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 ララさんに抱えられた俺の前に、先程まで訓練を行っていた人々の内、俺の出した条件に当てはまったらしい人達がズラリと並んでいる。


 その表情はまちまちであり、救世主と呼ばれる俺の素性を探ろうとしている者、俺の状態(女に抱えられている)に訝しむ視線を向ける者、何をする気なのかと好奇心を隠そうともしていない者、そして、パッと見た限りでは言われている程の力は無さそうだと俺に対して嘲りの視線を向ける者等々、反応も様々だ。


 その事に、何故か俺に対して大変懐いておられるララさんは不満そうに牙を剥いて唸っているが、俺の情報が公開され無さすぎている事も要因の一つだと思われるので、ある意味そうなって当然とも言えるのだから仕方無い。


 手を上に向けてララさんの頬をモシャモシャと撫で回し、普段の愛らしいお顔に戻してから、俺がこれから何をするのか気になって訓練の手を止めてしまっている他の人達や、本当に何をするつもりなのか、何を教えるつもりなのか、と不安そうに視線を向けて来ている医務室の治療班の人達を安心させる為にも、事を進める為に口を開く。



「はい、どうも。集まって頂きありがとうございます。

 既に知ってる方は知っているでしょうが、一応『救世主』とやらとして噂になっているらしい滝川です。

 さて、こうして皆さんに協力して頂く為に集まって貰った訳なのですが、皆さんは自分達がどうして(・・・・)集められたのか分かる人はいますか?」



 唐突な俺からの質問に、それまで様々な視線を向けてきていた人々の全てがポカーンとした表情を浮かべて固まってしまう。



 まぁ、それも当然の反応だろう。



 何せ、集められた人達は何も聞かされてはいないだろうし、俺からの教授がある、と知らされていた治療班の人達も、俺から『何か』を教えられるとは知らされていたのだろうが、『何を』教えられるのかは知らされていないのだろうから。

 ……もし、事前に何かしらの説明を受けていたのであれば、流石にあんな態度であんな場所に通される事は無かったハズだからね。


 案の定、暫く考える時間を与えてみてはいるが、治療班や協力者の人達は当然として、一応は理由を知っている責任者の人や、俺と同じ知識が在れば分かるハズの加田屋と言った面々も頭を捻ってどうにか答えを出そうと頑張っているが、あまり長々と続けても意味は無いし、時間も勿体ないので強制的にネタバラシへと移行する。



「さて、では時間も勿体無いので正解の発表に移ります。

 正解は……


 ここ数日にて負傷した、もしくは負傷から回復した、または現行にて負傷している人達


 でした」



 その俺からの言葉を聞き、更にポカーンとした表情を浮かべながら、瞳には『だからどうした?』と言わんばかりの色を全員が浮かべて行く。


 俺から聞いていて条件は知っていた責任者さんもやはり分からなかったらしく首を傾げており、逆に加田屋は『もしかして?』と言った表情を浮かべて集められた人達を観察し始めた。



 ……うんうん。

 分からなかった事を分からなかったままにしておかない姿勢は、先生大好きよ?

 まぁ、過去の俺の事情として、分からないからと放置していると、下手をしなくても死にかねない環境に居たから、って事は否定しないけど。



「困惑された方も多いとは思いますが、割りと重要な事なので協力お願いします。

 皆さんは、この訓練場にて怪我をした場合、主にどの様にして治療されますか?」



 俺からの問い掛けに、みな口々に反応を返してくる。



「……どの様に、って、そんなの、医務室に行って治して貰うしか無いんじゃ……?」「擦り傷程度なら、放置しておくし、切り傷の類いでも派手に出血してなかったり、あんまり痛くなければ放っておくけど……」「もしくは、自前で用意したポーションの類いを使う、とか……?」「それら以外だと、基本的には無い、よな……?」



「では、それらの治療を行った後に赤く腫れあがったり、熱が出て体調が悪化したり、もしくは傷が在った場所から膿が出たりした経験は在りませんか?」



「……そんなの、なぁ……?」「……あぁ、そんな(・・・)当たり(・・・)前の事(・・・)を聞かれても、なぁ……?」「稀にならない時も在るけど、でも基本的にそうなるんだから、やっぱりそうなって当たり前なんじゃ……?」「あぁ、そうだよな。幾ら痛くて痒くて、たまに魘されて眠れなくなる時も在るけど、でもそれが当たり前なんだから仕方無くないか……?」



「成る程、成る程。やはり、予想の通りだったみたいですね。

 では、もう一つ質問します。

 ……貴方達がそうして『当たり前』だと思っているそれらの症状。全くもって発生させない、とは言えませんが、一度発生した際の症状を少なくとも軽く出来るだけでなく、そもそも症状自体を発生させない確率を上げられる手段が在る、と言えば、どうしますか?」



「「「「「「…………なっ……!?!?!?」」」」」」



 治療班の人達も、訓練場の責任者も、集められた人達も、皆一様に驚愕の表情にて固まってしまう。


 それだけ、俺の発言が衝撃的だった、と言う事なのだろう。


 何せ、俺が言っている事が本当ならば、この国の医療知識が根底から引っくり返る事になるし、軍事的に見ても、そう言う後遺症の類いが無くなれば、治療した兵士や騎士を即座に前線へと戻すことが出来る様になるのだ。

 その衝撃は、想像を絶するモノになるだろう。


 そして、俺としては、実体験として知っている為に、俺がコレから教授する事は、間違いなく一定数の実績を上げるだろうと確信していた。



 俺がそう確信する切欠なのだが、以前ダンジョンの氾濫の際に、手伝いとして治療行為を行った事が在る。

 その時に知ったのだが、この世界の人達は負傷に対しての危機意識や衛生観念があまり高くないのだ。


 俺達の居た世界の様に、大きな傷が出来た場合は、取り敢えず縫ったりして傷口を塞ぎ、その後は身体その物の回復力に任せて治す、と言う事をする必要が無い為に、その辺りの衛生観念に割りと無頓着なのだ。


