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 ――――そうして、冒頭のおっさんやお偉いさん達に跪かれ、『元』クラスメイトの大半は拘束され、そうでない面子からは憧れの様な感情の込められた視線を向けられている、と言う場面に戻る訳なのだが、どうだっただろうか?ご理解頂けただろうか?



 ……理解出来ん?うん、俺も。

 むしろ、こうして説明していた俺の方が、誰かに説明して貰いたい位だよ。

 誰か、全部の事情を知っている様な人が出て来て、丸っと説明してくれないモノかなぁ……?



 そんな事を、あからさまに嬉しそうな仕草にて未だに俺の頭頂部に鼻先を突っ込んでフガフガしている獣耳のお姉さんに抱き抱えられつつ、死んだ魚の目をしながらつらつらと考えていると、最初に跪いてからずっとその姿勢を保っていたおっさんがやっと頭を上げてこちらを向き、最初とは打って変わってこちらをキチンと『人間』だと認識した状態にて口を開いた。



「……これまでの無礼の数々、如何様にも罰は受けさせて頂きますので、どうか御寛恕頂きたく。言い訳にもならないかも知れませんが、我々もこれまでの無数の『失敗』に疲れ果てていたのです……。

 臣下の皆に罪が無いとは申しません。ですが、どうかその罪に対する罰は、王である私にのみ科して頂きたく存じます。どうか、どうか……!」



 必死な様子でそう懇願して来るおっさん改め王様。

 そんな王様に同調するかの様に、深谷達を拘束している兵士達を除いた他の面子が、口々に


『罰するならば自分こそを!』『私達の罪は私達で償わせて頂きたい!』『どうか、『救世主』様に慈悲の心持ちが在るのならば、王ではなく私達にこそ罰をお与え下さい!』


 との嘆願が入り、内心でドン引きしながら聞き流して行く。


 流石に状況の整理が出来ていないので、罰する罰しない以前に碌に話も聞けない様な状況なので、是非とも加田屋とかに相談したい所なのだが、未だに俺を抱えたままフガフガしている獣耳さんが離してくれないので俺から出向く事が出来ず、仕方無く手振りでこっちに来てくれ、と合図を出してみる。


 すると、一応通じたのか、加田屋が跪くおっさん集団の脇をオズオズと進んで来たのだが、そこに思わぬオマケが着いて来る事になる。

 ……そう、何故か、招いていないハズの桐谷さんまでもが、こちらに向かってやって来たのだ。


 俺としては、似た様な知識があって、それでいて別の角度から物事を考えられる様に、と加田屋を呼んだつもりだったので、ここで桐谷さんが来たとしても、正直大した役には立たないんだけどなぁ……と思っていると、どうやら獣耳さんが二人の接近に気が付いたらしく、それまでモガモガやっていた鼻先をやっとこさ俺の頭頂から外して二人へと視線を向け、威嚇する様に唸り声を発し始める。



 グルルルルルル!!!



 明らかに攻撃性を秘めた、不機嫌さを隠そうともしていないその唸り声と、見えてはいない為に『恐らく』と付くが、牙を剥いて威嚇しているであろう彼女の姿に二人の足は止まり、それまで跪いていた他の面子も何事かと俯けていた顔を上げる。


 そして、現状を目の当たりにして更に顔色を青ざめさせ、またしても罰を下されるのならば自分達に!と騒がしくなり始めたので、いい加減少し面倒になってきた俺は、取り敢えず獣耳さんが俺の胴に回している腕を軽く叩いて注意を引き、あの二人は大丈夫だ、と伝える。

 すると、まだ警戒した素振りは見せるものの、一応は俺の言葉を聞き入れてくれたらしく、唸り声を上げる事も、恐らくは剥いていた牙を見せる事もせずに二人が恐る恐る近寄って来るのを黙認してくれた。


 そうして二人と合流する事に成功した俺は、回りくどい事をするのが正直面倒になっていた事もあり、王様へと端的に要求を告げるのであった。



「……正直、貴方達が言う『救世主』の意味すら良く分からないし、そもそもここが何処でどんな状況なのかすらまだ把握していないので、そこら辺から誰か詳しく説明して貰えませんか……?」





 ******





「……さて、ここならば、邪魔される事もなく、ゆっくりと説明することが出来るかと思いますが、よろしかったのでしょうか?私だけですと、説明の範囲に偏りが出来るかと思いますが……」


「そこは、聞いてからこちらが判断します。先程も言った通りに、こちらには基本的な知識も碌に無いので、貴方達を信じるしか無いですからね。それとも、『救世主』とまで呼ぶ俺を、よもや騙すつもりが在る、と……?」


「そんな、滅相も無い!」


「では、大丈夫でしょう?事前にも言いましたが、情報の取り零しが無い様にこの二人にも同席して貰いますが、良いですよね?」


「えぇ、それはもちろん。では、何処から説明致しましょうか……」



 そう言って口をつぐむ王様の前にいるのは、俺と加田屋と桐谷さんの三人に加え、未だに俺を離そうとしてくれない獣耳さん。


 何故そんな状況になっているのかと言えば、話は簡単。

 俺が、こうなる様に要求したからだ。


 俺が要求をした当初は、流石に難色を示す者が多かった。


 それはそうだろう。

 何せ、自分達から『救世主』と言い出した相手であれ、自分達が主として仰ぐ王を一人で俺達と対談させろ、と言っているのだから、素直に飲む方がどうかしている。


 が、しかし、当の本人たる王様がその条件で良いと言ってしまった事と、対談と銘打っているもののその実情は只の事情説明である事。それと、未だに俺を背後から抱き締めており、席に座る際には抱き抱える様にして膝へと座らせながら、相変わらず頭頂部から項に掛けてクンカクンカスーハースーハーし続けている獣耳さんも同席する(離してくれなかったので強制参加になった)事で渋っていた周囲もどうにか承認し、こうして現在に至る、と言う訳だ。


