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 ……一体、何が起きたんだ……?



 良く分からない空間の中で、床と思われる面に座り込みながら胸の内にて呟きを溢す。


 しかし、右を見ても左を見ても、突然の出来事にパニックに陥りかけているクラスメイト達がいるだけで、他には距離感が掴めない謎の空間が広がっているだけ。

 到底、現状を知りうる事に繋がる情報が転がっているとは言えない状況だ。


 比較的落ち着いていると言えるのは、俺を除けば加田屋を始めとした比較的クラスカーストの低い面子であり、寧ろ興奮気味に周囲を見回して俺と同じく情報を集めようとしている様にも見える。

 まぁ、以前話した感じや、加田屋から聞いた限りでは、全員が全員男女の区別なく、大なり小なりオタク文化に啓発(汚染?)された連中みたいなので、恐らくは似たようなシチュエーションの小説か漫画かアニメか、もしくはゲームでもあったのだろう。きっと。多分。


 普段からしてあまりテンションが高くなく、その上気弱な一面が在る為にクラスカースト上位の連中から虐め紛いの事をされる事も在る彼が楽しそうにしているのは大変良いのだが、流石にこんな状況になるのであれば脱出しておけば良かったか、と人知れず溜め息を吐く。


 ……実際、俺だけならば、多分あの発光現象から逃れる事は不可能では無かった様に思える。あくまでも多分だけどね?

 普段は掛けている身体能力のリミッターを外せば、今ならばまだ現役だった時と同じ様に動けるし、現役時代であれば発光から俺達がこの空間へと拉致されるまでの時間が在れば、余裕で廊下へと飛び出す事も可能だったからだ。


 まぁ、もっとも?今そう言えるのは、実際にこうして拉致されたからだし、何よりあの時脱出していればまたしても俺の身体はガタガタになっていただろう。再度の長期に渡る修理とメンテナンスを挟んでリハビリを行い、その上で残り少ない寿命を縮める事になってまで脱出する必要が在ったのか?と言われると微妙に過ぎるし、おまけに脱出出来ていたとしても俺一人が限度だっただろう。

 きっと、頑張れば一人位はどうにか一緒に脱出させられたかも知れないが、それでも一人だけだ。


 あのクラスメイト達全員を助けたいとは思わないが、それでも一緒に助けてやりたいと思うヤツも少なくは在るが居るだけならば居るのだ。流石に、その中で一人だけ、となると選ぶのが難しい。まぁ、実際に選ぶとすれば、多分桐谷さんか加田屋になるんだろうけどね?


 そんな事を考えていると、不意に俺達のこの空間に拉致した光と同じ様なモノが、俺達が集まっていた場所から少し離れた所に発生し、そこから一つの人影が現れる。



 それは、人智を超えた美しさを誇り、物理的に光すらも放っている様に錯覚させる程の、完成された『究極の美』を体現した様な存在。


 その圧倒的な『美』の前では、男であろうと女であろうと、嫉妬や性欲等を抱く間も無く、即座に魅了されてただただ見つめ続けるだけであった。



 それは、クラスのアイドルとして積極的にアピールされていた桐谷さんやアピールしていた深谷、つい先程まで興奮していた加田屋や、その同類の連中ですら例外ではなく、まるで魂でも抜かれたかの様な様子にて、全員がただただ『ソレ』へと視線を注ぎ続けていた。

 ……唯一の例外である、俺を除いて、だが。


 戦場で色々な意味合いにて鍛えられたお陰か、それとも俺の感性としては他の皆程感銘を受けていないからかは定かではないが、他の皆の様に逆上せ上がる事もせず、比較的普段の思考と心の動きと変わらない状態にて『ソレ』を観察して行く。


 外見的には、人間とそう変わりはしないと思う。

 しかし、驚く程に、それこそある種の『恐怖』や『畏怖』を感じる程に、奇跡的なバランスにて『最も美しい配置』に顔のパーツが存在するために、殆ど人外染みた美しさを見るものに与えているのだろうと思われる。


 性別の類いは、パッと見た限りは不明。

 服装は、昔話に出てくる神様が来ている様な、白い布を巻き付けた様なモノを着ているので、性差を見分けられるだけの特徴が表に出て来ていない様に見えるのだ。唯一露出している顔の造りも、性を超越した様な『完全な美』を体現した様な状態である為に、それらから性別を判断する事が出来ない。

