76
「ありがとう。助かったよ」
「いいよいいよ、全然。このくらいなら、いつでも呼んでよ!
……だ、だって、私も滝川君のか、かかかかか、彼女、なんだから、ね……?」
色々と協力して貰った桐谷さんを見送りに、工房の外まで一緒に歩いて行く。
本当ならば、城まで送って行きたい処なのだが、完全にルルさんのスイッチが入ってしまっているし、何より俺の生産者としてのスイッチもフルスロットルに差し掛かりつつ在るので、少しでも早く製作に取り掛かりたくてウズウズしている。
もっとも、最低限の礼儀は果たさないとならないし、何より製作の方の準備も万端解決、と言う訳でもないので、俺は気合いと根性で、ルルさんはそちらの準備に先に取り掛かる事でどうにか衝動を抑えている状態に在る、と言う訳だ。
まぁ、とは言え、俺はまだ身体を直しきってはいない状態なので自力での歩行も覚束無いので、こうして工房の外まで見送りに出るのが限界と言うのが実情だし、鍛冶場に於ける準備だって、ほぼ部外者である俺には分からない事だらけなので本職たるルルさんに丸投げしているだけ、とも言えるのだけどもね?
「じゃあ、私はもう行かなきゃだけど、滝川君はどうするの?一緒にお城まで戻る?」
「いや、そのお誘いはうれしいんだけど、この後やらなきゃならない事がまだ残ってるんだ。だから、一緒には行けない、かな」
「そう、なんだ……。一緒に帰れないのは残念だけど、でもやることが残ってるのなら仕方無いよね。
もう少ししたらお夕飯時だけど、その頃には一回戻ってくるの?」
「ごめん。今日は泊まり込みになると思うから、それも出来なさそうなんだ。いつものお姉さんにもう頼んであるから、食べ損ねる事だけは心配してないけど、わざわざ戻る手間も惜しいからね」
「ふーん?まぁ、何を造るのかは敢えて聞かないよ?滝川君の事は信頼してるし、こうして関わった以上は多分後で教えてくれるだろうから。
でも、無理だけはしちゃ駄目だからね?滝川君に何かあったら、心配して泣いちゃう女の子が何人居るのか自覚してるのかな?」
「…………可能な限り、善処します……」
「……そこは、即答して欲しかったけど、取り敢えず言質は取れたから良しとしておきましょう。
…………あと、無いとは思うけど、ルルさんとこんな処でエッチな事しちゃ駄目だからね?分かってる??」
「んな事せんわ!?」
「どうかなぁ~?滝川君分かって無いかも知れないけど、ルルさんって『その時』の声結構大きいから、こう言う処でスルと一発でバレちゃうからね?気を付けなきゃダメだよ?」
「だからしないっての!?」
……最後の最後で何故かからかわれてしまったが、特にバレる事も無く無事に別れを終えて工房へと戻って行く。
とは言え、割りと最初の方にてルルさんから誘惑された事実は在るので、若干身を詰まされる想いと共に、そう言う『男女のおふざけ』はしない方向で真面目にやろう、と改めて誓った俺は、工房の門を潜って貸し切っている鍛冶場へと到着する。
今朝のやらかしだとかつい先程の桐谷さんとの会話だとかの前例ありきではあるが、ルルさんかあられも無い姿にて待機してたりしないよなぁ?と言う大多数の不安と若干の期待(俺だって男の子だもの、期待位はするよ?)の両方を胸にしながら鍛冶場へと辿り着くと、そこには楽しそうに立てた尻尾を弛く振りつつ、鼻唄を歌いながら諸々の準備をしているルルさんの姿が在った。
当然、俺が最後に見た時と同じくキチンと服を着ており、今朝の様に誘惑してくる訳でも、唐突にセクシーな衣装にダイナミックお色直しをしてくる訳でも無く、単純にこれから造るモノが楽しみで仕方無いのでノリノリで準備を進めている、と言う事が伝わって来る様な、そんな背中を見せていた。
「お?お帰り!やっと戻って来たな!
じゃあ、早速取り掛かるとするか!」
「……まぁ、取り掛かる事に否はないですが、取り敢えずどう造ります?流石に、俺が伝えた折り返し技法だけだと、純オリハルコンを加工しきれるとは思えないですけど?」
「まぁ、それは当然だろうよ。あたしらだって、これまでオリハルコンを扱う時は、純粋なオリハルコンの塊だけを使って一振りの武具を拵えるんじゃなくて、他の素材で形を造ってから表面を薄くコーティングしたり、必要な部分に当て嵌めたりしてたからな。
それを何層にも重ねるあんたのやり方は、流石に相性ってモンが悪すぎるだろうよ。精々、コーティングを何回もやってオリハルコンの層を厚くするとか、その程度にしておいた方が良いんじゃないのかい?」
「ですよね~。
さて、じゃあ、それを踏まえた上でどうしますかね。
土台は軽量化を図る為に木材の類いを使うとして、やっぱり頑強さを求めてアダマンタイトをベースに使います?」
「う~ん、どうしようか?
