表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/100

82

 

 あれから暫くの間、セレティさんが大鍋の中身をかき混ぜ、彼女の指示で俺が素材を準備し、ソレを適宜投入する、と言った感じで調薬が進められて行った、


 結局、その日の内に完成する事も、何を作っていたのかも教えてはくれなかったが、彼女曰く



『別段、さっき言ってた仕事のアレコレとは別口のヤツだから、特別時間制限とかは無いから安心しな。

 ……まぁ、別の意味合いでの『時間制限』は在ることには在るけどまだ余裕は在るし、何よりあんたには必ず(・・)必要になるモノだから、楽しみに待ってな。良いね?』



 との事だったので、多分そんなにアレなモノを作っている訳ではないのだろう。きっと。


 今回こうして手伝いする事になったのだって、仕事で依頼されたモノを作ろうにも、今作っていたモノは途中で手を離して良いモノでは無かったので、取り敢えずある程度放置しても大丈夫になる段階まで作業を進めてしまいたかったから、と言う理由だったみたいだし。



 そんな訳で、残りの時間を調薬に費やした俺とセレティさんは、その作業の後何事も無く笑顔で別れておしまい……とはならず、結果的に言えば当然の様に喰われた。

 それはもう、散々に喰い散らかされた。



 調薬作業の終わりに、珍しく他の面々と夕食の席を共にしようとはせずに二人きりで、と言う要望を彼女が出して来たのだ。


 その時は、別段例の『お願い』の時間範囲内であったし、何よりセレティさんがその手のワガママを言い出すのは基本的に無く、他の面子と意見が別れた場合は遠慮してそのまま譲ってしまう場面が多い彼女が珍しく自分から言い出した事なので、そのまま快諾したのだ。


 その為、いつもの様に俺に付き従っていた使用人のお姉さん(もはや存在に慣れ始めているのが若干怖い)に皆への伝言を頼み、俺はそのまま工房に設置されていた台所モドキ(作業台が在って水も出て火も焚けるなら台所だよね。良いね?)にて貯蓄されていた食材や、今日収穫した調薬素材の中でスパイスや薬味として使えるモノを流用したりして、適当に二人分の夕食を作り上げた。


 実際の処としては、食材も器具と限られてしまっていた為に、普段の夕食よりは幾段かみすぼらしく慎ましい食事となってしまったのだが、それでも彼女は『普段の食事よりも美味しい』と喜んでくれた事は、それなりの強烈さにて記憶に焼き付いている。


 その後、工房を辞しようとした俺を、今日のお礼だから、と彼女が手ずから容れてくれたお茶を出してくれたので、ソレを断ってまでさっさと帰る理由も無かった俺は、特に疑う事もせずにそのまま口にしたのだ。



 ……そうしたら、何故か強烈に『その手の衝動』が唐突に沸き起こり、ソレに目を白黒させている間に、何故か獣状態へと変貌を遂げたセレティさんの手によって、何故か設置されていた割りと豪華なベッドへと引きずり込まれ、そのまま散々致して朝チュンを迎える羽目になった、と言う訳だ。



 ……まぁ、言わんとしている事は、理解出来るよ?

 ただ単に致しただけなんじゃないのか?だとか、お前が押し倒しただけだろう?だとか、不自然な様子が在ったんじゃ無いのか?だとか、そもそもそうやってお茶を容れる様な事って在ったのか?だとかは、俺も同じ様なシチュエーションを耳にすれば、ほぼ間違いなく思いながら浮かべるであろう言葉の数々である事は間違いない。

 なんなら、もっと過激で扱き下ろした様な言葉すら飛び出して来るかも知れないと言うのも、否定出来ない事実ではある。


 それに、確かに普段は使用人さん達に任せっきりにしていたハズの食後のお茶を、今回に限っては手ずから容れてくれたりしたのを訝しんだりだとか、何となく香りが青臭かったり舌にピリピリとした痺れが来るな、とも思っていたし、何ならティーポットの中へと何かを投入している処を目撃するまでした事も否定はしないよ?否定は。


 ……でも、だからって、まさか恋人関係に在る女性が、わざわざお茶に一服盛ってくるなんて誰が想像するよ?

 しかも、俺にだけ飲ませてハッスルする様に仕向けるだとかならまだしも、一服盛った自分も素知らぬ顔で一緒に飲んでおきながら、俺以上にハッスルしてビーストモードへと突入するなんて、一体誰が予想して対処しておくと言うのやら。


 流石に、今居る場所が戦場の類いであったのなら、俺も一口目にて吐き捨てていたかも知れない。

 それ位は出来て当たり前だったし、何よりその位は出来ないと生命に関わる事態に発展しかねなかった事もあり、そう言うモノを見分ける訓練みたいな事も実際にした覚えがある。


 だが、それらはあくまでも仮定の話。

 実際にそうは出来なかったのだから、今からアレコレ言ったとしても詮無き事、と言う訳だ。



 そんな理由から彼女と二人きりでの夜を初めて過ごし(今までは誰かしら参加していた)、朝になって正気に戻り、羞恥心にて爆発しそうな程に真っ赤っかになっているセレティさんをたっぷりと眺め回して堪能してから身支度を済ませ、他の面々から追及が来ないように部屋へと戻って行ったのであった。(普通にバレて色々と追及されました)






