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 結局、俺の焼いたパンは、皆からは割りと好評価を頂けていた。



 砂糖の代わりとして蜂蜜を入れたり、使った天然酵母が桃の果肉を使用したモノだったりした関係か、小麦の甘さと香りの中に、仄かに蜂蜜の甘さと桃の香りが混ざっていたのが高得点を得られた原因であったらしい。



『この様に、甘くて柔らかなパンは初めて口にするでありす!なんと言う美味なのか!新食感過ぎて、表現に困るであります!!』



 とはドラコーさんの評だが、一緒に試食していた料理人さん達も似たような評価をしていた以上、彼女が特別バカ舌だったと言う訳でも無いのだろう。


 しかし、俺としては、割りと不満の残る出来だった。


 バターを使っていないから口当たりや香りも中途半端だし、小麦の質もあまり良くは無かったから食感もボソボソ感が出てしまっていた。

 味の方も、あまり上出来とは言えないと言うのが正直な感想になる。


 代用品として投入した蜂蜜の甘味と香りに加え、天然酵母の材料に使った桃の香りが移ってくれたからどうにかなっているが、向こうの世界でのパンの味を知っている身としては、流石にこの程度の出来で『及第点』を付けてやる事は難しい。

 まぁ、世界も違えば文化も違うのだから、そこまで突っ込んでやるのは酷と言うモノかも知れないけど。


 次にやる時は、必ずパン釜を造り上げてからにしよう。


 そう密かに胸に誓いながら、ドラコーさんに小麦の特性だとか、パンの焼き方だとかを説明し、結論としてドラグニティ帝国でそのまま育てるのは無理っぽくない?と言う答えが出て彼女が落ち込んだりすると言う事があったが、特に何か問題が発生する事もなく終了した次の日。



 俺は、城の中庭にて催されているお茶会に招待されていた。



 何故にお茶会?流れが急に過ぎる?


 うん。俺もそう思う。


 しかし、実際の処として、部屋に招待状が来ていたのだから仕方無いだろう。


 招待者としてレティシア王女の名前が書いて在ったから偽物だとか罠って事は無いだろうし、個人的なお茶会だとも書いて在ったから多少のマナー違反や服装の不備等は見逃して貰えるハズだ。そう信じたい。


 それに、例の『お願い』を女性陣がどうするのか?と言う話し合いをしていた時に、レティシア王女が



『そう、ですね……。

 では、私は、他の誰にも気兼ねせず、ゆっくりとお茶を楽しみたい、ですね……』



 と溢していたのをぼんやりと覚えているので、恐らくは例の『お願い』を使う、と言う事なのだろう。

 まぁ、基本的にはそこまで迷惑を掛けたり掛けられたりする間柄では無いのだし、その程度のワガママ……にもならない様なモノであれば、何も無かったとしても聞き入れるのに否やはないのだけどもね?だって、複数人とそうなっているとは言え、彼女も俺の恋人であるのには代わり無いのだから。



 そんな訳なので、俺は部屋へと差し出されていた招待状を手に、一人城の中を移動していた。


 一人でいる理由は簡単。

 前述した通りに、今回のお茶会は例の『お願い』の行使である可能性が高いし、何より招待状にも『お一人で』と書いて在ったから。

 それに、ララさんに話したら、彼女自身が同行を断って来た、と言う事も在る。

 恐らくは、既にレティシア王女が話を通してあったのか、それとも以前に話していた『お願い』の内容を覚えていたのかも知れない。


 本人も



『……ん。邪魔しちゃダメ。それに、その程度は本妻である吾が譲る度量を見せるべき』



 とか言っていたから、間違いは無いだろう。多分。


 そんな感じで歩く事少し。


 俺は、指定されていた中庭の前へと到着していた。


 因みに、『城の中庭』と言っても、別にセレティさんの畑の近く、と言う訳ではない。

 アレとはまた別の中庭なので、うっかり顔合わせ、と言う事態にもなりはしないハズだ。


 まぁ、もっとも、そうして顔合わせをしてしまったとしても、大した問題にはならないだろうけど。

 セレティさんも、恋人の一人なのだし。



 ……いかん。

 自分で言っていて、ものすごく下衆い台詞に思えて来た。

 猛烈に死にたい気分になって来たぜぃ……。



 内心で唐突に自殺願望を膨らませていると、俺が目指していた中庭の入り口に見た覚えの在る衛兵さんが立っていた。


 名前こそは知らないが、それでもそれなりの期間この城で世話になっている以上、良く見掛ける衛兵さんの一人や二人位は自然と顔を合わせれば軽く話す程度の間柄にはなっていたりするのだが、その内の一人だと思われる。


