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俺がとある思い付きからドラコーさん宅の地下室を改造してから早くも一月近くが経った現在。
俺達は、完成した試作品を持って、何故かドラグニティの帝城へと赴いていた。
……いや、何を言いたいのかは理解出来る。
些か展開が急に過ぎるし、何よりなんでそうなったのか?と言う事柄への説明が絶望的に足りていない、と言う事だろう。
しかし、そうは言われても、俺としても大した説明は出来ない、と言うのが正直な処だ。
何せ、加田屋と協力して地下室に設備を拵え、その上で俺の思い付きが本当に合っているのかを確かめる為に[スキル]を使っての実験品を作り、その上で細かく条件を変えて色々と試作品を作ってデータを集め、その結果として特殊な個人の技術を頼りにしなくても生産出来る、との確信を得た為に、完成した試作品と共にドラコーさんへと報告を行ったのだ。
……行ったのだが、何故かその数日後に帝城からの出頭要請がドラコーさんによってもたらされ、それに合わせてこうして枝肉を抱えて出向いている、と言う訳なのである。
しかし、何故こうやって呼び出されたのだろうか?
ドラコーさんによって先導され、ララさんによって運搬される形で城の中を進みながらそう考える。
確かに、アレを完成品として提出し、その保存方法だとか、加工難易度だとか、見込める利益だとかも簡単なレポートにまとめて提出はした。
それに、試作品の実物として、俺が[スキル]で加工して作り出したモノと、俺が[スキル]を使わずに最適な条件で作り上げたモノをドラコーさんに試食して貰った結果
『この国の人々の舌にも十二分に適応するハズでありますし、むしろ個人的な事を言えばこちらの方が好ましい美味であると言えるであります!お代わり!』
との評価を頂けた。
俺達も、その時はステーキとして口にしていたのだが、肉の旨味はそのままに、いや、むしろ強烈に濃縮されており、更に通常のソレよりも肉汁が豊富に含まれていて、それでいて最大の特徴であった強烈な歯応えは鳴りを潜め、ある程度は固さは残るものの俺達の様な只人でも『歯応え』として楽しめる程度にしか残っていなかった。
この程度の固さと、それでいて全体的に差しの少ない赤身肉である事を考えると、ローストビーフとかにしても美味しく食べられるかも知れない。
生のままだと激しくお腹を壊す事になる(加田屋が実証)のだが、レアの状態であれ一応火を通していればそこの心配はしなくても大丈夫みたいだしね。
……と、少々話はそれだが、その試食会の後に試作品とその作り方、そして先程も言ったレポートをセットにしてドラコーさんに預けたのが数日前の事。
なので、こうしてわざわざ呼び出しを受ける心当たりは特に無い……ハズ。
まぁ、万が一、俺が提出したレポートを良く読まず、半生で口にして皇帝陛下がお腹を下したからその処罰を!とか言うのなら自業自得としか言い様が無いから本気で抵抗させて貰うつもりだけど、何となくそれは違う様な気がしなくもない。
もしそうなら、多分ドラコーさんだけでは呼びに来ないだろうし、何より彼女の雰囲気もそんな風には感じられなかったしね。
……でも、だったらなんでまた……?
そうやって思考の袋小路にてウロウロしていると、先導していたドラコーさんが立ち止まり、それに釣られる形でララも止まった事によって俺も顔を上げる。
すると、目の前に扉があったのだが、それは俺の予想していた謁見の間の大扉とか、もしくは衛兵の立つ豪奢な私室か、はたまた表には出し辛い会談や密会等を行う為の秘密の部屋と言った感じのモノではなく、どちらかと言うと日常的に使われている、食堂か厨房の類いに繋がるモノの様な雰囲気が感じられるモノであった。
「…………え?ここ?なんで?」
思わず溢した呟きに、曖昧な笑みを浮かべながらこちらへと振り返って来るドラコーさん。
「……まぁ、その疑問もごもっともなのでありますが、ここは堪えては頂けないでありますか?
今回ここを指定されたのは皇帝陛下ご本人でありますので、自分には如何ともし難く……」
「……そう言う、中間管理職的な悲哀は何となく理解出来ましたけど、だからってなんでまた食堂(?)に……?
もしかしてアレですか?少し前に依頼されて製作・搬入しておいた冷蔵庫(ディスカー王国でも作って使っていた冷却用魔道具)に、早い処コレをしまっておけ、と言う意思表示ですかね?」
「……そこも、自分は知らされてはいないので、申し訳ないでありますが陛下ご本人から直接問い質して頂く他に無いのであります。
…………まぁ、自分が口を滑らせたからかも知れないのでありますが……」
「おいこらちょっと待てや。
何か今、聞き捨てならない呟きが聞こえた気がするんだけど!?」
「さぁ、なんの事やら、であります。空耳の類いでありましょう?
