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「では、キリタニ様は何時もの通りにお願いします。
救世主様は、今回は初めてと言う事でしたので、こちらで数を調整させて頂きますが、よろしいでしょうか?」
「分かりました!私は、何時ものペースです大丈夫です!」
「こちらも、了解です。慣れてきたら合図するので、それを目処に普段通りの対応をして貰えれば良いですよ」
「承りました。
そろそろ、訓練場が休憩時間に入ります。訓練中に出た怪我人達が、こちらへと大挙して押し寄せて来る頃合いです。
私程度が言うのは烏滸がましいかも知れませんが、頑張って乗り気って下さい。お願いします」
「「了解!」」
俺達を所定の場所らしい一角へと誘導してくれた治療班の人とそんなやり取りを交わした後、戻って行く彼の背中を見送ってから桐谷さんと共に周辺の環境を整えて行く。
と、言っても、そこまで派手なアレコレをするつもりは毛頭無い。
ただ単に、使うであろう器具を取りやすい場所へと予め出しておいたり、傷を洗う為の水の量を確認したり、箱詰めしておいたポーションの瓶を取り出したり、と言った、ある種の『荷開き』に近い状況になっていると言っても良いかも知れない。
そんな風に準備をしていると、俺達も入ってきた入り口の方が俄に騒がしくなり始める。
すわ『何事か!?』と視線を向けると、そこには大小様々な負傷を負った、男女種族もバラバラな汗臭い集団の姿が在った。
流れる血を止めようと、手で患部を抑えている者。
自らの負傷を押して、足を負傷した別の者に肩を貸している者。
脂汗を額に浮かべつつ、腕や胸を抑えながらどうにか立っている、と言った風体の者。
頭部から血を流し、意識を失って他の者に運ばれて来た者。
ざっと見回しただけでも、それだけ様々な負傷を負った者達が一堂に押し寄せて来た。
その一瞬だけは、流石にあまりに血の気の多いゴア表現マシマシな光景に面食らってしまったが、良く考えなくても部隊にいて戦場に立っていた時にはこれ以上にグロテスクな光景を自らの手で作り出していた事を思い出し、即座に精神の均衡を取り戻す。
だが、残念な事にその手の経験値が足りなかったのか、以前の教授の際には見た覚えの無い、恐らくは新人だと思われる数名の治療班の人達の顔から血の気を引かせて固まってしまい、咄嗟の判断が出来ていない様に見えた。
これまでの治療経験が在るとは言え、彼らがこうして医務室を訪れる様になったのはここ最近、良くて一月二月前程度の話だ。
流石に、毎日そうやって血塗れな状態に触れ合って慣れたと言うのなら話は別だが、そうでないのならば目の前に広がるこの光景を目の当たりにすれば血の気の一つや二つも引いて当然と言うモノだろう。
……しかし、流石に速度を持って当たらねばならない治療現場にて、一々ショッキングな光景を目の当たりにしたからと言って固まってしまっていては、救える命も救えなくなってしまうと言うモノだ。
なので俺は、そんな彼らの反応に見かねて以前にも接した治療班の班長へと視線を向けたのだが、彼も現状は思わしくないと言う事を理解しているらしく、非常に苦々しい表情を浮かべながら指示を飛ばしていた。
「えぇい、いい加減この程度慣れなさい!
取り敢えず、打ち身と擦り傷、小さな切り傷程度の負傷者はこちらに来なさい!
骨折や大きな裂傷、並びに出血の止まらない者を選別して、複数人掛かりで構わないので速やかな治療を!
貴方達が混乱し、手を止めた分だけ負傷者達が復帰するまでの時間が延びると思いなさい!!」
「「「「「……は、はい!!」」」」」
「キリタニ様は、すみませんがこちらの重傷者達の診断と治療をお願いします!」
「はい!お任せを!」
「救世主様も、キリタニ様と同じく重傷者をお願い致します!」
「ほいほい、了解」
「……本来であれば、もう少し安易な案件からお願いする予定だったのですが、流石に手早く処置する必要の在る負傷者達には、彼らの様に衛生の基礎知識が足らない者達を宛がうのは些か不安が在りまして……」
「あぁ、反射的に[回復魔法]の類いを使って、特に洗浄・消毒する事もしないで傷口を閉じてしまいかねない、と?」
「……そう言うことです。ですので、大変申し訳ないのですか……」
「了解了解。そう言うことなら、任されましょうかね。
なに、こう言う事は嫌と言う程やって慣れてるから、心配しなくてもキチンとやりますよ」
「お願いします!」
流石に班長は理解していたらしく、苦虫を噛み潰した様な表情がしながら、必死に俺と桐谷さんへと頭を下げて来た。
それを二人で苦笑しながら『当然の事』と受け入れ、共に整えた場を活用する為に手を掲げて場所を示し、重傷者として分類されたであろう人達を誘導する。
本来であれば、こちらから出向いて行く方が良いのだろうけど、流石にそこまで極端な重傷者は居なかったらしく、若干の申し訳無さを内心で抱きながらも自らの足で移動して来て貰う。
より効率的に治療を行おうと思うのならば、こうして整えた場所にて行う事の方がよりやり易いからね。
そんな訳で、俺と桐谷さんとの二人掛かりにて重傷者達の診察と治療を進めて行く。
「この人は……うん、単純な骨折だけ、だね。
取り敢えず、位置を調節して軽く固定してから[回復魔法]よろしく!
