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大晦日なので特別更新
元旦にも上げる予定です
「……それじゃあ、やっぱりここは異空間の類いって事になるんですかね?」
「まぁ、それが今の主流の考えさね。何せ、昔の『入り口の地下に広がっている説』は物理的に掘削してもダンジョンを発見出来なかった事から否定されたし、『この世界の何処かに在ってそこに転送されている説』も、持ち主の位置を特定し続ける道具を使って入る実験を行った際に音信不通になった事から違うんじゃないのか?って言われているからねぇ。
他にも、『それぞれのダンジョンで別々の空間を作っている説』だとか、『全てのダンジョンは空間に存在している説』だとかも出てるけど、まだそれらは実証されてはいないみたいだねぇ。少なくとも、ウチは実証されたって話は聞いた事はまだ耳にしてはいないよ」
「じゃあ、ダンジョンが存在する理由だとかも?」
「そこも不明さね。『神が人々に与えた試練』って考えも在るし、中から魔物だけじゃなくて宝物や資源の類いも採れる事から、ウチら人類を一方的に苦しめる為だけの存在、って訳でもないんだろうけど、だからと言って定期的に魔物を間引いておかないと、少し前みたいに中から溢れて来るからねぇ。扱いが難し過ぎるのさ。他にも、装備や資源と言った宝をちらつかせ、魔物やトラップ等にてこちらの命を刈り取ろうとして来る事から、何かしらの装置的な存在なんじゃないのか?って説も出てるけど、まだ実証はされてはいないねぇ」
「ふぅん?今、トラップ云々て話が出ましたけど、実際にはどんなのが仕掛けられているんです?俺達が今いる様な所にも、仕掛けられていたりするんですか?」
「トラップの種類かい?そうさねぇ。聞いた限りだと、ほんの些細な嫌がらせ程度から、確実に殺意を以て仕掛けられたであろうモノまで千差万別って話だよ?中には、特定の場所へと引っ掛かったマヌケを転位させる様なモノまで在るって話だから、注意しておいた方が良いかもねぇ。
もっとも、こんな浅い階層にはそんなトラップはそうそう仕掛けられちゃいないだろうし、対処法も無くはないからどうとでもなるだろうさね」
「対処法、と言うと?」
「一応、最奥に在るコアを壊せばダンジョン自体の機能を停止させられるって事は解ってるから、ソレさえしちまえばもうトラップは発動しやしないのさ。
けど、トラップ等の危険を加味してさっさと壊すべきなのか、それとも危険を犯してでも管理すべきなのか、意見の別れる処だよ」
「……成る程。じゃあ、まだ壊してはいない処を見ると、この国は管理派って事ですかね?」
「そこも、難しい処さねぇ……。
溢れられると危険。だけど、全部壊してしまうのもまた勿体無い。何せ、未だに魔物共と大喧嘩しているこのご時世だ。資源は多いに越した事は無いからねぇ。例え、それを有効活用出来る人材がほぼ居なくとも、だ。
だから、そう言う意味合いでは、ほぼ無尽蔵に資源を産み出してくれて、尚且つ王都からも近いココは出来れば壊したく無いんだろうさ。一応、オルランドゥ王は破壊派のお人だけど、それでも背に腹は代えられない、って事なんだろうね」
「ふぅむ、成る程成る程。本心としては危険が高いから壊しておきたいが、無尽蔵に資源を産み出してくれる鉱山としての利用は是非ともしたい、と言う実情との板挟み、と……」
「まぁ、そんな処さね。
昔は、どこもかしこももう少し上手いこと利用していたけど、ここ最近はそんな余裕も碌にありゃしないし、そもそもココみたいに管理し易い立地で発生なんてしてくれやしないからねぇ」
「痛し痒し、か……。
っと、どうやら終わったみたいですね。そろそろ行きましょうか」
「はいよっと」
皆が出現した魔物を殲滅するまでの間に、セレティさんにお願いして受けていたダンジョンについての講義を切り上げ、後方警戒を行っていたレティシアさんにも声を掛けてから前に出て戦っていた皆の方へと向かって進む。
各自で刃の血振りをしたり、返り血を拭ったりしている三人の足元には、子供程の背丈の小さな角を生やした緑色の肌をした小鬼の死骸が複数転がされていた。
そう、ご察しの通りに、この手の題材を扱った作品ではお決まりで、今回の様に只の雑魚から実は凶悪な存在まで様々な役柄を演じ分け、ごく一部の界隈では薄い本を厚くする二大巨頭の内の一つ。小鬼ことゴブリンさん達(故)だ!
……まぁ、薄い本を~の下りは、加田屋からの受け売りなんで、イマイチ意味が分からないのだけど。
薄い本ってなんぞ?それが厚くなるってどう言う事よ??
内心でのセリフに自身で突っ込みを入れながらララさん達に歩み寄ると、彼女らの足元に転がっていたゴブリンの死体が淡い光の粒子として解けて行き、その跡には爪の先程の魔石のみが残される。
先程のセレティさんからの講義には出て来ていなかったが、これもダンジョン特有の不思議現象の一つなのだとか。
「……死体は残らずアイテムだけ残る、か……。
マジでゲームみたいだな……」
「……ん。その『げーむ』と言うのが何かは知らないけど、これはこれで意外と便利だよ?死体が残らないから、後処理が簡単。腐るモノが無いから、地面が汚れて足場が悪くなる事も無いし、疫病の類いも警戒しないで済む」
「まぁ、落とすアイテム以外の素材は一切手に入らないから、あたしやあんたみたいな生産系の【職業】持ちにとっちゃ、ちょいと勿体無いと思っちまう訳だけどな?