 もしかすると、無性なのかも知れない。そんな考えが脳裏を過る程度には、『性』と言うモノを感じ取れない外見を『ソレ』はしていた。


 そんな風に分析していると、何処からか視線を感じる様な気がして顔を上げる。

 すると、つい先程まで眺めていた『ソレ』から、俺に向けて真っ直ぐに視線が向けられている様に見えた。


 その視線には『好奇心』や『興味』と言ったモノの他に、何故か『期待』の色が見え隠れしている様にも見える。



 ……『期待』?俺に、何故?そもそも、一体何を『期待』するって言うんだ……?



 (理由)が分からず、内心で若干混乱していると、それまで口を開きもせずにただただそこに在っただけの『ソレ』が、漸く視線を俺から逸らして皆をグルリと見回してから口を開いた。



『……初めまして、皆さん。ワタシは、複数の世界を管理・維持する上位存在、皆さん方の表現で言えば【神】と言う言葉が最も近しいであろう存在です』



 そう『ソレ』が切り出すと、他の皆は一様に眠りから覚めた様に意識を取り戻し、『ソレ』が語りだした内容へと耳を傾けて行った。



 曰く、自身の治める世界の一つが、崩壊の危機に瀕していること。


 曰く、その世界の人間達の力では、その世界の崩壊を止める事は難しいこと。


 曰く、そんな世界からの救援を受け、その世界を救う為に俺達の世界から『特別な才能』を持った集団である『皆さん方(俺達)』を召喚する様に指示したこと。


 曰く、しかしそのまま召喚されたとしても、到底世界を救う事は出来ないので、この世界と世界の狭間に在る空間にて予め【職業】と[スキル]を授けること。


 曰く、【職業】と[スキル]は個人個人にて合う合わないが在る上に、それぞれにはコストが割り振られていて、個人で所持出来るモノには上限が在る。合うモノは少ないコストで習得出来るが、合わないモノを習得しようとするとコストが高くなるので注意が必要になること。



 その他にも、


 ・言葉は通じる様にしてある。

 ・死んでも同じ世界の召喚された時間に戻るだけ。

 ・魔物も異種族も魔法も在る野蛮な世界。

 ・向こうでは蘇生は不可能。


 等の情報を、こちらが口を挟む隙を与えない程に滑らかに口にすると、俺達の目の前にタブレット端末の様な半透明の画面の様な何かが発生する。



『そこに表示されているモノが、皆さん方がそれぞれ習得可能な【職業】と[スキル]となります。皆さん方の世界にもあった道具と同じ様に、指でなぞる事でリストを移動させる事が可能です。そして、そのリストの上方に在るモノが、先程も言った通り皆さん方それぞれの適性が高いモノになります。簡単に言えば、リストの上に在れば適性が高くコストは少なく、リストの下に在るモノは適性が低くてコストが高くなると思って下さい。

 それぞれの上限を迎えるか、または上限を超えるモノを選択しようとするとそう表示されるので、上限を超えない様に選択して下さい。

 ……では、選べた方からこちらの円の中へとお願いします。一度入ると、【職業】や[スキル]の選択権を失う事になりますのでご注意下さい』



 結局、自らの呼び名を名乗る事の無かった『ソレ』の言葉により、皆一斉に目の前の画面へと手を伸ばして操作を始める。



 ……おいおい、こんな胡散臭さが天元突破してる様なヤツの言う事を、素直に受け入れるのかよ。大丈夫かこいつら……?



