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「……それで、こうして呼ばれたから来た訳だけど、私は何をすれば良いのかな?

 被服関連なら未だしも、鍛冶(こっち)関連だと私はあんまり役には立たないと思うんだけど……?」



 そんな戸惑った様子も顕な言葉を口にするのは、俺の元クラスメイトであり、現俺の恋人の一人でもある桐谷さん。


 しかし、伝言を頼んだ使用人のお姉さん(呼んだら出てきた。何故かは知らぬ)が、俺からの要請だ、との事実を『うっかり』彼女へと伝えた事で、碌な説明も無いままにこうして自らにあまり縁の無い工房へと飛んで来てくれたのは、一重に俺達とのこれまでの積み重ねた信頼によるモノだろう。

 ……まぁ、個人的なことを言わせて貰えば、俺個人に対する好意だとかで即諾してくれた、とかだと嬉しかったりするけど。割りと。



「いや、手伝いと言えば手伝いなんだけど、そこまで難しいモノじゃないよ?当然、桐谷さんなら出来るハズだし、むしろ俺の知り合いの中なら桐谷さんこそが適任なんじゃないのかな?」


「……ふ、ふ~ん?そうなんだ~?私が適任なんだ~♪

 じゃあ、頑張ってみようかなぁ~?それで?私は何をすれば良いの?何でも言ってみて!」


「ありがとう!じゃあ、これから幾つか質問するから、それに正直に答えて貰って良いかな?」


「質問?アンケートの類いみたいな感じなのかな?」


「そうそう、そんな感じ。大丈夫、桐谷さんなら、必ず答えられるハズだから」



 そう言ってから、俺は手元に用意しておいた紙をめくり、ルルさんに指示を出して複数の盾を持って来て貰う。



「ここに、このディスカー王国で使われている盾の形で主流のモノを用意してみたのだけど、桐谷さんが使うとしたら、どれを選ぶ?」


「……ここに在る三つから選ぶなら、って事だよね?」


「そうそう」



 そう言って、彼女は台に置かれた三種類の盾へと視線を向ける。


 右から順に、歪な四角形の騎士盾(カイトシールド)、小振りな円形の殴打盾(バックラー)、巨大な長方形をしている塔盾(タワーシールド)の三種類が並んでいる。


 それぞれ主な使い方と目的が異なり、自然と好みと兵種が別れる。


 騎士盾は、主に全身鎧を着た騎士が、相手からの攻撃を足を止めて防御をし、その上でもう片方の腕に持った剣を振るう事を前提にした、言わば攻撃的防御の為の盾であるので、サイズの割にはそれなりに分厚く造られる事が多く、以外と重量が嵩む傾向に在る。


 逆に殴打盾は、その名の通りに相手を殴り付ける事を前提として設計されているので、基本的には小型で取り回しが利きやすい様なモノが多い傾向に在る。

 当然、その特色を生かす為に、使用するのは軽装で速度を重視した者達が、保険として持ち込む事が多いので、必然的には厚みは少なく、重量も軽くなりやすい。


 最後の塔盾に関しては、これは主にそれだけを持ち運び、地面へと下部のスパイクを打ち込んで固定し、相手からの攻撃を真っ正面から受け止める為のモノとなっている。

 その為に、ここに在る中では最も大きく、分厚く、それでいて重くなっている為に、基本的には戦闘をしながら取り扱うモノでは無いと言える。


 もっとも、中には全身鎧にてガチガチに防御を固めた上で、片手に塔盾を、もう片手にも超重量武器を携えて敵陣へと突っ込み、そのまま大質量の暴威にて蹂躙するなんて事を成し遂げる者もいるらしいけどね?

 まぁ、そう言う奴も居ることには居るらしいが、それはほぼ人間辞めている様な連中でないと出来ない事なので、基本的には考えなくても良い事例だと言えるだろう。多分。


 他にも、役割としては騎士盾と同じ様なモノで、形状と使い方が異なる円形盾(ラウンドシールド)(丸みを利用して攻撃を受け流したり、表面の凹凸で敵の刃を絡め取ったりするのだとか)。

 殴打盾と同じ様に突撃する際の補助に特化している前腕盾(スモールシールド)(手甲を大きくした様な感じ。本当に必要最低限守れれば良い、と言う考えから考案されたのだとか)。

 塔盾の持ち運びの際の負荷を少しでも軽減する為に考案された分割盾(スプリットシールド)(塔盾を左右に分割し、運搬をしやすくすると同時に両手で扱える様になっている)等も採用されているそうなのだが、取り敢えず一番普及しているモノ、と言う事であの三種類をサンプルとして提示していると言う訳だ。


 ちなみに、材質としては騎士盾にはオリハルコン。

 殴打盾にはアダマンタイト。

 塔盾にはミスリルが理想的だと言われている。


 殴打盾には軽量さと頑強さの兼ね備えが必要とされる為に、少量のアダマンタイトにて薄めに。

 拠点防壁としても使用される塔盾は、魔法耐性が高い方が何かと便利であるし、頑強さは使うミスリルの量を多くすれば比較的解決出来る事でもある。

 そして、実際に斬り合いになり、魔法も物理も近距離で受けて耐える必要の在る騎士盾には、その両方に高い耐性を持つオリハルコンを使うのが理想的である、のだそうだ。


 もっとも、その辺は割りと好みの話ではあるみたいなのだけどもね?


