを戦場へと送り出しました。そして、彼らは特に戦果を挙げる事もせず、状況に一石を投じる事もせず、呆気なく戦死してこの世界から去りました。

 ……考えてみれば、【職業】や[スキル]を得て様々な恩恵や補正を貰っているとは言え、碌に訓練せず、それまで武器すら手にした事もない様な子供が、まともに戦える訳も無かったのは明白でした。結果として私達の手元に残ったのは、ズタズタにされたプライドと大量に食料や物資を消費された事による赤字だけでした」



 …………あっちゃ~。悪い意味で予想通りだったかぁ……。

 ……てか、その召喚者共、マジでなにやってんの!?

 チート貰ってヒャッハーしたかった?

 助けてやるんだから、その程度の扱いは当然だとでも言いたかったのかね?馬鹿じゃないの??ただただ荒らしただけじゃねぇか!?



「それ以降も、事情が事情だけあり、召喚自体は何度か行われて来ました。そしてその度、毎度毎度決まった様に自分達の欲望を果たす為の要求を突き付け、こちらが拒否しようとすれば暴れて施設を破壊し、聞き入れて戦場へと送り出せば何の成果も出さずに戦死する、と言う繰り返し。

 ……それを数度も繰り返せば、私達だけでなく、当時から協力体制にあった他の国々も、既に疲れ果ててしまいました。故に、一番最初に熟練の兵士達によって威圧感を掛けながら最低限の情報だけ与え、あの道具によって【職業】と[スキル]を鑑定し、その結果によって戦闘特化の者とそうでない者とに分別。

 その後、戦闘特化の者達には大人しくしていれば生活の保証はするし、時間は掛かるが還せはする。しかし、それが嫌なら前線に出て思う存分その腕を振るって貰うと通達する様に。生産系の[スキル]や【職業】を持っていた方には、大雑把な事情の説明と共に協力や出来れば残って頂きたい事等を説明するに止める様になりました。もっとも、生産系だった方も、そこまで長くこちらに留まっては頂けませんでしたし、貴方様の様に『救世主』とお呼びするに値するだけの方は今回が初めてでありましたが。

 ……以上が、あの時、私達が諦感を持ってあの様な対応を取った理由になります。ご理解を、とは言いません。ですが、罪を償え、と仰られるのでしたら、せめて私だけに咎を下さいます様にお願い致します……」



 そう一息に言い切り、わざわざ椅子から下りて床へと跪き、深々と頭を下げる王様。

 その表情は、長年背負い続けて来た重荷を降ろせた事による解放感と、立場上出来なかった心情の吐露により何処か晴れ晴れとしている様にも見えた。



 ……苦労、してたんだなぁ……。



 思わず内心でそう呟きながら左右へと視線を向けると、案の定加田屋と桐谷さんも目元を手で抑えながら、王様の薄くなり始めている旋毛へと哀れみの視線を向けていた。


 そんな二人と視線を合わせて意志疎通を図ると、二人共に俺の意図を理解してくれたらしく、力強い頷きが返って来た。


 俺だけの判断ならばともかく、二人もそうであるならば良いだろう。そう結論を出した俺は、既に鼻先を頭頂部に突っ込む事はしていないながらも、未だに俺の事を抱き抱え、その長くせり出した顎を頭の上に乗せて満足気に『ムフー!』と鼻息を吐いている獣耳さんのお陰で立ち上がれない為に、頭を上げる様に声を掛ける。



「……貴方の苦労が理解出来る、とは言いません。こんな若造に知ったかぶりをされる方が、余程の侮辱となるでしょうから。

 それに、貴方達の行為を認める事も、かつての召喚者達の行動を擁護するつもりも、またありません。

 ……ですが、わざわざ言わなくても良い過去を、知らせなくても良かった情報を与えて信頼を得ようとするその姿勢には、好感が持てます。ですので、俺としては、俺達の身分と安全の保証だけ約束してくれるのであれば、貴方を許そうかと思います。

 この様な若造の言葉では不服かも知れませんが、これから対等の関係を築いて行けたなら良いと思っているのですよ?なので、まずは互いに自己紹介から始めませんか?

 名前も知らない相手とでは、碌に関係を築く事は出来ないでしょう?」


「…………あり、がとう、ございます……。

『救世主』様に、限り無い感謝を……!

 私は、オルランドゥ。オルランドゥ・ウラギルタル・ディスカー。このディスカー王国を治める、当代の愚かな王の一人です」


「えぇ、よろしく、オルランドゥ王。ご存知かとは思いますが、俺は滝川 響と言います。滝川とでも呼んで下さい」


「……承知致しました、『救世主』タキガワ様」


「……出来れば『様』も無しでお願いしたいところですが、まぁ良いでしょう。

 さて、こちらから聞いてばかりでしたし、オルランドゥ王からも何か質問の類いは在りますか?お答え出来るモノでしたら、答えさせて頂きますが」


「……質問、ですか……?

 ……でしたら、初めてお会いした時から気になっていたのですが……」



 そこで一旦言葉を切り、聞いて良いものかを悩んでいた様子だが、思いきって聞いてしまえ、との判断を下したらしく、意を決して口を開くのであった。



「……『救世主』タキガワ様は、最初に玉座の間へと足を踏み入れられた時から彼女に運ばれていましたが、一体どんな手を使われたのですか……?

 この者は無愛想・無遠慮・不干渉で城でも有名な者だったハズなのですが……?」


「……さぁ?最初に移動する時からずっと、この獣耳さんはこの調子でして……」





「……ん。吾は、『獣耳さん』じゃない。吾の名前、『オ・グ・ララ』。貴方は、多分吾の番。だから、ちゃんと名前で呼んで……?ダメ……?」





「………………はい……?」



 僅かに掠れたハスキーボイスにて、そんな事を告げる獣耳さん改め『オ・グ・ララ』さん。

 そんな彼女の態度に驚きを隠せない様子のオルランドゥ王と加田屋に、何故か険しい表情を浮かべ始める桐谷さん。



 ……一つ謎が解けたと思ったら、また新しい謎が出て来たんだけど……。



 場が混沌に支配される中でそう溢した呟きは、誰にも聞かれる事無く胸中にて溶けるのであった。

 ……誰か、説明プリーズ……。

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[一言] 国王の名前を聞いて「え?オンドゥルル・ラギッタン・ディスカー?」
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