 胸中でそう溢しながらも、取り敢えずは様子見に徹する事を決め、まだ画面は操作せずに他の皆がどうしているのかを観察する。


 すると、やはり『ソレ』に言われるがままに『適性が高い』とやらの【職業】やら[スキル]やらを優先的に習得しているのか、基本的にあまりリストを上下にドラッグしている者はいないらしい。

 ほぼ四十人近く居る中で例外として、加田屋を始めとしたオタク文化に造詣の在る連中が比較的上下にドラッグさせて、それぞれで[スキル]を探している様子だが、ソレ以外で言うと、何故か深谷のヤツが必死な形相でリストを捲って何かを探しているのと、意外な事に桐谷さんがリストをドラッグさせながら何かを考え込んでいる様な素振りを見せていた。


 その様子に、話を鵜呑みにせずにキチンと考えているのだな、と少々失礼な感動と感心を抱きながら、先に加田屋に聞きたい事が在ったのでそちらへと向かい、一心不乱にああでもないこうでもないとリストを弄くり回している加田屋へと軽く拳骨を入れて正気に戻す。



「痛っ!?ちょっと、今良いところなんだから邪魔しないでくれないかな!?」


「悪いが、それは後だ。お前に聞きたい事があるんだ。

 お前のソレ、どう言う系統のヤツがあった?」


「……どう言うって、基本的に攻撃系のヤツばかりだったけど?僕の適性が高い【職業】は魔法職ばかりだったから、[スキル]もそれに合わせて魔法系が多い様に見えるかな?」


「……それを、お前の目から見て、どう思った?」


「……どうって、やっぱり闘わせたいんじゃないの?説明やら[スキル]傾向やらからも、それは、歴然だけど……あっ!?」


「……気付いたな?じゃあ、どうすれば良いかも、解るよな?」


「……他の人達も良いかな……?」


「聞き入れる連中なら。そうでなきゃ放置で良いよ。自分でどうにかさせれば良い」


「分かった。じゃあ、僕は一応声を掛けてみるね。滝川君はどうするの?」


「俺か?俺は、どんな【職業】や[スキル]が在ったとしても、現状は変わらないからな。そう言う方向(・・・・・・)に特化させるつもりだよ。これで、予想が大ハズレだったら笑え無い事になるが、そうでなかったらどうにでもなるハズだ。同時に、俺の願いも叶う事になる」


「……そっか……。じゃあ、もしそうなったら、僕らも一緒にお願いするよ?その代わり、外したら僕らで庇ってあげるから、さ」


「おぅ、その時はよろしく。じゃあ、俺は一応桐谷さんにも声かけしてくるよ」


「分かった。じゃあ、また後で!」



 そうして加田屋と別れると、今度は桐谷さんの方へと歩み寄り、声を掛けて注意を引いてから加田屋と同じ様に説明して行く。



「…………そっか。じゃあ、やっぱり(・・・・)こうしておいた方が良いのかな?」


「多分だけど、それが正解だと思う。もちろん、向こうで必要にされるモノかは不明だけど、取らないよりは潰しが効くハズだからね」


「うん、分かった。取ろうかどうしようか迷っていたけど、滝川君がそう言うなら、取っておくよ!」


「まぁ、外してる可能性もあるから、その時はゴメンね?」


「大丈夫!私が取った【職業】は【守護聖者(セイントガードナー)】だから、その時は私が滝川君を守ってあげるから!」


「……普通は逆だと思うし、男としては情けない限りだけど、その時はお願いしようかな……?」


「うん!任せて!」



 そう元気に返事をしてから、習得するかどうか迷っていた[スキル]を結局習得したらしい桐谷さんは、『ソレ』が指定した円へと向かって歩いて行く。

 その背中へと、何やら自信在りげな深谷が話し掛けているが、相変わらずの愛想笑いによる塩対応の様だ。


 視線で探してみれば、加田屋も啓発に成功したらしく、満足そうな表情を浮かべながら仲の良い面子と共に円の中へと入り、こちらへと手を振っている。


 その様子を確認した俺は、自らの前に浮かんでいる画面をざっと確認すると、【職業】や[スキル]の欄の上方に在った恐らくは『ソレ』が選ばせたかったであろうチートスキルやチート職業をガン無視し、目的のモノをドラッグしながら探しだし、発見し次第片っ端から習得して行く。

 そして、最後に習得済みのモノを確認すると、何故か最後まで『ソレ』から向けられていた『好奇』と『期待』の視線を感じながら指定された円へと足を踏み入れ、何処ぞとも知れない世界へと転送されるのであった。















『……ふぅ、全く、ワタシの言う事を完全に無視し、それでいて『正解』を引き当てるとは、これは大当たりかも知れませんねぇ……。この後どうなるか、楽しみにさせてもらうとしましょうか』

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