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「我らがドラグニティから出せる条件として、救世主タキガワ殿の滞在中の成果の大小有無に関わらず厚遇し、期間終了後に帰還する意志が在るのであれば確実に送り届ける。
その代償として、ドラグニティはディスカーに対して対等な同盟・無期停戦を申し込み、必要が在れば終戦後の戦果交渉の席に於いてディスカーに対してある程度の譲歩を行う事を『誓約』する、と言う内容になっているのであります。
唐突に言われても信じられないと思うでありますが、取り敢えずは確認をお願いするのであります」
そう言いながら、手にしている巻物をこちらへと差し出して来るドラコーさん。
それを、信じられないモノを見た様な目をしながら受け取ったレティシア王女が、その場にて巻物の封を切って内容を確認して行く。
暫しそうして巻物を読み込んでいるレティシア王女だったが、瞳に驚愕の色を浮かべながら顔を上げているので、恐らくは本物だと判断するのに足るだけの明らかな証拠が含まれていたのだろう。
そんな彼女は震える手つきにて巻物を再度巻き直し、慎重な手付きにてドラコーさんへと返還する。
「…………全く持って信じ難い事ですが、どうやら先程口になされた事は嘘では無かったみたいですね……」
「面識の無い処に、突如としてこんな話を持ってきた自分が言うのアレですが、少しは信用して頂きたい処であります」
「いえいえ、流石にそれは難しいと貴女も分かっておいででしょう?こんな、タキガワ様一人を招聘する為に、国家の利益を削る様な内容を絶対に破れない『誓約』にて約束してくるのですから、何かしらの裏が在るのだと疑わざるを得ませんよ?」
「心外でありますなぁ~。そこは、昨今の風潮に従って、素直に信じてくれても良いのではありますまいか?」
「残念ながら、全体的に脳筋への坂を転がり落ちつつ在る傾向が強いと言っても、私達は国を運営し民を護らねばならない立場に在る王族です。他国からの、しかも特定の誰かを人身御供にすればそれだけで多大なメリットがもたらされる、等と言う美味しくも胡散臭い話には、必然的に慎重にならざるを得ないのですよ」
「まぁまぁ、そう言わず。これは、我らがドラグニティとしての正式な依頼であり、既にそれの本文は国王陛下へと渡っているのであります。なので、正式に決定を下すのはあくまでもオルランドゥ陛下であり、同様に救世主タキガワ殿であります。
それで、どうでありますか?この依頼を受けて頂けるのであれば、最上級の待遇にて盛大な持て成しを約束させて頂くでありますよ?先程の提案にてほぼ満たせているとは思うでありますが、最低限の助言と功績さえ出して頂ければ後は滞在中は望むがままの生活を保証するのであります。
それに、もし望まれるのでありましたら、金子や美食だけでなく、女性もどの様な美姫ですら望むがままであります!なんでしたら、手付けとして自分がお相手致しましょうか♪」
そう言って、ローブの下の着衣の襟元を指で引き下ろし、自らの胸元を覗かせてアピールしてくるドラコーさん。
その、衣服の上から見えていたボディラインよりも大きく、柔らかそうな谷間を作っている魅力の二子山に視線が縫い付けられそうになるも、意思の力にて視線をソコには固定せずに敢えて全体を見る様に焦点をぼかして対処する。
すると、俺が誘惑に乗って来なかったからか、それとも周囲の女性陣が本格的に殺気を放ち始めたからかは不明だが、楽しそうに笑みを浮かべてから俺に対してウインクを一つ飛ばしつつ、下ろしていた胸元を隠して元の服装へと戻って行く。
……もっとも、その際に僅かに見えている尻尾が左右にユラユラと揺られていたり、緩く翼が羽ばたいていたりと言った動作を見せていたので、可能性としては只単に悪戯だったのかも知れないけど。
なんて事を思っていると、いつぞやオルランドゥ王と一緒にいたお偉いさんっぽい人(大臣とか大貴族的な見た目をした人達の一人。名前?……知らん)が俺達の事を探しに訪れ、ついでにドラコーさんも一緒にオルランドゥ王の元へと連れて行かれ、済まなさそうに頼んでくるオルランドゥ王からの要請を受けて、俺達はドラグニティへと旅立つ事になったのであった。
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……なんだか長々と回想していた様な気もするが、取り敢えずはコレが俺達がここに居る原因だ。
もっとも、細かい処まで説明するとまだまだ足りないし、おまけに色々と騒動もあったのだが、取り敢えずはこうして落ち着いているのだからまぁ良いだろう。多分。
こうして旅立つ直前までは、まるで野犬の如くドラコーさんを威嚇して俺へと近付けまいとしていた女性陣も、今ではそれなりに打ち解けたのか割りと距離感も近く仲良くしている。少なくとも、俺の目からはそう見えた。
……まぁ、それと同時に、俺をドラグニティへと繋ぎ止める為の布石としてなのか、矢鱈とドラコーさんと一対一で居る時のスキンシップが増えた気がするのは、多分気のせいじゃないと思う。