 ******






 俺がセレティさんと過ごした日から数えて数日後。

 今度は、ララさんと過ごす番が回って来ていた。


 ララさん本人としては、くじ引きの結果とは言え三番手である事に少なからぬ不満を抱いていたみたいだし、二番手であったセレティさんとのゴニョゴニョが在った事でここ最近は悋気を隠そうともしていなかったのだが、昨日位からはそれまでとは打って変わって雰囲気が柔らかくなっており、分かり易く笑顔こそ浮かべてはいなかったものの、その機嫌の良さを隠そうともしていない様子だった。


 そんな彼女の振る舞いを、一番近く(物理的に)で見ていた俺としては、一体どんな無茶振りをされるのか!?と戦々恐々としていたのだが、彼女のここ最近の行動を見る限りでは特に変な道具を発注していた訳でも、セレティさんに変な薬を注文していた訳でも無いので、最近は『もしかしたら……?』と僅かながらに思い始めていたりする。



 そして、本番たる彼女と過ごす一日が始まった現在。

 俺は、既に日が高く登っているにも関わらず、ベッドの中にてララさんに拘束されていた。



 ……うん、何を言いたいのかは分かる。

 突然何を言い出したんだこいつは?と言う疑問が浮かんだのだろうし、人によっては『昨晩はお楽しみでしたね?』とか返して来たりする様な者もいるのだろう。


 俺だって、突然そんな事を言われれば、プレイの一環かな?とか思わないとは言い切れないからね。



 が、しかし、俺の現状を端的に表現すると、そうなってしまうのだから仕方無い事だろう。少なくとも、俺としてはそう思いたい。切実に。



 何故ならば、こうしてララさんに拘束されなければならない理由も、こうして拘束されている理由も俺には一切分からないのだから。


 そもそもの話として、俺とララさんは昨晩同じベッドで眠りに就いた訳ではない。

 当然、眠った訳ではないので、二人でアレコレと致していた訳でも無い。


 おまけに、俺個人としてはララさんが定義する処の『浮気』(本妻であるララさんに黙って新しく女性に手を出す事……らしい)をした覚えも無いので、ララさんが悋気を剥き出しにして俺を拘束している、と言う訳でも無い……ハズなのだ。多分。


 なので、昨晩はララさんがこの部屋のベッドに居た訳でないし、こうして俺の部屋にいた訳でも無い上に、特に疚しい処も無いハズなので、俺個人としてはこうして拘束されている理由も、拘束されなければならない心当たりも無いと言う訳なのだ。

 ついでに言えば、鍵を掛けておいたハズのこの部屋に、俺に気付かれる事無くララさんが侵入出来た理由にも、とんと心当たりが無い、と言うのが現状での素直な話と言う訳だったりする。



 しかし、だからと言って俺が何かしら気付かない内に彼女に対してやらかしてしまった、と言う訳でもまた無さそうなのだ。



 何故かと言えば、理由は簡単。


 拘束されている、と散々に表現はしていたが、別段『鎖で繋がれている』だとか、『拘束具にてがんじがらめにされている』だとか、『手錠を掛けられている』だとかと言った、何がなんでもその場に繋ぎ止めておかなくてはならない、と言う意思の込められた物理的な拘束ではなく、ただ単に彼女に抱き締められて身動きが取れなくなっている、と言うのが現状だからだ。



 ……なに?心配して損した?

 ソレを、世間一般的には『拘束』とは呼ばない。普通は『抱擁』と呼ぶんだ、だって?




 …………んなこと、俺だって分かってるよ!!(逆ギレ)




 だけど、そうやって抱き締められている事に目が覚めて気付いてからこの数時間。

 こちとら、苦しくは無く、彼女の身体の柔らかさや暖かさは伝わってくるが、それでいて振り払う事は出来ないと言う絶妙な力加減にて抱き締められ続けているんだぞ!?


 幾ら理由を聞いても微笑まれるだけで応えてはくれないし、催して来たと主張してもそのまま抱えられてトイレまで連行され、事が終われば即座に捕獲されてまたベッドへと逆戻りだ。


 かと言って、理由も分からないのに情を通じ合わせた女性に対して暴力を振るうのは流石にアウトだ。男として、人として。

 まぁ、本気になったら、彼女の方が俺よりも強いのだろうから、要らない心配なのかも知れないけど。orz


 しかし、そうやって内心項垂れている俺の事を、まるで愛しくて愛しくて仕方がない、と言わんばかりの甘く熱の籠って蕩けた視線と柔らかな微笑みを口許に湛え、時折俺の項や旋毛の辺りに長く伸びたその鼻面を埋めて俺の匂いを堪能したり、その柔らかな毛で覆われた尻尾や耳や頭頂と言った種族的な部位を擦り付けて来たりしている為に、やはり怒りや悋気に駆られての行動と言う訳ではないのだろう。きっと。



 ……なので俺は、取り敢えずは彼女がこんな行動を起こした理由を自ら話してくれるまで待ち、もし何かしてしまったのであれば素直に謝ろう、そう心に誓ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