 なんて事を内心で考えていると、それまで台の上のサンプルを眺めていた桐谷さんが、徐に騎士盾を手に取る。



「…………ここに在るのから、って事なら、私はコレ、かなぁ……?」


「……ふむ?理由を聞いても?」


「うん、良いよ。

 まず、私が戦う時は、基本的に相手の攻撃をある程度受け止めてから受け流して、体勢を崩させてから[スキル]とかを使っての反撃、って感じになるの。

 だから、そっちの小さいのだと受け止めきれないし、そっちの大きいのだと細かい操作だとかが【職業(ジョブ)】だとか[スキル]のアシストが在っても出来なさそうだしね」


「ふむふむ?続けて?」


「それと、私の[スキル]が教えてくれてるんだけど、そっちの小さいのはともかくとして、大きい方を扱うには私だと筋力も体重も足りないんだって。『体重』も足りないんだって!」


「……随分と嬉しそうに強調しますね?『大事な事だから二回言った』ですか……?」


「ナンノコトカナ?ワタシチョットヨクワカラナイ。

 ……さて、コレを選んだ最後の理由だけど、やっぱり大きさかな?

 最初の理由と被ってる様にも思えるかも知れないけど、私としてはこの中ならこれが一番扱いやすい大きさだと思うんだよね。

 もっとも、本音を言えば、もうちょっと大きくて、重量ももう少し在る方が使いやすいと思うんだけど。あと、重心ももう少し中心よりになってた方が捌き易そうかな?

 まぁ、コレしか無い、って言うなら贅沢は言っていられないなんて事は分かってるけどね?」


「……ふぅん?ちなみに、重量で言えばどのくらい重い方がベストに近い状態に?」


「……うーん、そうだねぇ……。もう、三㎏位は重くてもイケる……かなぁ……?あと、サイズももう一回り位大きな方が私好みかも。

 重心の位置だとか、持ってみた感触だとかも欲しいから、モノが無い今この場だと『コレだ!』って言うのはちょっと難しいけど、でもそのくらいは重くて大きい方が嬉しいかも?」


「ふんふん。成る程ね。

 でも、さっきはあんまり重いのはちょっと……って言って無かったっけ?」


「まぁ、そこはね?

 でも、ある程度大きさと重さが無いと、攻撃を捌いたり流したりするのがやりにくくなっちゃうから、ある程度はね?」


「ふむ?そう言うモノ、か。

 ちなみに、表面の加工とかは何か在ったりするかい?

 相手の攻撃を絡め取る為の凹凸を激し目に、とか、反撃のシールドバッシュの為のスパイクは欲しい、だとか、引き倒してから打ち下ろす際に下側の縁に刃が在った方が良い、だとかの注文は在ったりする?」


「そう、だねぇ……。

 あくまでも、私の場合の理想になっちゃうけど、やっぱり表面はシンプルに丸みを帯びさせておくだけで良いかな?でも、相手を殴打する事も在るだろうから、中央部分は厚目な方が良いかも?

 それに、何か付けるのなら、上の縁にソードブレイカーになりそうなギザギザが欲しいかも?

 あと、スパイクを付けるなら下の方が良いかな?私の腕力と体重だと、横振りじゃあ上手く攻撃出来ないから、必然的に振り下ろしになるんだよねぇ」


「ほうほう?じゃあ、材質なんかは頑丈さ最優先の方が良いのかな?多少重くても?」


「う~ん、そこは、どうなんだろう?私としては、あまり重すぎても扱いきれないし、軽すぎるとキチンと防御出来るか分からないから、どっちに片寄っても不安ではある、かなぁ?

 だから、私としては、一番信頼出来るオリハルコンが良いけど、でも盾一つ分丸ごとなんて使える訳も無いよね~。もしそんなの出来ちゃったら、いったいお幾らするのやら想像も出来ないよね!」


「……ふむ、じゃあ、次なんだけど―――」



 その後、様々な質問を繰り返し、すっかり彼女が『汎用的な盾使いに対するアンケート』と言う建前を忘れた頃には必要だったデータは出揃い、俺とルルさんは造るべきモノの全貌を掴む事が出来たのであった。

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