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「いや~!これはこれは!なんとも奥深い味わい!

 自分もそれなりに長く生きておりますが、これ程の美味は初めて口にしたであります!

 あっ、お代わり、頂いてもよろしいでありますかな?」



 そう言ってお好み焼きを絶賛し、何度目か分からないお代わりを要求する誰かさん。


 黒い髪を首元に掛かる程度までに伸ばし、特徴的な金色で縦長に裂けた瞳と目尻に携えた不思議な鱗の様なモノをアクセントにしつつ、整った顔立ちと俺を越える身長を持つ彼女?(声と外見にて判定)は、長旅でも終えたばかりなのか体型をすっぽりと覆い隠してしまう程にだぶついているローブを土埃で汚したままに、空になってソースの汚れのみが残されている皿を更にもう一枚新たに重ねて空き皿の山を建設している。


 その食いっぷりは見事の一言に尽きる。

 俺達の中で一番の健啖ぶりを発揮するララさんに匹敵するか、もしくは上回るかする程のその食欲は、作る端から綺麗に皿を空けるだけでなく見るからに旨そうに食べてくれており、作り手としてはこの上無い位に作り甲斐の在る人物だと言えるだろう。


 ……が、しかし、問題が一つ、と追加のお好み焼きを厨房にて焼きながら、心の中にて一人呟く。




 その問題とは、彼女が『誰なのか』を、この場に居る誰も知らない、と言う事だ。




 当然の様に、俺には直接の面識は無い。

 何せ、俺自身には見覚えは無い人物だったし、声にも聞き覚えは無い。

 それに、向こうにしても、故意的にそうしたのでなければ、俺の顔を直接目の当たりにしていてスルーしている以上、向こうとしても面識在りきで接触を図ろうとしたのでは無いのだろう。多分。


 チラリと食堂の方へと視線を向ければ、一様に戸惑いの色を浮かべている面々の姿が在った。


 あの反応を見る限りだと、加田屋と桐谷さんの個人的な知り合い、と言う事は無いだろう。


 ララさん、ルルさん、セレティさんに関しては、やや戸惑いの強い警戒体制、と言った処だろうか?

 まぁ、ララさんに関しては、牙を剥き出しにしてグルグル唸っているから、ほぼ警戒体制と言っても良いのかも知れないけど。


 唯一例外的に何か知っていそうな素振りを見せているのは、以外にもレティシア王女。


 と言っても、何となく見当が付いている、と言う程度であるらしく、やはり戸惑いが強いのか、不思議なモノを見る目で彼女を眺めている。


 しかし、当の本人はそんな事は毛ほども気にならないのか、そんな微妙な雰囲気の中でもただ一人平然と空にした皿を積み上げて行く。


 時折、レティシア王女からの要望で多目にしていたクラーケンの割合を落としてジャイアントシケーダの割合を増やしたり、タコ焼き用に用意していたワーム肉を入れてみたりと変化を付けてみたりしたのだが、そうした変化の度に気付いて反応を見せてくれたので、作り手たる俺としては嬉しい限りである。


 そうして、俺以外の面子からは猜疑心の込められた視線を向けられ、俺からは地味に好感度を稼いでいた彼女は、それから暫く皿の山を高くし続けていたが、やがてその手を止めて口元を拭って清め、こちらに対して軽く頭を下げてから口を開いた。



「いや~、食べた食べた!この様な美味なるモノを、見ず知らずの自分にも分けて頂けるなんて、まさしく感謝の極みであります!」


「いや、まぁ、楽しんで頂けたのなら良かったです。お口には合いましたか?」


「口に合う合わない等と言うレベルでは無いであります!今の今まで口にした事の無い美味!具材の方は見当も付きますが、しかし生地になっているモノや、掛かっていたソースに関しては皆目見当も付かなかったであります!一体、あれは何でありますか!?」


「……そこまで楽しんで頂けたのなら何よりです。新しい料理の試作品だったので少し心配していたのですが、無用だった様ですね。

 ……処で、ここに来る当初の様子から察すると、救世主を探しているみたいでしたけど、どの様なご用かお聞きしてもよろしいでしょうか……?」


「おぉ!そうでありました、そうでありました!

 自分、遥々『ドラグニティ』から救世主殿に依頼を持ってきたのでありますが、どちらに居られるかご存知ないでありますか?是非とも、ご本人に直接お伝えしたいのであります!」


「……依頼、ですか……?」


「えぇ、その通りであります」



 そこで一端会話が途切れる。


 端から見れば、それはなんて事は無い、偶々会話が途切れただけの一幕としか映らないのかも知れない。


 俺をそうと知らずに尋ねて来た依頼人と、別人を装ってそれを聞く本人(おれ)


 ……しかし、実際の処としては、ある意味では戦場に於ける斬撃の応酬にも近しいモノだと言っても良いかも知れない。



 何せ、この人、未だに自分に関しての情報を出さずに、こちらの情報を探りに来ているだけでなく、多分だが俺が『救世主滝川』本人だと気付いているのだと思う。



 理由としては、この中で最も戦闘能力の高いララさんを視界から外そうとしていないだとか、未だに自分の目的はおろか名前すら明かそうとしていないだとか、食堂の入り口から一番遠くて厨房側からも遠い場所に壁を背にして座ったまま動かないだとかを挙げられるが、俺としてはこうして相対して歓談していたにも関わらず、その金色の瞳は一切笑っていなかった、と言う事を理由に挙げるだろう。

 後は、理由を付けるとしたら『勘』だろうか?