こっちの人は……取り敢えず、単純な裂傷だな。
そっちの桶に入ってる水で傷口を綺麗に洗ってからもう一度お願いします。出血を洗い流す感じで良いんで」
「ほい、[浄化]!からの、[治癒]!
……なんでこの世界の人達って、[浄化]の魔法が在るのに今まで使わなかったんだろう?まさか、存在自体を知らなかったとか……?」
「流石に、それは無いんじゃない?ただ単に、傷口を綺麗にする為に使うモノ、って感覚や考えが無かったって事じゃない?
次の貴方は……あちゃ、こりゃ頭打ってるね?
取り敢えず[探査]っと……。
……おう、あんた、運が良かったね?脳の内部で内出血してる。放置してたら、下手したら死んでたよ?時間差で。
まぁ、取り敢えずコレで血抜きして、後でポーション飲んでおけば大丈夫なハズだから、サクッとやっちゃおうかね?
大丈夫、痛いだろうけど死にはしないハズだから」
何人か診察と治療を同時に行っていると、頭部をぱっくりと割って流血しながら診察に来た人が居た。
その人は歩けてはいたもののかなり足取りが怪しく、既に呂律も回らなくなりつつあったようだった。
あまり見た覚えの無い種族ではあったので、もしかしたらこの状態がデフォルトなのかな?とも思ったが、取り敢えず気にせずに診察すると、どうやら頭部へと強い打撃を受けてしまった為に流血している事が分かった。
なので、念のために頭部を[探査]で調べてみると、案の定内出血を起こしていたので、問答無用でベッドに転がし予め出して準備しておいた道具の中から、鋭く長く頑丈で、それでいて内部は中空構造になっている、謂わば『巨大な注射針』を手に取り構える。
唐突な俺の行動に、桐谷さんも含めた室内が騒然となり、負傷者の方も突然の事態に抵抗を試みるが、ソレを気にする事はせず[探査]によって把握している患部へと届かせる為に、他の部位を傷付ける事の無い角度にて、真っ直ぐに力強く頭蓋を貫き通す!
ブシュッ!!!!!
それにより、患部に溜まって圧力を掛け始めていた血液やその他の液体が道具の反対側から吹き出て来るが、それに構う事無く用意しておいたシリンダーを接続すると、内部の液溜まりが無くなるまで吸引して行く。
そして、手応えから判断して容易に吸引出来る液体が無くなったとみると、即座に別のシリンダーへと換装し、シリンダーの内部を満たしているポーションを患部へと直接注入して行く。
試作した生理食塩水と中級ポーションとの混合液は、目論みの通りに素早く吸収されているらしく、シリンダーを押す指へと大した抵抗を伝える事も無いままに、まるで吸い取られるかの様にして患部へと吸収されて行く。
ほぼ小瓶丸々一本分も注入すると、それまで目は虚ろで動きも何処か不自然で、その上顔色も土気色に近かった状態だったのがほぼ血の気を取り戻し、目にも光が戻って自らの意志で身体を極力動かさない様に固定している事が見て取れた。
なので俺は、残り僅かなシリンダーの中の薬液を注入すると
『コレから針を抜くから動かないで欲しい』
と注意喚起をした上で、捻ったり揺らしたりする事無くそのまま真っ直ぐ速やかに針を引き抜いて行く。
それなりの長さを持たせていた針が引き抜かれる際に、一瞬だけ気持ちの悪そうな表情を浮かべた負傷者だったが、ソコは歯を食い縛って耐えたらしく、呻き声の一つも漏らしてはいなかった。
そんな彼?の頭を、子供が頑張った時に誉めて上げる様にポンポンと軽く叩き撫でながら[探査]をもう一度使用し、状態を確認して危険域からは脱出している事を確認してから、頭部の裂傷と針の痕の孔を塞ぐ為にポーションを半分ほど振り掛ける。
「……はい、コレで治りましたよ。
打ち所が悪かったのか、頭の中で出血していました。その際に出来た血液の血溜まりはさっき抜いておいたのでもう大丈夫なハズですが、まだ軽くふらついたりする症状が残る可能性は在るのでご注意を。
一応、念のために残ってるポーションは飲んでおいて下さいね?
では、お疲れ様でした。次の方どうぞ!」
最初の様子とは打って変わって生気に満ちた顔色を見せている彼へと笑いかけながら、つい先程までの状態を一通り説明する。
初めは呆然と聞いていた彼?だったが、何処かで『頭を強く打つと最初は平気そうにしていても時間が経つと死ぬ事がある』と聞いた事が在ったらしく、顔を青ざめさせながら話を聞いていたので、思わず俺の口調も丁寧なモノになってしまう。
が、取り敢えずは元気になった様子だし、何より他の負傷者達はまだまだいるので、傷に振り掛けた残りのポーションをそのまま押し付けると治療の終わりを告げてから、他の負傷者達の診察へと戻って行くのであった。
「…………タキガワ殿、か……。
よもや、此所まで鮮やかな手際にて、僕の様な異邦人であっても別け隔て無く接して下さるとは、やはり……」
……おや?新キャラの予感?
注※今回出てきた医療行為は大変危険な行為ですので真に受ける事も真似する事もしないで下さいお願いします




