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 レティシア王女と加田屋によるお茶会に呼ばれた翌日。


 今度は、レティシア王女の父親にして、このディスカー王国の国王たるオルランドゥ王に呼び出されていた。



「此度の呼び出し、受け入れて頂けた事に感謝致します」


「……まぁ、呼ばれれば来ますよ。何かにつけて世話になってはいますからね。

 それで?今回はどんな用向きで?何かしらの依頼が在るから、こうして呼び出したのでしょう?」


「では、早速なのですが……」



 矢鱈と仰々しく挨拶をしてきたオルランドゥ王を適当にあしらい、今回呼び出した用件を話す様に促す。


 すると、彼の方も俺が余計なやり取りを好まないと言う事を理解しているからか、予め用意していたのであろう封筒に込められた手紙の思わしきモノを、懐から三通程取り出してテーブルへと置いて来る。



「……今回は、随分と多いんですね?」


「私の不徳の致す処でございます。ですが、ここに在りますどの件も、救世主様にお助け頂く他に対処する術を得るのが難しく……」


「……いや、まぁ、依頼されれば余程の事が無い限りは受けますし、可能な限り努力して解決に尽力しますよ?しますけど、依頼の内容も知らずに『はい』とは言えない訳でしてね?」


「えぇ、それはその通りかと。ですので、これから軽くではありますが、内容の説明をさせて頂こうかと存じます」


「了解です。

 ……あ、因みに、その依頼って、同行者不可だったり、一つ一つが超時間掛かるモノだったり、位置がバラバラだったりしないですよね?」


「あ、そこは心配ご無用です。幸いな事に、この依頼は全て同じ場所からもたらされたモノですので、移動時間や距離は心配なさらずとも大丈夫かと。

 それと、特に国家の機密に関わる様な事柄でも無いので、何名でも、とは行かないまでも、数名程度であればお連れ頂いても大丈夫です。なんならば、レティシアも連れて行って頂いても構いませんが、如何なさいますか?」


「…………そこは、依頼の内容と本人の意志次第と言う事で、取り敢えず内容の説明をプリーズ」


「おぉ、これは失礼致しました。では、端から説明させて頂きます―――」



 そうしてオルランドゥ王からの説明を受けた俺は、それらの依頼を受ける事に決めたのであった。






 *******






「……ん。それで、結局どんな依頼だったの?」



 目的地への移動の道中、そうやって彼女が問い掛けて来る。


 もちろん、問い掛けて来たのは、何時もの如く俺を運搬してくれているララさんだ。



「…………言ってませんでしたっけ?」


「……ん。まだ、聞いてない。取り敢えず、タキガワが依頼で行きたい処が在る、としか吾は聞いてないけど?」



 そんなバカな、と記憶を掘り返すも、確かに彼女の言う通りに依頼の内容についての説明はまだしていなかったな、と言う事に思い至る。

 ……そんな状態であれ、取り敢えずで道中徒歩での移動になるにも関わらず、俺の運搬役をいの一番に買って出てくれた彼女には、感謝の気持ちが溢れんばかりに沸き起こって来る。


 しかし、その気持ちを体現するには些か周囲が開け過ぎているし、何より彼女と同じく碌に依頼の内容を聞く事もせずに同行を了承してくれている他の面子にも悪いだろうから、特にアクションを起こす事無く素直に説明を開始する。



「今進んでる街道をこのまま暫く真っ直ぐ行くと、とある村に到着するのは知っていますよね?」


「……ん。それは、当然。タキガワが造ったコムギを栽培している村。その一つ。スゥホーイ村。少し前にも、看板が出てたから間違いないハズ」


「確かに、この先にはスゥホーイと言う村が在ります。それは覚えているので間違いは無いでしょう。

 ……ですが、そのスゥホーイ村は、その…………」


「……?その、スなんたらって村が、どうかしたの?」


「さぁ?自分、まだここら辺の地理や地名はあやふやなので、そもそも分からないであります」


「……あ~、そう言えば、あの噂の村の名前って『スゥホーイ』だったか。なら、王女様が口ごもるのも仕方無いだろうさ」


「……え?え、え?何?レティシアもセレティさんも、何か知ってるの?と言うか、その村の噂って一体……?」



 予め何かを知っていたらしい現地民組の二人が気まずそうに視線を逸らす中、イマイチ良く分かっていないらしい召喚組である加田屋と桐谷さんは、急に口が重くなった二人をせっついて続きを話させようとする。


 しかし、その表情はあからさまに固く暗いモノであった為に、余計に疑念が強まったらしく、聞き出したいのに聞き出せない、と言った矛盾に苛まれている様子だ。


 そんな二人の様子を見かねて、取り敢えず依頼の内容の続きを口にする。



「そのスゥホーイ村なんだけど、何故か俺が色々と調整してこのディスカー王国でも普通に育つ様にしておいたハズの小麦が育たないんだそうな。

 だから、その小麦を改造した張本人であり、かつその手の調査もそれなりに出来る俺に対して『育成不良の原因の調査』をして欲しい、と言うのが俺に対して出された幾つか在る依頼の内の一つだった、って事さね」