 まぁ、それも当然だろう。

 何せ、怪我をしたとしても、[回復魔法]持ちに使って貰うか、もしくは低級で良いからポーションを使えば時間を掛ける事無く治ってくれるのだ。

 しかも、見た目は綺麗に(・・・・・・)だ。


 故に、そうして『傷口を塞ぐ』と言う事には素早く、堅実に行われるのだが、その後(・・・)についてはあまり考えられていない。



 そう、特に傷口に対する衛生を考えていないが為に、傷口を塞いだ後に膿が溜まったり、傷が熱を持って発熱したり、傷口に付着していたゴミ等によって跡が残ったり、著しく体力を消耗したり、と言う事態が発生するのだ。

 確固とした技術として、一瞬で傷口を修復し、失った血液までも補充できるにも関わらず、だ。



 そして、それらを踏まえた上で、俺の視点から見た限りに於ける不自然さ、非常識さを指摘し、更にダンジョンの氾濫の際に俺が実際に行った事から得たデータを開示して行くと、否応なしに納得せざるを得ない状況が広がって行ってくれた為に、今回の本題へと直接的に入って行く。



「――――と言う訳で、少しやり方を工夫しさえすれば、皆さんも余計な苦痛を味わうこと無く治療を終える事が出来るのです。しかも、それをするために必要な事も、特に難しい事を行わなけばならない訳ではありません。

 ただ単に、回復魔法を使う前に、ポーションを掛ける前に、その傷口を水で洗い流したり、アルコールの類いで洗ったり、浄化魔法で綺麗にしてから使う事を心掛ければそれで解決します。

 ……とは言え、こうして口で言うだけならば信じられない、と言う方も多いでしょうから、コレから実際にやって見せましょう」



 そう宣言して、集まって人達の中から、適当に指名して前に出て来て貰う。


 一人は、只人の男性。

 外見的には成人前後で、まだ血の滲んでいる包帯を、右の上腕と左のスネに巻いている。

 あからさまに痛みを堪えている表情をしているし、左足に至っては僅かながらに引きずっている事から骨にも影響が出ている可能性も否定出来ない。


 もう一人は獣人の女性。

 こちらも年若く見えるが、パッと見た限りでは負傷している様子は無いし、既に自覚しているモノも無いのか何処か困惑した表情を浮かべている。

 が、自覚は無さそうだが僅かに右足を庇う様な動きを見せているし、何より古傷の類いが手足の露出している部分から見えているので、今回はそちらの方の処置も行うつもりだ。


 もっとも、その辺の説明を一々していると面倒なので、取り敢えず二人ともにララさんに捕まえて貰って問答無用で処置を始める。


 まずは只人の男性の包帯を剥ぎ取り、未だに出血を続ける患部を露出させ、加田屋に指示して魔法による流水にて傷口を綺麗に洗わせる。


 こちらに戻ってきてから再度[マナ]の扱いを練習したり、杖を取り替えたりする事で再度魔法を扱える様になっていた加田屋は、嬉々として俺の助手に名乗りを上げていたので、こうして使い倒していると言う訳だ。


 そうして傷口を洗っている間に左のスネの包帯も剥ぎ取り、こちらは軽く洗って患部の周辺を触診して程度を見る。


 すると、やはり傷口から離れた場所を触っても痛がったので、同じく来ていたセレティさんに予め作っておいたポーションを、傷口を綺麗に洗ってから投与する様に指示して次に移る。



 最初は、ララさんによる拘束に抵抗していた様子の獣人の女性も、先程まで診ていた男性が綺麗に傷を治している様子を見てか、俺の指示する通りに大人しく従い、両手足の装備を外して身を委ねて来る。


 そこで、俺は軽く右足に対して触診を行い、案の定皮膚の下に異物感が在るのを探り当てる。

 一端許可を取ってからナイフを手にし、なるべく小さく切りつけて素早く皮膚の下に紛れ込んでいた石や砂利の塊や木片の類いを、出来るだけ時間を掛けない様にして取り出して行く。


 触診や[探査]を駆使して探った結果、もう異物は残されていないと判断出来たので、予め用意していた針と糸にて一時的に傷口を閉じ、その上から桐谷さんに頼んで回復魔法を掛けてもらったり、ポーションを使って大雑把に傷を癒し、その後で糸を抜いてから再度ポーションを使って完璧に傷口を治しきってしまう。


 ついでに、古傷として残っていた傷痕の盛り上がっているケロイド部分にも刃を入れて切除し、同じ様に縫い合わせてからポーションや回復魔法にて傷を治して行く。


 最初は、聞いていて覚悟まで決めていはしたものの、それでもやはり痛みによって涙目になっていた女性も、最後の方は手品の如く消えて行く傷痕に別の意味合いでの涙を浮かべている様子であった。





 そうして、経過観察こそ必要ながらも処置自体は効果的である、との判断を治療班の人達から下された俺は、訓練場にて出た怪我人や治療後の容態が思わしくない人達を診る事によって技術を教授して行くのであった。


 ……離れた場所にて、爬虫類の様に縦に裂けた瞳孔を細めながら、こちらの事を観察している人物に気付く事もないままに。





「…………ふぅむ?なかなか、面白そうな事を考え付きますなぁ。流石は、異世界からの召喚者、と言った処であります。

 ……これは、是非とも我らが『ドラグニティ』にてその辣腕を奮って頂きたい処でありますが、はてさてどの様な策を講じたモノか……」

新キャラの予感……?

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