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 俺達がドラグニティへと到着し、厄介事を丸投(ゲフンゲフン!)……困難な依頼を任せられてから約一週間程が経過した現在。


 あの会議から更に数日が経っているのだが、俺達は同じ様に同じ部屋へと集まって額を突き合わせながら、揃って頭を抱えていた。



「…………マジで、どうするよ、この現状……」


「……まさか、アレもダメ、コレもダメ、なんて状況になるとは、私も思わなかったよ……」


「取り敢えずの着眼点は間違って無かったっぽいけど、流石にあそこまで文明的に後退しているとは、僕も予想していなかったよ……」



 会議を終えた翌日から、俺達は実地調査を兼ねて外へと出て実際に住民の皆さんへと聞き込みの様な事をしていった。


 その結果として、この辺りで良く獲られるのは『アゲラダ』と呼ばれる牛に良く似た魔物である事が分かった。


 その『アゲラダ』は、牛に似ているだけに身体が大きく、それでいて中途半端に気性が荒くて攻撃が単調であり、比較的簡単に討伐出来てかつ可食部も多く、それでいて味も良いのでとても人気が在るのだけでなく、角や蹄は薬に、骨は道具や武具の素材に、皮も様々な用途に使われると言う、正に捨てる処の無いと言われる程に無駄の無い魔物であるのだとか。


 ソレを知った時、俺達は勝利を確信したモノだ。


 実際に、ララさんに頼んで獲って来て貰った『アゲラダ』を加工してみたり、食べたりした時は、様々な可能性に胸を踊らせた。



 ……()()()は、様々な可能性に胸を踊らせ()のだ。



 そう、正しく過去形で、踊らせて『いた』のだ。


 皮の加工も、様々な革製品の防具やバックや小物入れと言った品々へと加工する事に成功した。

 しかし、それらは既に既製品として流通しており、ディスカー王国の様な他国へと売り込むのであればまた別かも知れないが、画期的な新産業と言うには些か力が足りていない。


 骨の加工も、多少特殊な加工を必要にはしたものの、中々の品質にて大振りな刃のナイフや投擲用の小型ナイフ、またちょっとした小物を作り上げる事に成功した。

 しかし、それらは品質こそ高いものの、それは俺が作ったからと言うだけのモノであり、根本的に『産業』として量産出来る様なモノではない。


 角や蹄の加工も、他の素材が必要とされはするものの、ディスカー王国にて調薬したモノとはまた違った効果を持った薬の数々を作り出す事に成功した。

 しかし、それもまた俺だから生産出来た、と言うだけのモノであり、こちらも『産業』として量産するのは難しい上に、俺が作っても市販のモノと多少変わる程度にしか効果が上昇しなかったので、新規参入は難しいと言わざるを得ないだろう。


 ……そして、最後に残された肉の加工なのだが、これは上手く()()()()()()


 一応、最低限『料理した』と言える様な状態には加工する事には成功したし、その際に行った試食では実際に味を確かめる事も出来た。

 ……だが、それはあくまでも『最低限』の事であり、裏を返せばそれしか出来なかった、と言うのが実の処である。




 そう、何故なら、その『アゲラダ』の肉は、俺達の様な只人には煮ても焼いても叩いても食えない程に、固くて堅くて仕方無い様な、そんな肉質をしていたからだ。




 ……確かに、そう言った前情報が無かった訳では無いのだ。


 予め、ドラコーさんからも、蜥蜴人達は獣人達程では無いにしても顎の力が強いので、基本的に食べ物は固いモノの方を好んで口にする傾向が在る、と言う事は聞いていたのだ。

 そして、俺達が聞き込みをした人達の中にも、肉の味等に対して行った質問の中で、歯応えが堪らない、と言う返答をして来た人達が一定数いた事も事実ではあったのだ。


 しかし、それに対して俺達は楽観的に考えており、どうせ普通に食っても食えなくはない程度の食感なのだろう、と高を括っていたのだ。


 ……だが、実際に口にした処、とてもでは無いが食えたモノでは無い、まるで硬質なゴムに齧り付いた様な強烈な歯応えが俺達の顎を直撃したのだ。


 幸いな事に、肉の味自体は牛肉の赤みの味を凝縮した様な、強烈かつ濃厚な旨味を感じる事が出来たので何とか最後まで食べきる事が出来たのだが、その代償として俺ですら顎に多大な疲労を抱える羽目になってしまったのだ。

 俺以外の二人に至っては、桐谷さんは顎の痛みを訴えて暫くは歯応えの在るモノを口に出来なかったし、加田屋の場合は試食の途中で肉の固さに負けて一部の歯が砕けた為に、桐谷さんの回復魔法とポーションを併用しての治療を余儀無くされる事となってしまったのだ。


 その、いつぞやの固い魔物肉を彷彿とさせる食感を、取り敢えずどうにか普通に食べられる程度に柔らかく出来ないか、と色々と試行錯誤してみたのだが、煮ようが焼こうが叩こうが、それこそ刻んでミンチにしようが独特の歯応えは残り続け、どうやっても普通に食べられる様にはなってくれなかったのである。


 どうにかして、一番身近でかつこれから最も量が確保出来るであろうこの『アゲラダ』肉を加工出来れば、味自体は素晴らしいモノが在るのだから新しい産業として確立出来るのではないのか?と言う望みを掛けて挑み、万策尽きたが故の現状である、と言う結果が先程の会話と言う訳なのである。



 ……と言うか、まさかここまで頑迷に柔らかくなってくれないとは思っていなかったんだけど?