さて、ではご開帳~」
何やら、看過してはならない呟きが聞こえた気がしたので追及しようとしたのだが、肝心のドラコーさんからは惚けられて避けられてしまい、凄まじく軽い感じで閉ざされた扉へと手を掛けて開かれてしまう。
そして、自分だけはさっさと中に入ってしまったので、仕方無しにララさんの腕を軽く叩いて指示を出し、その背中を追い掛けて貰う。
そうして、続けて入った部屋の中は予想通りに食堂だったのだが、どうにも中途半端な印象が拭えない雰囲気となっている。
こう、何と言えば良いのかイマイチ掴み切れないが、お貴族様やお大尽様が使う様な、そんなきらびやかな処でもなく、かと言って庶民が使う様な、そんな乱雑でくすんだ様な処でもない、どっちつかずな灰色でチグハグな印象を受ける食堂の中に、更に雰囲気と場所に似合わぬ豪奢な服装をした人達が何人か座っている事が、更に雰囲気の中途半端さに拍車を掛けていると見て間違いは無いだろう。多分。
と言うよりも、以前会っているから分かるのだが、あそこに座っているのってこのドラグニティ帝国の皇帝陛下じゃないよね?ただのそっくりさんだよね?
そして、その陛下に良く似た顔立ちの男性と、その男性に寄り添う様にしてまたしても見た覚えの無い美人さんが座っている処を見ると、やっぱりそこの二人も皇族関係者って事なのだろうか?
その他にも、皇帝陛下のそっくりさんに似通った顔立ちや雰囲気の男女や、それに寄り添う美形の男女がもう数人いるが、やはりそう言う意味合いの集まりなのだろうか?
特に気負う事もせず、軽い足取りにてそちらに進んで行くドラコーさんの背中を見ると、何となくそうじゃない様な気もして来るが、一際存在感を放っている陛下と思わしき人物の姿がソレを根本的に否定している様にも思える。
なんて事を考えながら運ばれている俺の心配を他所に、軽い足取りにてその集団へと歩み寄ったドラコーさんは、気さくな様子にて手を掲げながら軽い口調にて言葉を放つ。
「へ~い、連れて来たでありますよ~。
と言うか、今回は『報酬』が約束されてたから引き受けたでありますが、わざわざこんな事に自分を使わないで欲しいであります!
大叔父上なら、幾らでも手は在ったでありましょう?」
「……まぁ、そう言うな。我とて孫娘同然のお主の顔は見たいのだ。
それに、こうして私用で使うのに申し訳ないと思っているから、こうして同席の誘いをしているのだぞ?
それとも、お主は内心嫌で嫌で仕方無かったとでも?昔は『ジイジ大好き~♥️』とか言っていたと言うのに……」
「一体、いつの話でありますか!?それに、自分は個人的にタキガワ殿と仲良しでありますので、お願いすれば作って貰える可能性は高いのであります!どうだ!羨ましいでありましょう!?」
「それは、実際に口にしてから、と言うモノよ」
驚く程にフランクに声を掛けたドラコーさんもドラコーさんだが、周りが咎めないって事は許可しているのか?とか、同じ位のフランクさで応えた相手ってドラコーさんが大叔父って呼んだって事は確か皇帝陛下ご本人だったハズだよな!?とか考えていると、以前対面した時と同じ様に、覇気すら感じさせる静かな瞳をこちらへと向けて来る皇帝陛下。
しかし、今回はその口許には微笑みが浮かんでおり、以前会った時よりも圧力の類いに関しては軽くなっている様にも感じられた。
「突然呼び立てて済まぬな。今回、こうして救世主殿に『例のモノ』を持参して足を運んで頂いたのには、それなりに理由が在るのだよ」
「……理由、ですか……?」
訝しむ様に言葉を返す俺へと苦笑を浮かべつつ、ドラコーさんへと『何も説明していないのか?』と言わんばかりの視線を向ける陛下。
その視線を受け止めつつ、わざとらしく口笛を吹きながら視線を逸らして惚けるドラコーさん。
そんな彼女の態度に呆れの視線を送ると共に溜め息を一つ溢した陛下は、その威厳に満ちた顔に浮かべていた微笑みを悪ガキの様なニヤリとした笑みに切り換えると、俺をここに呼び出した理由を語るのであった。
「……なに、そんなに大層な理由でもないのだがな?そこのアホ娘がタキガワ殿の作られた新たなる産業の要にして、我らをして未知の美味であった『熟成肉』を、更に我らの想像だに出来ない様な美味の深淵へと誘う事が出来る。現に自分は味わった事がある、と宣いおってな?なれば、そこまで言うのであれば実際に本人に作って頂こう、との話になったのだよ。
故に、こうして呼び立てさせて頂いたと言う訳なのだ。
なので、あのアホ娘の言う料理とやらを作っては頂けぬかな?もちろん、報酬は払わせて頂くぞ?」
……え?なに?俺って、飯作る為だけに呼ばれたって事?
てか、皇帝の爺以外の他の連中も、揃いも揃ってヨダレ垂らしそうな顔と目してこっち見てるなよ。
アホ娘も、期待を込めた目でこっちをチラチラ見てるし、この国の皇族ってこんなのばっかしなのか?マジで!?




