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「……まったく、パンが食いたかったのなら、わざわざこんな時にあんなに大事にしないで素直に言えば食わせてやったって言うのに。流石に悪乗りが過ぎるんじゃないのかね?」


「いや、だってこんな機会でもないと、タキガワ殿の手料理なんて口に出来ないでありましょう?それと、何故か自分に対しての口調が荒っぽくなっている様に感じられるのでありますが、只の気のせいでありますかね??」


「そうそう、気のせい気のせい。

 もし気のせいでないと言いたいのなら、今の今まで自分でやって来た阿呆な会話を思い出してみれば、そうなった理由も分かるんじゃないの?俺は知らんけど」


「やっぱり気のせいじゃ無かったであります!?」



 かなり雑にかつそれなりに辛辣に返した俺の言葉に、衝撃を受けたように仰け反って大袈裟に反応して見せるドラコーさん。


 そんな彼女に対し、またしても冷たい視線を送りながら、棚から取り出した袋を机へと置いて行く。



「……ほうほう?それが、昨今噂となっている、例の『白い粉』でありますか?」


「……随分と人聞きの悪い事を……。

 白い粉と言ったって、あんたさんの要望を叶える為に必要な材料、只の小麦粉(・・・)でしょうが。紛らわしい事を言われるでないよ」



 そう、俺が取り出したのは、以前俺が自らの手で作り出し、彼女との接触の切欠にもなった試食会でも使用した事のある、この世界では一度姿を消した小麦を乾燥させてから脱穀し、丁寧に殻を取り除いてから製粉した所謂『小麦粉』と呼ばれる物体だ。


 とは言え、俺が手ずから栽培した小麦から作り出した小麦粉その物、では流石にない。


 最初からそこまで大量生産した訳では無かったし、何よりあの試食会で大量に消費していた事で、もう残っていなかったのである。

 まぁ、製粉してから既に三月近く経っているので、残されていても今回使いはしなかったかも知れないけど。


 なので、今回使用するのは、オルランドゥ王が王命として栽培を命じ、一般の農家の皆さんの手によって通常の速度で生育された、一般流通を目的とされた普通(?)の小麦粉だ。


 とは言え、その品質は王城へと納められているモノである以上、一級品である事は間違いないだろう。

 もっとも、今回初めて収穫して納められたモノなので、折り紙付きで保証できる、とまでは言えないだろうけど。


 もっとも、ある程度の数の中からランダムに選び出して試食した結果、その中で一番味の良かった土地のモノらしいので、ある程度以上の品質であるのは間違いないだろうけどね?



 そんな小麦粉を適当にボウルへと取り分け、塩を一摘まみ、砂糖の代わりに蜂蜜を少々、水をカップに半分程、最後に以前作っておいた天然酵母(今回は桃っぽいモノを使ったヤツを独断と偏見によって選択)を投入し、全体的に回す様に掻き回して行く。


 すると、途端に全体的に水が回り、ドロドロとネバネバを足して二で割らない様な状態となって行く。


 ちょっと小麦粉少なかったかな?と思わなくも無かったが、割りと何時もの事なのでそのままの状態で生地をひたすらに捏ね回す。


 そうして暫し捏ね回していると、それまでよりも粘り気が強くなり、ドロドロ感とも相まって凄まじく気持ちの悪い触感が返ってくるが、この触感が返ってくると言う事は上手く行っていると言う事なので、そのまま若干手応えを返し始めていた生地を纏めて不恰好な円形を作り上げる。



「……初めて、パンを捏ねている場面を見るのでありますが、結構ベタベタしているみたいでありますな?タキガワ殿の手にも、大量に残っているでありますし」


「まぁ、この世界でこれまで作られていたライ麦パンの生地はどうなってるかは知らないですが、小麦粉から作るパンの場合はコレが普通ですね。当然、手に付いたヤツも合流させますけど」


「当然でありますな。捨てたり、洗い流したりするなんてとんでもない。勿体無いであります」



 会話の通りに、作業していた手にへばり付いていた生地を剥がして合流させ、叩くようにして形を整えてから濡らした布巾を上から掛ける。


 本来であれば、ここで一時発酵を挿せる為に暫く時間をおくのだが、それは流石に面倒が過ぎるので[熟成]を使って強制的にチクタクさせて時間を節約しておく。


 そして、発酵具合を確認する為に掛けていた布巾を取り払い、ボウルの中を覗き込む。



「……うん、まぁまぁ膨らんだ、かな?」


「うん?膨らむ?一体、何の事であります??

