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俺達がドラグニティ帝国から帰還した日から数日が経過した。
と言っても、その間に何か大きな仕事を片付けていたと言う訳ではない。
到着した当日の間にオルランドゥ王へとドラグニティでの諸々の成果を報告し、ついでにドラコーさんをドラグニティからの大使の様な存在として紹介。
両国間での交易や協定を浸透させる為にこちら側に常駐したい、と言う旨を説明しながら、ドラグニティ帝国皇帝からの親書も提出する事で事後ながらも彼女の独力で承諾を引き出し、無事にこちらへと滞在する事を可能に。
そして、それからドラコーさんの基本的な滞在場所を定めたり、ドラグニティ皇帝から託されていたり、ドラコーさんの権限において定められる範囲での両国間の交易や通商等に関する協定を纏めたり、実際にドラグニティを見て色々とやって来て俺達にもその協定への口出しを頼まれたり、と言う事はあったが、それらはあくまでも成り行きかつ予め定められていた必要な作業だったので、特段『大きな仕事』と言う訳でもないだろう。
面倒ではあったけど。
そんな訳で、帰還して早々に面倒事を片付け、以降を休養日として位置付けていた俺達だったのだが、現在その姿はとある工房の前に在った。
この工房、実は以前俺達が技術教授を行ったあの工房であり、現在も変わらずルルさんの仕事場でもある工房である。
もっとも、ルルさんの立場は以前とは変わり、ここの工房の総長になったみたいだけど。
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「あのバカ野郎、人の功績とか手柄とかを横取りするのが妙に上手くてさ?あんた達が来るまでは碌に証拠も残さなかったから、盗られた連中も泣き寝入りするしかなかったし、それらの手柄であのバカ野郎が工房長に収まってやがったのさ。
もっとも、それもあんた達があのバカ野郎をベコベコに叩きのめしてくれたお陰でボロが出て、結果的に失脚する羽目になったんだから笑い種ってもんだけどな!
……まぁ、その後釜で、あのバカ野郎ですらどうにも就けなかった工房の総長に就かされるとは思ってなかったんだけどさ……。
なんでまたあたしに振るかなぁ……」
「それだけ、ルルさんの腕を買われているって事じゃないですかね?総長って事は、この鍛冶場以外の工房にも口利き出来るって事でしょう?」
「……そう言って貰えるのは嬉しいけど、流石にそれは違うってのは、あたし自身が良く分かってるんだよねぇ。あのバカ野郎よりはマシだと思ってるけど、あたし自身はそこまでの腕前じゃないよ?少なくとも、そこまで傲れる程じゃないのは間違いないね。
それと、口利きなら出来なくも無いけど、やっぱり向こうも職人だからね。下手な事を言い出せば、即座に蹴り出す位はするんじゃないの?」
「でも、そうなら俺の依頼も通しやすくなるんじゃないですか?少なくとも、鍛冶工房の話を聞いていたら、同じ様に技術的な革新的進化を起こせるんじゃ?と思って聞き入れてはくれるかも知れないですよ?」
「……なんか、ソレを聞いたら、あんたとの繋がりを期待されて総長に据えられた様な気がして来たよ……。
そう言えば、総長の座を押し付けられた時も『面倒な雑事はこちらで処理するから、基本的には今まで通りに生産していてくれれば良い』とか言われていたから、多分あんたの想像通りなんだろうねぇ……」
「そうだったとしても、本当にお飾りで据えておくつもりならそんな事言わないのでは?少なくとも、ソレを伝えて悪意を抱かれてアレコレ画策されるよりも、伝えずにある程度好き勝手させておいたほうが操作はしやすいでしょ?」
「……そう、かもな……。
…………まぁ、どっちでも良いか!鍛冶も、あんたといられなくなった訳でもないんだし、何より総長になった事で素材も使い放題だからな!存外悪いことばかりでも無いよな!
