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工房の鍛冶場の一つを総長としての権限により占領したルルさんが、その大きな胸を張りながらこちらへと声を掛けてくる。
「……よし、っと。これで、これから暫くはここは使い放題になったけど、まずはどうする?取り敢えず、材質から決めるか?」
「まぁ、ソレが無難でしょうね。一応、何を造るのか、はもう決まっているのだし、取り敢えずは何で造るのかを決められさえすれば、試作品位はどうにかなるでしょう。
で、何を使います?そもそも、何が使えるんですか?」
「そうだなぁ……ちょっと待ってろよ……!」
途中で寄った資材庫から持ち出した材料を纏めて放り込んだ木箱を漁り、中に何が入っているのかを確認するルルさん。
床に置かれた木箱を、中腰になって探るその姿は、何故かは分からないが酷く扇情的なモノに見えてしまう。
これから鍛冶を行う事もあり、上は腹部が丸出しになる程に丈が短く、それでいて生地の薄いタンクトップ一枚であるので薄く肌が透けて見えている。
下は以前も着ていたツナギの様な作業着で、上半身部分は脱いで腰に結び付けているが、下半身部分は元々ダボッとしている位のサイズ感であるので、ほとんど身体のラインは出ていない。
唯一露出が在るとすれば、腰の辺りから生え出ている尻尾位のモノであろう。
それなのに、何故か作業を後ろから眺めているだけで、ルルさんから強烈な色気が発せられている様に思えるのだ。
上半身と下半身との装備の厚さのギャップでブーストされているのか。
それとも、タンクトップとツナギとの境目から覗く腰回りのチラリズムに反応しているのか。
はたまた薄手のタンクトップのみで支えられて、抑え付けられている大質量が左右に暴れる様を目の当たりにしているからか。
もしくは、それらの全ての相乗効果なのか。
流石にそれを判断する事は、客観的に見ていられる第三者が居ない以上は出来ないが、それでも頭に血が登って下半身に熱が集まる男の性と言うヤツなので大目に見て貰うとしても、実際に露骨な迄に反応して見せたり、不埒な行動を実行したりするのは理性を動員して獣性を抑え込み耐え忍ぶ。
そうして耐えていると、不意に視線を感じた為にそちらへと目を向ける。
すると、そこには中腰になったままでこちらへと向けているお尻を弛く振り、その上で挑発する様にして尻尾を揺り動かしながら、自らの背中越しに蠱惑的な光を湛えた瞳を向けて来るルルさんの姿が在った。
ソレに気が付いた俺は無言のままで立ち上がると、徐に彼女の後ろへと近寄って行く。
対して彼女は、自らの望みが叶えられたのだと確信したのか、情欲に濡れた瞳にて誘い掛けながら、タンクトップの肩紐やツナギのボタンへと手を掛けて行く。
そんな彼女の背後へと着いた俺は、手へと巻き付いて局部へと導こうとする尻尾をあしらい、今にも服を脱ぎ去りそうな彼女へと向けて右手を掲げると…………。
そのまま勢い良く腕を振り下ろし、手首のスナップを最大限利かせ、期待から小さく振られていたルルさんの丸く大きく魅力的なお尻を張り飛ばした。
スッパーーーーーーン!!!
「……あ、あひーーーん!?!?!?♥️」
その大きさに見合うだけの柔らかさと、その奥に確かに存在する筋肉と骨格の確りとした程好い固さが俺の手へと感触として帰って来るのと同時に周囲へと快音が響き渡り、一拍遅れてルルさんの悲鳴も響き渡る。
防音の聞いた鍛冶場であったが為に外へと釈明する必要は無かったが、俺は叩いた手に思った以上にダメージが入っていた為に、ルルさんは叩かれたお尻を抱えて悶絶していた為に、暫しの間沈黙の帳が下ろされ続ける。
「~~~~っく、あー。
……さて、これで、少しは醒めました?まだ醒めて無いって言うのなら、もう一発行っておきます?」
先にダメージから解放された俺が、ルルさんへと声を掛ける。
しかし、未だに掌はジンジンとした痛みに襲われており、幾ら素晴らしい感触や何やら胸の内の一部に感じる謎の充足感と引き換えであったとしても、そうそう何度もやりたいとは思えない様な状態となっていた。
……まぁ、互いに合意の上で、『深夜の戯れ』の一環として、と言う事ならば吝かでも無いけどね?
なんて下らない事をかんがえていると、未だに痛みに襲われているらしく、お尻を抱えたまま踞ってプルプルと震えているルルさんが、どうにかして痛みをやり過ごせるようになったらしく、ぎこちないながらも立ち上がってお尻をさすりながら口を開く。
「……お、おぉぉぉぉ……。う、産まれてこの方、こんな衝撃初めて受けた……!