 ちなみに、加田屋と桐谷さんにも参加して貰った理由としては、加田屋には同じ視点で見て貰う事で見落としを少なくし、桐谷さんには別の角度からの視点にて気になった事を指摘して貰う手筈となっている。まぁ、早い話がアドバイザーとして同席してもらっている、と言う事だ。それが、必要なモノであったとしても、そうで無かったとしても、だ。

 もっとも、ここだけの話としては、俺の精神安定剤としての役割も大きいのだけどね?流石に、こんな訳わからん状況で、何時までも冷静でいられる自信無いです。はい。


 なんて事をとりとめもなく考えていると、王様の方である程度考えが纏まったらしく再度口を開き始める。



「まず、最初に確認させて頂きたいのですが、『救世主』様方は既にこちらの事情をある程度存じておられる、と見て間違いはありませんか?」


「……えぇ、そうなりますね。あの推定『神』からは、この世界が崩壊の危機に瀕している事、その崩壊を止める術がこの世界の住人には無い事、崩壊を止める力が俺達には在る事を教えられています。ついでに、この世界で生き抜き崩壊を止めるために、と【職業】と[スキル]を授けられていますが、それが何か……?」


「……そうですね。では、大前提として知っておいて頂きたいのですが、この世界は滅びの危機に瀕している、と言う事では別段ありません」


「…………なんですと……?」


「そして、私達が『救世主』様方をこうしてお呼び立てした理由も、『世界の崩壊を回避する為』では無いのです」



 ……おっと、いきなり大前提が崩壊したぞぅ?



 言葉には出さずにそう溢すと、続けられた王様の言葉を聞いて行く。

 それで分かった事をまとめると大体が以下の様になる。



 ・まず、この世界に魔物はいるし、異種族や何なら魔族と呼ばれる種族の類いもいるが、別段戦争に発展する程にいがみ合って敵対している訳ではない。むしろ、とある案件によって協力体制が整えられているので、異種族間の関係は比較的良好な状態となっている。


 ・魔王と呼ぶべき存在ならば確かにいるし、それへの対策に苦慮してはいるが、別段『絶対的にどうにもならないで外の世界から人拐いして来ないと対処出来ない』と言う訳でもない。ちなみに言えば、ここで出た『魔王』とは強力な魔物の親玉なので、別段魔族とは関係無い。が、『世界が崩壊する危機』に該当する障害が迫りつつある事は否定出来ない事実ではある。


 ・魔王云々以外のとある目的の為に、以前『神』を名乗る高位存在から授けられた召喚の儀式を行っていて、今回が初、と言う訳ではない。むしろ、既に何回も行っていた後で、これまで召喚した人物は永住を自ら希望した者以外は既に還している。『救世主』様(俺の事)は是非とも残って貰いたいが、希望されるのなら半年程時間を貰えれば、送還用の魔方陣が起動出来る様になるのでそれまで待って貰いたい。



 ……うん、なんと言うか、これって俺達要らなくない?

 確かに、本当の事を言っているとは限らないし、証拠の類いも無い以上信頼する事は流石に出来ない。


 しかし、だからと言って嘘を言って俺達を騙そうとしている様にも見えない。


 部隊にいた際に、呼吸のペースやちょっとした仕草等から嘘を言っているのかどうかを判断する技術を習得している俺や、意外と人の感情の機微に敏感な加田屋が『嘘は言っていない様に見える』との判断を下した以上、恐らくは本当の事なのだろう。

 まぁ、まだ肝心の部分には触れてないみたいだけど。


 与えられた情報を纏め終え、それまで固まって内緒話をしている風体を取っていた体勢を整えると、核心の一部に切り込む為に今度はこちらから問い掛ける事にする。



「……取り敢えず、俺達が与えられていた情報は、嘘ではないにしても意図的に隠蔽されたモノだった、と言う事が分かりました。それについては感謝しています。

 ……ですが、そろそろ俺達をこちらに召喚した理由と、俺を『救世主』と呼ぶ理由について、詳しくお聞かせ願えませんか?あと、あの時俺達を二つの組に分けていた理由も、ついでにお願いします」


「……分かりました。お話し致します。

 ……ですが、これからお話しする事は、くれぐれも他言無用にてお願い致します。これは、まごう事なき『国家の恥』と言うモノでございますので。それでも、お聞きしますか?」


「えぇ、是非。むしろ、聞かない理由が無いですから、ね」


「……承知致しました。では、お話し致します。

 私達が『救世主』様方を求め、こうして召喚した理由はただ一つ。



 例の魔王討伐に全力を傾けた結果、足りなくなった『生産職』の者達を補充する事と、より高度な技術と職能を持った『生産職』者によるこちらでの技術指導です!




 そして、貴方様を『救世主』とお呼びする理由は、貴方様がほぼ全ての生産系スキルを習得し、その上で生産系の【職業】にも就かれている、今まで召喚した方々の中で唯一の方だからです!

 ですのでどうか、私達の文明世界の崩壊を食い止める為に、そのお力をお貸し願えませんでしょうか!?」



 そう、重大発表をするかの様に、真剣な様相にて告げて来た王様に対して俺は



「馬鹿じゃないの!?」



 と反射的に返していたのであった。

 いや、本当に馬鹿なんじゃないの!?

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