表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/100

7

 


 他の皆が終わり、後は俺だけとなっていたので、これまで俺を運んでくれていた獣耳さん(俺命名。本名は知らない)に頼んで下ろしてもらい、自分の足で装置まで近付いて行く。


 すると、既に装置によって【職業】と[スキル]を公開している加田屋と桐谷さんが、俺の事を凝視していた。


 片や加田屋は、まるで何か強い憧れを抱いているモノを見る様な目で。

 片や桐谷さんは信じられないモノを見る様な『驚愕』の感情と、どうしても許せないモノを見た『激怒』……いや、これは、自身の所有物に触れられた事に対する『嫉妬』……が一番近いと思われるが、兎に角その二つが入り交じった様な感情が込められた視線を俺に対して向けて来ていた。



 ……何故にそんな視線を向けて来ているのだろうか?

 向けられる様な事なんて、した覚えは無いんだけど……?



 内心で首を傾げつつ、未だに鼻をキュンキュン鳴らしながらちょこちょこ着いてきて俺の袖を握って来た獣顔のお姉さんを押し留めて装置へと歩み寄り、皆が触れていたパネルの様な部分へと手を触れる。

 すると、まるで俺の手をスキャンするかの様に、パネルの上から下へと光が数秒程掛けて光り、それが収まってから更に数秒程して隣のモニターが明るくなり、俺の習得している【職業】や[スキル]が表示されて行く。




 ******



 名前:滝川 響


職業(ジョブ)】:【上級生産者(チーフプロデューサー)


 [スキル]:農業・成長促進・畜産・品種改良・漁業・大漁祈願・狩猟・熟成・鍛冶・修理・採掘・探査・紡績・補修・裁縫・刺繍・彫刻・刻印・調薬・保存…………



 ******




 ……うん、分かってはいたけど、少々取り過ぎたみたいだね。

 画面に映る範囲を越えちゃったのか、俺が習得した[スキル]が全部表示されて無いからね……。

 何せ、片っ端から習得出来るモノを取り敢えず突っ込んでみたから、割りと節操なしにアレコレと取り過ぎた様な気がしないでもないし、何なら俺の記憶が正しければここに表示されている[スキル]は俺が取ったヤツの半分位しか表示されて無いからね?スゲェだろ!(半分自棄っぱち)


 ……でも、これでどう言う反応をされるかで、俺の今後取るべき道が決まるんだけどなぁ……。

 さぁ、どっちだ!!



 胸中にてそんな呟きを溢してから、モニターへと向けていた視線をお偉いさん達の奥に座っているおっさんへと向ける。


 その目の中に、俺に対して『兵器としては使えない』との判断を下している色が見えたのならば、この後どうにかして加田屋や桐谷さん達を誘って脱出を図り、元の世界へと帰る手段を模索する事になるだろう。

 もし仮に、『道具としては使えそうだ』と言う色が在ったのであれば、表面上従って協力するフリをして俺に依存させてから脱走し、国ごと崩壊させてやれば良い。帰り方を探すのは、その後になるだろうけど。


 なんて考えながら視線を向けると、その先には予想だにしていなかったモノが視界へと写り込んで来ていた。



 ……そう、それこそ、『感動』や『感激』や『歓喜』と言った感情を瞳に宿し、さながら砂漠のど真ん中にて探し求めていたオアシスを見付けた旅人の様な、絶望の中に一欠片の希望を見付け出した様な、そんなおっさんの姿であった。



 突然の事態に驚愕していると、俄に周囲が騒がしくなりつつある事に、後れ馳せながらも気が付く。


 それに従って視線を周囲へとさ迷わせれば、お偉いさん方や兵士達、騎士の下ろされた面頬の奥に微かに見える瞳にすらも、おっさんと同じ様な色が浮かんでいるのが見て取れた。



 ……一体、何がどうなっているんだ……?

 こう言う『世界の危機』的な展開だと、俺みたいな生産特化型は邪魔でしかないから追放だとかの処分の対象になるんじゃないのか……?

 ぶっちゃけ、そうやって追放されて、兼ねてからの憧れだったスローライフを楽しもうと思っていたんだけど!?

 もう血塗れスプラッタは戦場でお腹いっぱいだから、勘弁願いたいんですけどねえ!? 



 内心で、一体何が起きたのか!?と戦々恐々していると、それまで分けられていた場所から突然深谷の奴が飛び出して来て、おっさんに向かって芝居掛かった口調にて唐突に語り始める。



「王よ!彼の不徳をお許し下さい!私達は、神よりこの世界を救うようにと願われてこの世界へとやって来ました!しかし、彼は『世界を救う』と言う事がどう言う事なのかを理解していなかった様なのです!ですので、彼はこうして戦う力を得る機会を擲ち、欠片も役に立たない様なモノばかりを習得してしまったのです!