取り敢えず、あんたとの共同作業を楽しむとしようか♪」
「そうそう、その意気ですよ。何事も、楽しんだ者勝ちってヤツです。少なくとも、俺がいた部隊では、そう考えている連中ばかりでしたね……」
その日は珍しくララさんが別件で俺の近くにはおらず、それでいてルルさんのお仕事が休みであった為に協力を申し出てくれたのだ。そのため、移動に伴ってルルさんに抱えられて運搬されながら会話を繰り広げていたのだが、思いがけずに出してしまった話題で一人しんみりとした雰囲気になってしまった。
……糞も味噌も無い様な混沌とした戦場にて、常に楽しみを見つけ出していた姐御。悲観的に振る舞いながらも、それでも必ず活路を見出だして来た隊長。何処か楽観視していながらも、それでも確実に最悪の事態の芽を潰していた少尉。姐御と一緒に何かにつけて顔を真っ赤にしながら俺に絡んで来た軍曹。俺よりも後に入って来て、やはり先任の皆に可愛がられていた後輩達。
……かつて共に戦場を駆け抜け、次第に櫛の歯が欠ける様にして脱落して行き、そして最後の作戦にて全員がその身を散らして逝った仲間達……。
全員が全員、善人だったとは言わない。
中にはあからさまなまでの悪人であり、刑が執行されたハズとなっている死刑囚だって居たのだから。
全員が全員、俺と同じだったとは言わない。
中には、俺と同じ様にノウハウが確立されてから改造された実験体も居たが、その他の皆は基本的には真人間のままあの地獄の様な戦場に立っていた。
……だが、それでも、そうだったとしても、あの時、あの場所に共に立っていた皆は、俺にとっては掛け換えの無い存在であり、同時に拠る辺の無い俺の居場所であった事は間違いないのだ。
そんな彼ら彼女らとの記憶は、俺の中で燦然と輝いて…………は決してないが、それでも強烈な印象と共に今も鮮明に残っている。
今を生き、そしてこんな俺と共に居てくれるララさんを筆頭とした女性陣には申し訳無いが、やはり俺の中での『一番』は、あの時のあの面子とのやり取りなのだろう。
そうやって、一人過去に想いを馳せていた俺の頭へと自らの顎を乗せ、その上で尻尾まで絡めてグリグリモフモフと悪戯してくるルルさん。
あまりその手のスキンシップを彼女が仕掛けて来た記憶が無かった俺は、黙ってソレを受けながら内面へと向かって沈んでいた意識を現実へと向け直す。
「…………まぁ、なんだ。
あんたにはあんたの過去が在るんだろうし、ソレが後ろ暗いモノだったり、あたし達には言えない類いのモノだったりするの位は分かるさ。どうせ、あの時に言った事が全部だった、って訳じゃないんだろ?
でもね、過去には勝てないかも知れないけど、今こうしてあんたの隣にいるのはあたし達なんだから、あたし達の事も見てくれなきゃ困るんだからね?あんまりほったらかしにしてると、拗ねて何をするか分からない様なのもいるって事は、あんたが一番理解してるんじゃないのかい?」
「………………そう、でしたね。すみません。ご迷惑をお掛けして」
「そこは『すみません』じゃなくて『ありがとう』だろう?」
「……すみま……いえ、ありがとうございます、ルルさん」
「……ん。分かればよろしい。分かればね」
「えぇ、この埋め合わせは、必ず何処かで……」
「……じゃあ、この後午後から時間空いてるかい?」
「えぇ、一応は」
「だったら、以前約束してたアレ、どうだい?」
「……以前約束してたアレ……?」
「おいおい、忘れちまったのかい?あたしとあんたが初めて会った時に、約束しただろう?『あんたとなら凄いモノが造れそうだから―――』」
「……あぁ、『―――だから、一緒に何か造らないか?』でしたね。随分と前にした約束の様な気がしますよ。
とは言え、約束したのが三月近くも前なのだから、当然と言えば当然でしょうかね?」
「だからって、忘れてなくて覚えていて欲しかった、って言うのが女心ってヤツだよ。今度は、ちゃんと覚えておきなよ?」
「……面目無い」
「それで?どうする?」
「……そう、ですね。他に予定も無いですから、やるだけやってみましょうか。ただ、思った様な代物が出来なかったからと言って、拗ねたりしないで下さいよ?」
「…………あんたがあたしの事をどう言う風に思ってるのか、こっちでコッテリと聞き出したい処だけど、乗り気ならそうも言ってられないからね!取り敢えず、残ってる作業の類いが在るんならあたしに手伝わせな!手早く片付けるよ!」
「そう言いながら、俺の股間に手を伸ばさない!手じゃなきゃ良い、とかそう言う訳じゃないから、尻尾もズボンの中に入れて来ようとしない!」
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……そんなやり取りを昼前に挟み、一緒に昼食を採ってから抱えられて移動し、そして現在に至る、と言う訳だ。
今回の主催者にして、目の前の工房の総長であるルルさんは、俺の頭の上で興奮からかフンス!フンス!と鼻息を荒くしている。
そんな様子の彼女に、半ば呆れの感情を込めた視線を向けながら、取り敢えずは把握しておかなくてはならない事を彼女へと問い掛けるのであった。
「それで?一体何を造るんですか?取り敢えずそれだけは教えて貰えないと、流石に【職業】と[スキル]とで二重に補正の掛かる俺でも打てるモノも打てないですよ?」
「まぁ、それは当然じゃないか?
今回の合作で、あたしとの約束を果たすついでに、もう一つの約束も果たしておいた方が良いだろう?あの娘にも、装備を造ってやる、って約束してたじゃないのかい?」
そう言われて俺は、彼女と同じく恋人となっている桐谷さんと交わした約束を思い出すのであった。