 そんな相手の一人が、これから向かおうとしていた場所に立っていたのだから、当然驚きの感情と共に会釈の一つもすると言うモノだろう。



「……どうも、こんにちは。お疲れ様です」


「はい、こんにちは。こんな処でお会いするなんて、珍しいですね。どの様なご用件で?」


「……とある人から呼び出しを受けて。一応、そっちの庭園で待ち合わせ、って話になっていたんですが……」


「あぁ、それなら伺っておりますよ。ですが、一応形式美かつ必要な手順として、招待状の提示をお願い出来ますか?」


「……?はぁ、それは、持ってきてるから別に構いませんけど……?」



 求められるがままに、懐から一応念のために持ってきた招待状を取り出して提示する。


 それを受け取り、内容と筆跡を確認していた衛兵さんは裏面に残されている蜜印まで確認した上で、手に拳大の光の玉を作り出して招待状に当て、反対側から何かを透かし見ている様な動作までして見せていた。



「……うん、筆跡、内容、蜜印、透かしによる保証まで揃っていれば、本物と判断して大丈夫でしょう」


「……別段、招待状のチェックにけちを付けるつもりは無いですけど、まるで、本物以外が持ち込まれた、とでも言いたげな反応に見えるんですが……?

 流石に、そんな事をする意味も、理由も無さそうなモノですけど?」


「……まぁ、それは、何処にでも、どんな時にでも、どんな相手に対してでも発生しうる事なんですよ……。

 丁度つい先程、何処から聞き付けたのか、偽物の招待状と自身の身の上で押し通ろうとした輩がおりまして……」




『……えぇい、いい加減、俺から手を離せ!俺はこの世界を救う【勇者(ブレイバー)】だぞ!?そんな俺に、手を出して只で済むと思っているのか!!

 俺はただ単に、いずれ婚姻を結ぶ事になる第二王女のお茶会に参加する為に来ただけだ!こうして拘束されなければならない理由は欠片もない!!

 俺が手にしていた招待状こそが本物だし、他に本物の招待状を持っているヤツが居たとするのなら、そいつが持っている方こそ偽物か、それか俺が持っていた招待状とすり替えたモノのハズだ!!

 兎に角!さっさとその手を離して俺を通さないと酷い目に―――』




 何処からともなく響いてきたその声に、俺は固まり、衛兵さんは底抜けのバカを見た様な表情を隠そうともせず浮かべて見せる。



 ……いやいや、流石に聞き間違いよな?

 そもそも、アイツがなんでここに居るのよ?

 あの阿呆は、確か対魔物の最前線に『オモチャ』として飛ばされたハズだ。あの時の説明から生きて戻って来る事が可能だとは思えないんだが?



 そんな思いから視線で衛兵さんへと問い掛ける。

 しかし、彼から返って来たのは、そんな俺の希望を無惨に打ち砕くモノであった。



「……残念ながら、御予想の通りかと。

 自分も聞いた話になりますが、どうやら意地や執念で生き延びながら『お相手』に取り入り、一時的ではありますがこうして後方へと戻って来たみたいです。当然、そうした判断を下せるだけの地位と実力の在る相手に取り入っておりますので、それなり以上に拘束力と発言力は在るので、いずれは戻る羽目になるでしょうけど。

 今回のアレも、こちらに居る間に高い地位に在る方に取り入って前線に戻らなくても良くしようとしている、と言った処ではないでしょうか?」


「……だから、レティシア王女主催のお茶会の存在を聞き付けて突撃を仕掛けてきた、と?」


「えぇ、恐らくは。自分が止めた時も、『第二王女(殿下)の婚約者はアイツではなく俺になるのが決まっているのだから、処罰されたくなければさっさと通した方が良いぞ?』等と戯けた事を宣っておりましたので、間違いは無いかと。

 まったく、何処から情報が漏れたのか……」


「…………なんと言うか、同郷の阿呆が大変ご迷惑を……」


「いえ、お気になさらないで下さい。アレは、出身地や環境云々を通り越した、本人の資質や気性と言ったモノが由来となっていると思われます。

 同郷かつ、それなりに近しい者の痴態、と言うのは精神的にキツいのは理解出来ますが、アレはあくまでもアレ、貴方とは異なる存在なのですから、貴方が済まなそうにしないで下さい。

 何せ、貴方は我々を救って下さっている救世主なのですから」


「…………申し訳ない。いや、ここは『ありがとう』と言うべき場面ですかね?」


「えぇ、その通り。アレはアレ、貴方は貴方。それだけは、覚えておいて下さい。

 では、お通り下さい。第二王女殿下が、貴方をお待ちです」



 何故か衛兵さんに励まされてしまったが、取り敢えずは通して貰えるらしく、それまで背後にして守っていた中庭への通路を微笑みながら手で示される。


 そんな彼に、俺は最後にまた会釈をしてからすれ違い、そして招かれた先である中庭へと足を踏み入れて行くのであった。













 ……なお、この時に至ってから、漸く手土産の類いが在った方が良かったか?と言う事に思い至り、今からでも引き返して何か用意した方が良いだろうか?と少しの間頭を悩ませるのであった。

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