 ソレを止められなかったのは、この集団のリーダーである私の責任です。よって、彼は私がこの場で討ち果たし、私達がお遊びにてこの場に立っているのではなく、本気で世界を救う神の使徒であるとお認め願いますよう。

 ……さて、滝川。早速一人抱き込んでいるみたいだけど、俺の目は誤魔化せないからな!覚悟しろ!お前がこのまま生きていると、俺が桐谷をモノに出来ないんでな。悪く思うなよ?じゃあ、さっさと死ね!」



 前半部分は朗々と、周囲にいる者達へと語りかける様に。

 後半部分は密やかに、俺に対してのみ囁きかける様に。


 自分とは関係無い場所でやっていたならば面白く見守れたのだろうが、こうまでして俺へと悪意を向けられてしまってはそうも言ってはいられない。

 しかし、ここまでの悪意を向けられなければならない理由に、俺としては心当たりは無いので、正直戸惑いの気持ちばかりが沸いてくる。


 だが、そんな俺の内心なんて知った事ではない!とばかりに、いつの間にやら会得していたらしい[スキル]にて光輝く剣を造り出すと、俺に向かって大きく踏み出し、大上段に振りかぶってから俺目掛けて大きく振り下ろして来た。


 ……流石に、ファンタジーな非実在的なモノが武器とは言え、恐らくは[聖剣術]か[光魔法]の産物であるアレが、普通の鉄製の長剣よりも危険度が低いとは到底思えない。

 それに、確実に俺の事を仕留めたいのか、身体能力を上昇させているらしく、今の状態では目で追うのがやっとと言った素早さを発揮している。


 ぶっちゃけ、教室で拉致された時と同じく、普段は負担を軽減させる為に掛けているリミッターを外せば、多分回避は楽勝だし、やり方によっては殴り合いにも勝てるかも知れない。

 けど、そうすると残り少ない寿命がほぼ0になってしまう。ガタガタの身体を無理矢理動かすのだから、仕方無いのだけど。

 まぁ、このまま避けないでいれば、やっぱりそちらも0にされる事になるのだろうけど。



 ……仕方無い。

 ここは、あくまでも『普通の人間』としてわざと急所を外して攻撃を受け、その後に手当てを受けてこの出来事自体を有耶無耶にする!

 そうすれば、何故かは知らないが俺に対して『期待』を持っているらしいおっさん達が勝手に助けてくれるだろうし、クラスメイトの皆……いや、『元』クラスメイトの皆にも、俺が改造人間だとバレずに済む……ハズ!

 唯一の難点としては、どうやっても痛いのだろう事と、受け方をミスれば普通に死ぬだろう事だけど、まぁ、どうにかなるだろう。

 戦場で(今まで)だって、どうにかなったのだから、今回もどうにかなるでしょ。



 そう、半ば自棄っぱちになりながら覚悟を決め、深谷の太刀筋を見極めて即死しない程度に重傷を負うであろう箇所を見極めて攻撃を受けようとしていたその時だった。


 俺の目の前に二つの影が飛び込んできたと思った瞬間、幾つかの出来事が同時に発生したのだ。



 俺の目の前に飛び込んできた影の片方が、まず深谷の構えていた光輝く剣を断ち斬ってしまう。

 それと同時に、もう片方の影が深谷の膝へと蹴りを入れて跪かせると、もう片方の影と共に、その首筋へと手にした刃を添えて動きを制し、拘束を果たす。


 その二つの影の動きと同時に、かなり強い力にて強制的に深谷との距離を離され、加田屋や桐谷さん達がいた場所の近くまで一息で運ばれてしまう。

 その際に、背中に当たる硬いながらも反発力に富んだ感触がしたり、運ばれた後も旋毛の辺りをフガフガと嗅がれていたり、俺の左右の視界の端にブンブンと振られる尻尾が見え隠れしている事から、恐らく運んでくれたのは例の獣耳のお姉さんなのだろう。

 何故か、運び終えたハズなのに未だに抱き締められてフガフガされているし、桐谷さんからは凄い視線を送られて来ているが、今は気にしない事にしておきたい。心の底から、大マジで!


 そうして、俺の安全が確保(?)されてから遅れる事数秒で周囲の兵士や騎士達が反応し、俺と深谷との間に割って入って人垣による壁が形成される。

 それと同時に、拘束された深谷を助けようとしてか、同じ分類をされていた『元』クラスメイト達が口々に何か言いながら参戦しようとしていたが、そちらは大人数に囲まれた上で刃を突き付けられた事により戦意を喪失したらしく、一瞬で大人しくなっていた。


 瞬時に静けさを取り戻した玉座の間(推定)に、一つの靴音が響き渡る。

 何事かと思って視線を向けると、その先には直前まで玉座に腰掛け、こちらへと諦感の混ざった視線を向けて来ていたおっさんが、その瞳に希望を宿しながら、覚束無い足取りにてこちらへと歩み寄って来ていた。


 そして、ある程度の距離を残して俺へと近付くと、突然その場に膝を突き、被っていた王冠が落ちるのにすら頓着せずに頭をさげると、悲哀と慟哭の入り交じった様な声色にて俺へと懇願する様に声を挙げるのであった。




「……よくぞ、よくぞ現れて下さいました『救世主』様!どうか、この世界を、我らをお救い下さいませ!!」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ゲームでもそうだけど攻撃特化とか生産特化に偏らせる場合と攻撃生産混合の場合とでは後者が何かと便利よな。攻撃特化は攻撃以外無能、生産特化は街から出ないもしくは素材集めに護衛を雇う金が無ければ無…
2019/11/17 00:00 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