 薄くスライスしても、それなりに歯応えはするから向こう側が見える位に薄くしないと食べやすくはならないし、煮る場合も半日位は煮続けないとそもそも原型から崩れてはくれないし、柔らかくもなってくれない。おまけに、ずっと付きっきりで火力を調節しないと直ぐに固くなるから手間と面倒が掛かりすぎる。

 ぶっちゃけた話が面倒臭くてやってられない。


 叩いて肉の繊維を解そうと試してはみたが、ステーキ肉を紙と同レベルになるまで叩き伸ばして漸く、と言った感じにしかならなかったからこちらも現実的じゃないし、何よりそうすると逆に美味しくなかったから却下。


 更に言うならば、これならば、と試したミンチは、もはや『固体』ではなく『液体』と表現した方が正しい形容かと思える状態にしないと食べやすくなってくれなかったので、やはり現実的じゃ無かった。

 まぁ、レーションの類いとしては活用できたかも知れないけど。

 流石に俺は遠慮したい。


 試しに揚げてみた時は比較的柔らかくなった……かなぁ?と言う程度にはなったが、それが『油で揚げたから』なのか『適正な温度があったから』なのか、それとも『パン粉と卵でコーティングしていたから』なのかはまだ分かっていない。


 ならば、一層の事生のままで!とスライスして齧ってみたが、流石に歯が立たなかったし、何より生食には向いていなかったのか次の日お腹を下す羽目になってしまった。

 もちろん、俺がそんな程度で下す程に柔な腹をしている訳では無いので、トイレとお友達になっていたのは加田屋だけど。



 そんな訳で、後試してはいないのは長時間調味料の類いに漬け込んでおくとか、一層の事本当に糠漬けや味噌漬けと言った漬物の類いにでもしてしまうとかしか無いのだが、そうした方が食べやすくなり、同時に保存も利く様になる……かも知れない。

 が、その場合は何に漬け込むのか?だとか、そもそも漬物の概念自体がそんざいするのか?だとか、出るであろう臭いの類いだとかはどうする?だとかの疑念も同時に出て来てしまうのだから頭が痛い。



 ……一層の事、向こうの世界で肉を柔らかくしてくれると言われていた、たんぱく質分解酵素を含んだ食材でも探し出してまとめて浸けダレにでもぶちこんでしまおうか?


 もしくは、漬物にするのではなくて、肉その物を使った発酵食品にでも仕立て上げてやれば良いのでは……って、うん……?



 そこまで頭を抱えた状態のままで考えていた俺だったが、何故か何処かで思考に引っ掛かりを覚えた為に、それまでとりとめも無く倩と考えて垂れ流しにするのみであったアレコレを思い返してみる。


 唐突に顔を上げて思案顔になった俺へと、他の二人も訝しむ様な視線を向けて来るが、それに構う事無く記憶を探る。



 …………確か、そう、アレは、最初の会議の後だったハズ……。


 アレが終わって、今の様に『アゲラダ』を取り敢えずの標的?へと定め、それに伴うアレコレを考えながら部屋へと辿り着き、ベッドに倒れ込みながら、聞き齧っただけの情報から牛肉に近いモノらしいのだから、じゃあ試しに…………って、あ……?




「……あ、あああああぁぁぁぁぁぁぁああああ!?!?!?」



「うわっ!?」


「きゃあ!?」



 ガタッ!ガタガタ、ドサッ!!



 突然叫び声を挙げながら立ち上がった俺の動きに驚いて二人とも悲鳴を挙げ、加田屋は椅子から転げ落ちてしまったが、そんな事に構ってはいられない為に急いで二人に指示を出す。



「桐谷さん!急いでドラコーさん探して、地下室の使用許可貰ってきて!」


「……え?でも、なんでそんな事……?」


「いいから、早く!

 加田屋は俺と一緒に地下室を改造するぞ!

 少なくとも、今回同行している面子の中では、お前さんの協力が必要だから手伝ってくれ!」


「そ、それは別に構わないけど、でも僕にしか出来ない事なんて殆ど無いよ?それに、何をするつもりなのか程度は教えてくれないと、手間が増える事になると思うんだけど……?」


「そこら辺は、作業しながら説明する!取り敢えず、早く着手しよう!

 俺の予想が正しければ、多分あの頑迷な迄の固さを解決すると同時に、他には無い産業が出来るハズだ!」



「「……え?えぇーー!!??」」



 またしても驚きから声を挙げる二人を尻目に、少しでも早く作業に取り掛かるべく俺は現場を見て改修案を考える為に、一足先に地下室へと向かって行くのであった。

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