「へぇ、そうなんだ。でも、そんなの当たり前じゃないの?」


「そう、だよねぇ……」


「……ん?何が『当たり前』?同じものを作るのなら、同じ様にすれば同じものが出来る。そちらの方が当たり前じゃないの?」


「……ララでは無いですが、私としましてもそちらの方が正しい様に思えるのですが……?」



 不思議そうに突っ込みを入れる二人に対し、俺と同質の知識を持つ二人は苦笑いを浮かべながら返答して行く。



「う、う~ん……。その、なんて言ったら良いのか微妙な処なんだけど、僕らとしては、同じものを同じ様に作ったからと言って、必ずしも同じ様な結果になる訳じゃない、って言うのが一般的な認識なんだけど……?」


「……ん?同じ様に作ったのに?」


「そうそう。私も詳しくは知らないけど、気候や気温、土の性質だとかも変わって来るだろうから、同じ様に例の小麦を育てようとしていたとしても、むしろ出来なくて当然なんじゃないのかな?」


「……それはつまり、状態が異なるのだから画一的な方法では狙った通りの成果を得るのは難しい、と言う事でしょうか?」


「まぁ、そんな感じかな?僕らの居た世界だと、地域地域で栽培法にもそれなりに差異が在ったハズだからね」


「うんうん。私が分かるだけでも、その年の気温の変化具合で種を撒く時期をずらしたりだと、与える水の量を増やしたり減らしたりだとか、風通しを良くしたり囲って暖めたりだとかの変化を現地の人の経験から来る感覚で付けたり、それまでの情報を元に指示を出したりする位はしていたハズだからね?」


「あ~、やっぱり、そう言う事する処はするんだな?」


「と言う事は、セレティさん達も?」


「おう。ウチらエルフも、寿命だけは長いから、その手の経験蓄積だけは積んでる連中が多くてね?その年の始まり方だとか、気温や森の育ち方とかから予想して植えたりはしていたよ。ウチも、材料を育てる時なんかにはしているしね」


「ふむ?となると、自分の処でもそう言う事は出来そうでありますな。

 まぁ、もっとも。自分の処は割りとその辺に関しては無頓着な人が多いので、聞いた処で『知らん』『分からん』『覚えとらん』とか返って来そうでありますが」


「……ん。そう言う処だと、本当に役に立たない種族」


「あぁん!?喧嘩なら買うでありますよ!?

 それに、仮にそうだったとしても、定期的に場所も時間も関係無く発情する獣モドキよりは大分マシでありますよ!!」


「…………コロス」


「やれるモノなら殺ってみろであります!!!」



 何故か、流れる様に得物を構え、戦闘体勢へと移行する二人。


 当然、ララさんに運搬されていた俺は放り出されるのだが、割合と細かい処に気の利く彼女により、特に怪我もする事無くセレティさんと桐谷さんによって回収されているので無事で済んでいる。


 そうして、邪魔な俺を排除した(放り投げた)二人は、それぞれの得物であるメリケンサックとバトルアックスを抜き放ち、一触即発の状態へと突入して行く。

 そんな二人の姿を、セレティさんと桐谷さんに受け止められた状態のままに眺める俺は、内心で一人言葉を溢す。



 ……本来であれば、この二人はここまで険悪になる様な間柄では無いし、正直そこまで相性が悪い訳でもない、と個人的には思っている。


 ドラグニティ帝国からの帰路でも普通に会話していたし、ディスカー王国へと帰還してからも基本的には有効に接していた。


 ……ただ、互いに自らの種族への信頼とプライドが高い為に、ソレを否定されたり貶される様な事を口にされると、今みたいに互いに言葉の刃が飛び交う事になり、結果的に目の前で行われている様な決闘騒ぎに発展する、と言う事になるのだ。



 幸いにして、言葉は互いに過激なモノが飛び出したりするが、流石に命を落とす様な処までは本気でやりはしないのでそこは心配していないが、ある程度互いが満足するまでは何をどうしたとしても、それこそ俺が割って入ったとしても止める事は無いので放置するしかないのが現状だ。

 何かしらの手段で介入出来ればそれに越した事は無いのだが、今の処は見付かっていないので、こうして傍観していると言う訳だったりもする。


 故に、周囲へと轟音を響かせながら殴り合う二人を眺めながら、案外と似合っていた加田屋のドレス姿を暴露したり(桐谷さんが羨ましそうにしていた)、脳筋ばかりだと思っていたこの世界にもキチンとお嬢様教育が残っていた事に感動したり(レティシア王女は顔を真っ赤にしてプルプル震えていた)、殴り合いをしながら飛び交っていた罵声の流れ弾が直撃したセレティさん(良く聞こえなかったがどうやら年齢に触れる様な内容だったらしい)がキレて魔法を乱射しながら参戦したりする様を眺めたりするのであった。

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