一応、使うかも、って事で市場に流れていたエルダートレント(樹の化物みたいな高ランクの魔物)の木材は確保してあるからそれを使うとして、金属部分の土台、ねぇ……。
丸っとアダマンタイトでやると、嬢ちゃんの注文からは外れた重さになっちまうと思うけど」
「それこそ、そこはミスリルベースで良いのでは?
流石に、ここまで純度の高いアダマンタイトで固めてしまうと、剛性だけ強くなって靭性が発揮され辛くなるからミスリルをメインに据えて、そこにアダマンタイトを補助的に加える感じで行く方が良いと思いますけど?」
「そうなると、今度は軽くなり過ぎないかい?
それに、ミスリルベースに据えるのも、アダマンタイトを補助的に加えるのも良いけど、どうするつもりなんだ?嬢ちゃんからのオーダーを丸っと満たそうと思ったら、中々配置や配分に苦労しそうだけど?」
「まぁ、そこはそれなりに考えが在るので大丈夫かと。
ベースの木材と接合させる、基本的な部分は靭性を持たせる為に折り返しで鍛えて、他は折り返しはせずに焼き入れと鍛造で鍛えて剛性を高めつつ、彼女のオーダーに沿った形に形成する、って感じで如何?
オリハルコンは、最後に表面にコーティングする感じで良いでしょう。出来そうだったら、薄く伸ばして表面の全体を覆う形に仕上げても良さそうですけど」
「……まぁ、あの『カタナ』ってヤツを造るのに、粗悪品から錬成したアダマンタイトを使ってた、って話だし、アダマンタイトの加工も出来るみたいだから反対はしやしないさ。
でも、割りと細やかな細工のオーダーも入ってたけど、そっちも大丈夫なのかい?あたしは、そこまで細かい細工は得意じゃないぞ?」
「まぁ、その辺も俺がどうにかするので、取り敢えずルルさんは相槌お願いします」
「ほいほい」
取り敢えず打ち合わせを終えた俺は、手元に積まれていたアダマンタイトとミスリルのインゴットを幾つか掴んで炉に放り込み、適度に溶けて加工し易くなるまで待つ。
【職業】と[スキル]のアスシトにより、本来なら持ち合わせていないハズの感覚に従い、多分適切なんじゃないのかな?と言うタイミングにて火箸を炉の中へと差し込んで、内部で適度に溶けたインゴットを引き出して金床へと移し、ルルさんへと視線で合図を送ってから手にした鎚を振るい始める。
ガンガンガン!ガンガンガン!!
白熱し、柔らかくなったインゴットを叩いて伸ばす。
元々が長方形である事もあり、取り敢えず鍛えるだけならば形を変える必要も特には無いので、ルルさんと共に全体的に力を均等に加えて叩いて行く。
大雑把に二倍程度の大きさになった時点で火箸を使って再度炉へと放り込み、次のインゴットを取り出して同じ様に叩いて鍛える。
そうして予め投入していたインゴットを一通り鍛えたら、今度は大きくなったインゴットの中心付近に火箸で溝を彫り、そこに合わせて叩いて折り曲げて二つ折りにすると、元の大きさに戻るまで再度叩いて鍛え上げる。
それを数回繰り返してから再度炉へと投入し、また別の加工済みインゴットを取り出して同じ様に折り返して鍛える。
当然、以前打った刀の時と同じ様に、折り返しを行う段階で[刻印]を施し、この段階からの<能力>の付与も忘れずに行って行く。
「取り敢えず、これで一回りしましたね……。
すこし、休憩しときます?」
「……いや、ここは一気にやっちまう方が良いんじゃないのかい?
切り良く、って言うなら、次の行程を済ませちまってからの方が良さそうだろ?」
「なら、ささっと済ませちゃいましょうかね」
「応さ!」
大体同じくらいの大きさに揃えた元インゴット達を、ミスリルでアダマンタイトを挟む様に重ねてから再度炉に放り込み、ある程度温度で接着させてから取り出して叩いて馴染ませ、再度折り返して層を幾つも作って行く。
そして、もう一組同じモノを組み上げて、またしても同じくらいの大きさに両方を揃えると、同じ様に重ね合わせて接合させ、馴染ませ、ひたすらに鍛えて鍛えて鍛えて鍛える。
そうして基礎の部分を完成させた俺達は、残りの部分をそれぞれで手分けして着手して行き、完成させたそれぞれを組み合わせて接合させたり、細かい調整を施したり、使用人のお姉さんが持ってきてくれた夕食に手をつけたり、注文されていた細工の加工を行ったり、我慢出来ずに襲い掛かって来たルルさんへと拳骨を落としたり、仕上げとして表面へとオリハルコンを被膜状にコーティングしたり(これが一番面倒臭かった)した事により、出来上がる頃には夜が明けてしまっていたが、それでも比較的短時間にて目的の作品を仕上げる事に成功したのであった。
さて、何が出来上がったのやら?
なお、ここ数回の鍛冶についてのアレコレは、作者が適当にでっち上げたモノばかりですので突っ込まない方向でお願いしますm(_ _)m