 何かしらの[スキル]まで使っていた様子でありますが、一体何を…………って、デカッ!?えっ?なにこれ!?!?」



 すると、ボウルの中身に興味を覚えたのか、ドラコーさんも釣られる様にして中身を覗き込んで来たのだが、俺にとっては普通の事柄である『パン生地が膨らむ』と言う現象を目の当たりにして、やや大袈裟な迄に驚いていた。


 まぁ、最後に見た時と比べると、大きさが倍以上に膨らんでいるのだから、初めて見るのであれば驚いて当然と言えば当然だろう。

 俺も、初めて見た時は、結構驚いた様な記憶は在るからね。

 もっとも、結果は予め知っていたし、ここまで大きくなるのか!と言う感想が主なウエイトを占めていたとだけは言っておくけれど。



 そうやって、理屈を知っている俺からすればやや大袈裟に驚いている彼女に構う事無く、膨らんだ生地を一旦押し潰してしまう。



「あぁ!?そんな!!?わざわざ膨らんでいたモノを押し潰してしまうなんて、タキガワ殿はあんまりであります!!」



 途中で何やらクレームが入った様子だが、敢えて無視して作業を進める。


 適度に一時発酵を終えた生地を潰してガスを抜き、一度四つに切り分けてからそれぞれを軽く揉み捏ねて行く。


 少し前のソレとは異なり、ベタベタドロドロとしておらず、それどころか確かなモチモチとした反発感と、低反発なフワフワとした手触りが指や手を通して伝わって来た。


 その触感を一通り堪能し、精神的に満足した俺は、四等分された生地をそれぞれボウルに移してから同じ様に濡らした布巾を蓋として掛けておき、またしても同じ様に[熟成]の[スキル]を使ってチクタクさせ、今度は二次発酵を促して行く。


 そして、先程と同じ様に布巾を取り払うと、四等分する前と見た目上は変わらない程度の大きさにまで膨らみ、表面に残っていた僅かなベタつきも見た限りでは残っていない様子であった。



「……おお!これは、結構変わるモノでありますな!」


「言うほど、変わりましたかね?取り敢えず、サクッと焼いてしまいましょうか」



 またしても、珍しそうに覗き込んでいる彼女を尻目に、特に変わった状態になっていた訳でも無かったので特別反応する事も無かった俺は、早々にボウルごと取り上げ、油を敷いたフライパンの中に四等分した生地を並べて入れてからコンロに掛けて熱する。


 フライパンに生地がくっ付いていない事を確認してから蓋を閉め、生地全体に火を通して行く。


 そして、生地の焼ける心地好い音と、蓋の隙間から漂って来る香ばしい香りから表面に火が入ったと判断すると、全体に火を回す為にコンロから下ろして焼いていたのと同じ時間蒸らしておく。



「……ま、まだでありますか?まだ待たねばならぬのでありますか!?」


「……良い大人が、ヨダレ垂らしながら懇願しないで下さいよ。子供や犬猫がお預けされてる訳じゃないんですから……」



 半ば呆れながら、そわそわと身体だけでなく、忙しなく背中の翼や尻尾を動かしながらヨダレを溢している彼女へも突っ込みを入れる俺だったが、俺の背後にて同じ様な感じとなっている料理人の方々の事は意図的に意識しない様にしているのは内緒の話だ。


 そうして暫し蒸らしてから適当に頃合いを見計らって蓋を取り払うと、小麦の焼けた芳醇な香りと共に蒸気が中から解放され、周囲へとフワリと拡がって行く。


 しかし、彼女の意識は既に嗅覚には向けられておらず、蓋が無くなった事で顕になったきつね色に染まって焼き上がったパン本体にのみ向けられている様子。


 その目は爛々と輝いており、一見未知を目にした探検家や学者の様にも、宝を目前にした冒険家や盗賊の様にも見えるが、その実態としてはただ単に食欲に支配されただけの最強種族(笑)と言う訳だったりするのだが。


 なんて事を思いながらも、それでも実際に飛び掛かったりはしないで俺の言葉の通りに我慢している彼女らの姿を目の当たりにした俺は、これ以上待たせるのも悪いかな?と言った気分になって来た為に、特に意地悪する訳でもなく素直にフライパンからパンを回収し、焼きたてで熱々のままの香ばしい表面を割り裂くと、俺とドラコーさんの分を確保してから残りを何時もの通りに試食用として置いておくと、彼女と二人で焼き上がったパンを味わうのであった。

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