もっとも、こうして消えてくれた方が、解体の手間だとかも省けるし、スッパリと後腐れ無く素材は諦める事が出来るから却って良いかも知んないけど」
「何も残らないから却って諦められるダンジョンか、それとも全部手に入るけど諸々の処理が大変な外か……。
うーん……結構悩ましいね……。
滝川君ならどっちが良いと思う?」
「俺?俺は……現状なら外、かなぁ……?やっぱり、倒してその程度の見返りなら、外で倒して丸っと持ち帰った方が利益になるんじゃないの?」
「……ん。まぁ、それは否定しない。でも、同時にそれはまだ浅い層だから言える事。深くまで潜った際の見返りは、かなり凄いよ?」
「そうそう!今は最上層でゴブリン相手だから魔石一つだけど、もっと深い層でドラゴンなんて狩った日には、もうスンゴイ事になるからな?
『お前何処にそんなに溜め込んでたよ?』
って突っ込みたくなる位にはザックザクでウッハウハになるらしいからな?まぁ、今回はそんな所には行かないけど」
「……ソレって、つまり誰か既にやったって事なんじゃ……?」
「……アレ?そう言えば、以前ララさんが『ドラゴンなら倒した事が在る』的な事を言っていた様な……?」
「……ん。何度か在るよ?」
「「……マジかぁ……」」
何気無い雰囲気にて放たれたララさんの返答に、俺と桐谷さんが目を丸くしながら半ば放心していると、ゴブリンが落とした魔石を拾ったルルさんが軽く手を叩いて音を出し、前進を促して来る。
「ほいほい、割りと脇道に逸れるあたしが言えたことじゃないんだろうけど、それは後でじっくり聞く!今は、こっちに集中しな!
タキガワ!もうソレなりに進んだと思うけど、後どの位か分かる?」
「ちょっとお待ちを。
……今居るのがこの辺りのハズなんで、もう少し進めばまた分岐に行き当たるハズですね。そこを左に折れて、そのまま道なりに行けば、地図の上では目的地に設定されているポイント付近に到着するハズです」
「ふぅーん?じゃあ、こう言うのがあんまり続かなければ、そんなに掛からずに着く訳、だ!」
ブォン!!!
ドガン!!!
会話の途中で、それまで肩に担いでいた戦鎚を片手で薙ぎ払い、風切り音と共に手近な壁へと視線を向けずに叩き付ける。
その行動に、桐谷さんは目を白黒させていたが、少ししてから戦鎚と壁との間から汚液とでも表現すべき『何か』が滴り落ちて来た為に、何者かの襲撃が在ったのだ、と言う事を理解する。
そして、割りと近くにいたにも関わらず、特に驚いた様子も、動揺した様子も見せていないララさんと俺とを見て、この場で気付いていなかったのが自分だけだったのだ、と言う事を理解して表情を曇らせる。
「……まぁ、そう落ち込まないで下さいな。どっちかって言うと、気付いちゃった俺が異常なだけなんだから」
「……ん。どちらかと言えば、その通り。このダンジョン・シーカーは、別名『浅層の暗殺者』。割りと浅い処でも、階層に見合わない隠密性で這い寄って来て、突然飛び掛かって来る厄介な相手。余程慣れているか、もしくは吾達の様に耳や鼻が利くのでも無い限りは、基本的に気付けない。
だから、そのどちらでも無いキリタニが気付けなくて当然。むしろ、そのどちらでも無いタキガワが気付いたのが異常。どうやって気付いた……?」
「…………勘?もしくは、気配的な何か……?」
「……ん?もしかしなくても、なんで分かってたのか理解してない……?」
「言語化は出来ないですけど、何となく分かった、って感じですかね?」
「……むしろ、なんで滝川君は分かるのさ……」
「………………さぁ?」
感覚の問題なのでそうとしか答えられず、素直に回答すると一瞬だけ虚無の表情を浮かべた桐谷さんだったが、次の瞬間にはもう諦めたのか、それとも出来ない事は出来ないのだ、と割り切ったのか、何処かスッキリした様な表情を浮かべ、手にしていた盾を構え直す。
それを見て、ダンジョン・シーカーが残したアイテムである魔石とゲル状の何かが入った小瓶(何処から出てきた……?)を回収していたララさんとルルさんが、期待していた新人が思った以上の活躍を見せた時の先輩の様な、嬉しさと対抗心の混ざった様な感情を瞳に浮かべると、一瞬だけ笑みを浮かべてから表情を再び引き締めて周囲を窺い始める。
そして、それから数匹のダンジョン・シーカーやゴブリン、スライムと言った極一般的なダンジョンで出現する魔物(ララさん談)を蹴散らし、それらが残して行ったアイテムを広い集めながら進む事暫し。
俺達は、当初の目的地であり、ルルさんがココに来ようとした原因でもある鉱床の露出したポイントへと到着するのであった。
良いお年を