 部隊に居た時に度々死線を潜る羽目になった為か、俺の勘は割りと洒落にならないレベルで的中する。

 しかも、それが悪い予感であれば、なおのこと的中率は跳ね上がる傾向に在る。


 そしてその悪い予感を、会話の途中にて然り気無く視線を送っておいたレティシア王女が俺の背後まで回り込み、耳元へと囁いてくれた諸々の情報が裏打ちしてくれてしまっていた。



 ……なんでも、彼女の口にした『ドラグニティ』と言う国は、ここ『ディスカー王国』よりも最前線に近しい位置に存在しており、日夜魔物からの攻勢に晒されているらしい。


 しかし、そんな場所に在りながらも未だに滅亡の憂き目には逢わず、こうして他国に人を送るだけの余裕が在るのだからどれだけの強国なのかは察する事が出来るだろう。おまけに、それだけの激しい攻勢に晒されながらも、他の国々と比べると文化的な衰退はそこまで進んでいる訳でもないそうだ。


 そして、そんな強国を支配しているのは、この国の様に只人ではなく、一般的に『蜥蜴人』と呼ばれる人種達。


 獣人の様に、身体の一部に鱗や尻尾と言った蜥蜴や爬虫類に酷似した特徴を持つ人種で、高い戦闘能力を誇るのだとか。

 その中でも、ごく一部の人達は『竜』の要素を身体へと受け継いでおり、その力は一騎当千を地で行く程に圧倒的なモノであるらしい。


 ついでに言えば、レティシア王女も予めオルランドゥ王からドラグニティの使節が来るらしい、と言う話は聞いていたのだが、それはもっと先になるハズであり、まだまだ到着する予定ではなかったのだとか。

 更に言うと、俺達の目の前にいる彼女は確実に蜥蜴人なのだが、先に挙げた『竜』の要素を身体に宿す『竜人』である可能性も否定は出来ないらしい。確認しようにも、ローブで身体のラインを隠されてしまっているので確認出来ないし、何よりララさんが警戒を緩めない程の相手となると、ほぼ竜人位しか考えられないのだそうだ。



 そして、そんな強国の存在が、わざわざ他国の存在であり、そして生産行動にしか使えない俺を尋ねて依頼を持ってきた、と言う事はまず間違いなく厄ネタだろうし、何より目の前の彼女の目が笑っていなかった事も合わせて鑑みると、確実に『よろしくない事態』を、『選択肢はハイorイエス』な状況として突き付けて来るのだろう、と予測出来てしまっている、と言う訳だ。


 ……そんな状態であれば、悪い予感の一つや二つ、当たって当然と言うモノだろう。全く持って良くは無いけどな!



 それらの結論から、内心にてあまりのお手上げな状況に頭を抱えていた俺だったが、とある事柄に気が付いて僅かながらに光明が残されている可能性に思い至る。


 それは、半ば開き直りにも近しい行為だし、失敗すれば何が起こるのかも定かではないが、それでも他に手がないのは確かだし、何よりやらないよりは悪い状況にはならないだろう、との判断から俺は、それまでよりも表情を引き締めてから口を開く。



「……分かりました。そう言えば、自己紹介がまだでしたね。

 俺は滝川、滝川 響。このディスカー王国に異世界から召喚された召喚者の一人であり、過分にも『救世主』と呼ばれている者です。

 では、俺にしか告げられないと言う依頼。その内容を伺いましょうか?」


「……ほぅ?貴方が、でありますか……?」



 言葉だけを拾うならば、訝しんでいる様にも取れる反応を返して来た彼女。


 しかし、俺の取った『敢えて自分の素性をバラす』作戦により、まだ信用出来ないか、もしくは訝しんでいたとしても、目標の人物本人である、と言われてしまった以上はある程度の依頼の内容を公開せざるを得ないし、それと共に先に自己紹介をされてしまっている以上は自分も自己紹介をしない事は出来ないし、しないのは無礼、とまでは行かないまでも、些か礼に欠ける行いとなってしまうのは間違い無い。


 まぁ、もっとも、彼女が本人だと確認が出来ないから、とごねられたらそれだけでお終いになる程度の策でしか無い。

 こちらも、そうやってごねるのならば礼を失しているとして依頼は受けられない、と返す事も出来るが、相手は強国の使節の一人らしいので、そちらからの圧力を掛けられればやはり押し通される程度の策でもある。



 …………が、その程度の策ではあったが、どうやら彼女のお眼鏡には叶う事が出来たらしく、ようやくその表情と瞳の感情が一致した笑みを顔に浮かべていた。




「……ほぅほぅ、成る程成る程。やはり、あの救世主を名乗る者は偽物で、こちらが本物(・・・・・・)でありましたか。

 そちらが名乗られたのでありますから、こちらも名乗らねばなりますまい。

 自分はドラコー。ドラコー・レムレースと言う者であります。

 この度は、我がドラグニティから救世主タキガワ殿に対して、国からの正式な依頼を持って参りました。お受け頂けるでありますかな?」



 そう名乗りを挙げてから、それまで頑なに脱ごうとしていなかったローブを捲り上げ、この周辺では目にした事の無い装束と共に均等の取れた曲線の綺麗なスタイルをこちらに晒して来るのと同時に、その背中から生えていた尻尾と()を広げて自身が何者なのかをアピールしてくるのであった。

果たして、依頼内容とは一体……!?

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