ぶっちゃけ、こちらの世界、特にドラグニティや蜥蜴人達や竜人達の風習なんかはほぼ理解していないけど、爬虫類系の薄皮の張られた翼の先端にて頬や腕や太腿をソフトタッチで撫でられたり、鱗に覆われながらも何故か柔らかな感触を伝えて来る尻尾にて手足や胴に巻き付けられたり、服の下へと差し入れて来られたりするのは、流石に『そう言う意味合い』でのアプローチでは無いと言う訳では無いの位は理解出来ている。
それをしてくる時のドラコーさんの表情も、なんだか楽しそうなニヤニヤ笑いを浮かべているのだが、鱗の浮かんでいる目尻までほんのりと赤く染まっていたりするのだから、まぁ間違いは無いのだろう。多分。
なんて事をとりとめも無く考えていると、ララさんと同じ様に市を覗きに行っていた加田屋と桐谷さんが、こちらに対して大きく手を振ってアピールしてくる。
どうやら、直接的に何か見て欲しいモノでも在るらしく、仕切りに手招いている様子だ。
そんな彼女ら(?)に対し、そちらの意図は伝わっている、と言う事を伝える為に軽く手を振り返し、同じく木陰に避難しているレティシア王女へと視線を向ける。
流石に、今回の訪問はドラグニティから送られた使節に対して、ディスカー王国側からも使節を送って返答等をしている、と言う体でいる為に、一応集団の主は彼女と言う事になっている。(実質的には俺っぽいのだけど)
なので、流石に一人二人程度が別行動をするのであればともかく、他に誰も居なくなってしまうのは不味かろう、との判断から確認の為に視線を送ったのだが、案外にもアッサリと『行ってきても良いですよ』との許可が得られてしまう。
「こう言ってしまえばアレですが、元々タキガワ様は護衛としての数には入っておりませんし、少し離れる程度であれば大丈夫です。
何か在ればすぐにララが飛んで来てくれるハズですし、何よりも今回招いているドラグニティ側の責任問題になりますから、恐らくは何も起きる事は無いでしょうし、同時に意地でも起こさせないハズですので、大丈夫です。
……それに、彼女が使用人兼護衛として同行しておりますので、多少の事では私に傷一つ付く事は無いと断言出来ますしね」
「……ちなみに、どの位の力量なのか聞いても?」
「ララ程では無いですが、装備の空きと職務との兼ね合いが取れていれば、まず間違いなく最前線へと送り込んでいたであろう程度には使える、と聞き及んでおります。当然、私よりも遥かに強いのは間違いないかと」
チラリと視線を彼女の後ろに控える使用人のお姉さんに向けると、否定も肯定もしないままに微笑まれ、軽く顔を伏せられてしまう。
その仕草と佇まいや、以前から行われていた彼女の然り気無い奉仕等を鑑みると、あながち冗談の類いでも無さそうに見えてくるから不思議である。
まぁ、そんな気はしていたけどね?主に歩き姿等で。だって綺麗過ぎるんだもの。何か武芸の達人でも無ければ、流石にあそこまで綺麗な立ち振舞いは見せられないからね。
と、そんな訳で、虫除け兼護衛の任務を解かれた(そもそも護衛として数えられていなかったけど)俺は、それまで座り込んでいた木陰から立ち上がると、手を振って合図して来ていた二人の方へと向けてぎこちなく歩いて行く。
移動には時間が掛かるし、動くだけで身体中が悲鳴を挙げて激痛が駆け抜けるが、それでも今の意図的に直していない状態であれば身体への負担は最低限に抑えられるので、不用意かつ不本意的に寿命を削らずに済むのだから、最近は普段はこちらの状態にて過ごしているのだ。
不便と言えば不便だが、それでも基本的にはララさんが隣や背後にいて色々と手伝ってくれるので、割りとどうにかなるのでこうしていたりする。
そんな俺の亀よりも鈍い移動速度にて二人の待つ場所まで移動する。
するとそこは、俺の居た場所からは上手く見えていなかったのだが、どうやら宝飾品の類いを扱う露店商だったらしく、きらびやかなアクセサリーの数々が照り付ける陽光によってキラキラと輝いていた。
それらの並ぶ店先を、宝飾品の輝きにも負けない程に瞳を輝かせながら覗き込む二人に対し、報酬として貰っているお金が在るのだから欲しければ買えば良いのでは?だとか、そもそもその手の装飾品に興味や執着心を持つタイプだったっけ?だとか、お前は少し前まで男だったのにそう言うモノに興味が在るんだ?だとかの野暮な突っ込みを入れそうになるが、半ば無理矢理口から飛び出るのを抑えて二人の視線を辿り、それぞれが視線を集中させているモノに見当を付ける。
そして、二人が目を付けていたモノと、ここに来ていないルルさん、セレティさんの二人の分と、俺が移動した事に気が付いたらしくこちらへと向かって来ているララさんの分に加え、こんな処で売っている様なモノでは格が足りないかも知れないが、レティシア王女にも似合いそうなモノを選んで計六人分をまとめて購入するのであつた。
なお、それを見て感極まったらしい二人にじゃれ着かれたり、ララさんとレティシア王女に渡したら思いの外喜んで貰えたり、手続きを終えて戻って来たドラコーさんに見付かってナチュラルに『それで?自分の分は何処でありますか?』と聞かれたりしたのだが、それはまた別のお話である。