凄まじく痛かったし、凄まじく屈辱的だったから、あんた以外にやられたら即座に殺り返すこと間違いなしなのに、何故かあんた相手なら受け入れられる気がするし、なんだかちょっと気持ちよかった様な……♥️
……な、なぁ、試しに、もう一回、やってみてくれない……?」
「……………………却下で。
そもそも、ここに来た目的と、ここが何処かって事と、時間とかを思い出して下さいよ。
…………夜になら、考えなくもないですから……」
「え!マジで!?やった!言質は取ったから後で『やっぱ無し』は無しだからな!?」
「…………えぇ、考えるだけなら。あと、他の皆には内緒ですよ?」
「了解了解!じゃあ、取り敢えず決めちまうか!」
何がそこまで気に入ったのか、それとも先程の一撃で新たな扉を開いてしまったのか、矢鱈と上機嫌になったルルさんがノリノリで軽く腰を揺らしながら鋼材が満杯になった木箱を抱えて軽々てもちあげると、そのまま近くの机の上へと無造作に下ろす。
それだけで、分厚い材木にて造られている作業机が軋みを挙げたので、どれだけの重量が在ったのかは定かでは無いが、運んだ当の本人は特に気にした様子も疲れた様子も見せはせず、中を漁って三種類程の鋼材を取り出して俺へと示して来る。
「取り敢えず、あそこのダンジョンを潰す前に根刮ぎにして来たから、蓄えとしてはそれなりに量は在るけど、やっぱり種類としてはこいつら位になるね」
「ミスリルと、アダマンタイトに、これは……オリハルコンですか……?」
「そうそう。案外とダンジョンコアの周りには、良質な鉱脈が在ったらしくてね。さっきも言ったけど、潰すついでに根刮ぎにして来たのさ。
もっとも、あんまり量は無いんだけどな?」
「……いやいや、パッと見ただけで、この特徴的な色のインゴットが幾つも在る様に見えるんですけど?
こんなにあって『あんまり量は無い』なんて事は、流石に無いんじゃないですかね?」
銀をベースにしながらも、うっすらと下地に金色が隠れているのであろう事を窺わせる不思議な色合いをしたインゴット十数個と、同じ様に青み掛かった銀色の輝きを見せる無数のインゴットと、黒みを帯びながらも透明度を保った緑色をした無数のインゴットの山を指差しながら、流石に冗談の類いですよね?と言外に含ませて問い質す。
すると、彼女は何処か遠い目をしながら、若干煤けて荒んだ様な雰囲気を感じる笑みを口元に浮かべて俺からの問い掛けを否定する。
「…………だったら、良かったんだけどさぁ……。
あたしが採れるだけ採って一旦引き上げたら、次の時にはもう潰されてたんだよ。だから、今手元に在る分で在庫は全部だし、前線に送る武具の分も最優先で回さなきゃならないから、この程度しか残ってないんだ。
これだって、残ってた分をかき集めて漸く、って感じだから、他はもう無いんだからな?」
「……まぁ、こんな山が出来る程在るんなら、流石に足りないって事は無いでしょう?
ざっと[探査]してみましたけど、どれも純度は申し分無いし、品質も中々高いモノばかりでしたから、そこまで量を投入しなくても済みそうですしね」
「そうかい?なら、良かったよ。
さて、じゃあ、あんたのお眼鏡にも叶った処で、使うヤツを決めちまうとしようか!
取り敢えず、どうする?魔法耐性の高いミスリルをメインに使うか?それとも、圧倒的な物理耐性を誇るアダマンタイトかい?やっぱり、その両方を兼ね揃える代わりに、加工難易度が桁違いに高いオリハルコンに挑戦してみる?
どうするよ?」
「……そう、ですね……」
ルルさんが例に出した通りの順に、それぞれの鋼材のインゴットを置いて行く。
その薄青と黒緑と黄金銀の三種類を前にして、暫し思考に浸る。
……加工難易度で言えば、まず間違いなくミスリルが一番扱い易くは在る。
素材としての硬度も、混ぜ物の無い純正のミスリルであれば、そこらの鋼程度では比較にならない程度の強度を誇る上に、魔法や魔力に対して非常に高い耐性を持つ特性が在る為に、他のモノが選択肢に無く、それでいてそれなりに量が確保出来ていれば真っ先に候補に上がる事間違い無い逸材だ。
但し、他の二つと比べると物理的な強度に不安が残るし、それだけだと軽くなりすぎる。
ミスリルとは逆に、頑迷な迄の物理的な強度を誇るのがアダマンタイト。
加工難易度はほぼ最高峰に位置するが、その代わりと言ってはなんだが、一度武具へと加工してしまえば下手な事では刃零れもしないし、その強度から定期的な手入れさえ怠らなければ基本的には研ぎ直しすらも不要になる。
但し、他の二つと比べると同じ大きさで倍近い重量になるし、何より魔法に対しての耐性が0に近いので、相手を考えないと泣きを見る羽目になる。
最後のオリハルコンは、アダマンタイト以上の物理耐性とミスリル以上の魔法耐性を誇る、最強の魔法金属だ。
加工難易度こそインフェルノ級を通り越したナイトメア級だが、そこさえクリア出来れば正しく理想の素材だと言えるだろう。
アダマンタイトの様に異常に重い訳でも無く、それでいてミスリル程に重心の細工に苦慮しなくても済むのに、それでいて物理・魔法共に高い耐性と強度を誇る夢の様な存在だと言っても良いだろう。
欠点を挙げるとすれば、先程も言った通りに加工難易度が馬鹿みたいに高いのと、何よりオリハルコン自体が滅多に手に入らない事だろう。時折市場に出回る事も在るそうだが、その度に天文学的な値段で取引される事になるのだそうな。
それらの特徴と、使う事へのメリット・デメリットを総合的に判断した上で、俺はとある決断を下すのであった。
さて、何を造るのやら……?




