45
「なぁなぁ、ダンジョンに行ってみないか!?」
唐突に、ルルさんがそんな事を言い出した。
それに対して俺達は、突然過ぎるその言葉の意味を掴みかねて、ただただポカーンとしていたが、言葉の意味が脳に染み入るにつれて他の面子で集まりあって、ヒソヒソ話にて相談を始める。
「……なぁ、ルルさんがなんか言い出したけど、なんの事だと思う……?」
「……ん。多分、言葉の通り。だけど、なんで言い出したのかは分からない」
「そうさねぇ……。唐突に思い付いた事を、そのまま言ってみたとか?割りと気紛れな部分の在る娘だから、あながち無いとも言い切れないんじゃないのかい?」
「……確か、今日はタキガワ様の試作されているモノも途中経過を見る為の小休止で、それに合わせて皆さん休暇を取られたのでしたよね?私も含めて、ですが。
そんな、タキガワ様と一日中触れ合える貴重な機会を、わざわざ理由も無く台無しにする様な思い付きを口になさるとは思えないのですが……?」
「……まぁ、普通に考えればレティシア姫の言う通り、わざわざそんな事をする理由は無いよねぇ……。
でも、表情を見る限りは本気みたいだし、何よりなんでそんな事を言い出したのかが気になるから、取り敢えず話だけでも聞いて上げた方が良いんじゃないかなぁ……?」
話にも出た通り、俺が試作している小麦畑は順調に穂を実らせ、天然酵母の方も無事に発酵が進んでいるらしく、小さな泡を発生させ始めている。
お陰で、予備日として確保していたここ数日は経過を観察すれば良いだけとなり、端的に言えば『暇な時間』と言う奴になってしまったのだ。
俺の護衛兼手伝いと言う名目にて同行しているララさんを始め、その話を聞き付けた他の四人もそれに合わせて予定を調整し、時間を空けてこうして俺の部屋にてまったりと過ごしていたのだが、唐突にルルさんが放った言葉によりこうして額を付き合わせて緊急会議を開く羽目になった、と言う訳だ。
とは言え、取り敢えずの対応の答えも出ているし、何より俺自身もなんでそんな事を言い出したのかは気になっているので、正直に真っ正面から問い掛けてみる事にした。
「取り敢えず、行くかどうかは置いておくとして、なんでそんな事を言い出したんです?今日は、予め休みだと言っておいたハズですよね?」
「だからだよ!こう言うタイミングでもないと、皆で行動なんて出来やしないだろう?」
「……まぁ、それは否定しませんけど、だとしたらなんでまたダンジョンに?何か在りましたっけか?
と言うか、この辺にそんな物騒なモノなんて在りましたっけか?」
「そうそう!それだよ、それ!
少し前、ここの近くにダンジョンが出来て、そこから魔物が氾濫を起こしただろう?あそこから、良質な鉱物が回収できるみたいなんだよ!
ダンジョンだから、コアさえ壊さなければ時間経過で復活するし、何より一度氾濫を起こしてボスまで討伐されてるから中の魔物も弱くなってるんだ!だから、一緒に採りに行かないかい?あんたなら、色々と[スキル]持ってるんだから、何人も連れ立って行かなくても良いし、何より素材は自分で見て選びたいだろう?
なぁ、良いだろう?行こうぜ!!」
「……まぁ、素材に関しては、一理無いことも無いですが……」
「だろう!?なら、行こう行こう!皆で!今から!!」
「皆で今から、て……。流石に無理筋でしょうよ。俺は戦闘面では役に立たないポンコツ。レティシアさんは立場の在るお姫様。セレティさんも、魔法は使えても生産職。桐谷さんも、戦闘職だけど[スキル]構成はタンク系だから攻撃力に欠ける。唯一戦闘に特化しているのはララさんしかいないのに、介護要員がこれだけいる状態での探索は流石に許可出来かねますがね?」
「いやいや、何言ってるのさ!
セレティは案外と戦闘もこなせる程度には魔法が扱えるし、王女様だって確か【強弓士】だったハズだから、得物さえ在れば結構戦えるハズだよ?それに、あたしだって戦闘職じゃあ無いけど、これでも結構強いんだからな?
前衛での物理アタッカーが二人、盾職兼回復役が一人、物理と魔法の後衛が一人ずつ。かなり理想的なパーティーだと思うぞ?」
「まぁ、それはそうかも知れないですが……」
「それに、ほら。いざとなればあんたも戦えるっぽいし、そもそもあたしらがバッチリ守ってやるから、な?
そんなに奥まで潜らなくても良いって話だから、今から行けば昼過ぎ位には出てこれるみたいだから、な?
だから、な?皆でちょっと行ってみようぜ!な?な?」
「……そう言う事なら、俺は構わない、かな?
どうせこのまま部屋に籠っているだけだろうし、このまま籠ってたらどの道襲われただろうし。
皆が良いなら、行っても良いと思うけど、どうする?
……あと、図星を突かれたからと言って、そんなに露骨に顔を背けると全肯定している様なモノだからね?それと、レティシアさんまで背けるって事は、参加するつもりだった、と……?」
「「「「……ナ、ナンノコトカナァ~……?」」」」
一斉に顔を反らし、あからさまに棒読みなセリフを合わせて口にする四人。
最初から肉食全開だったララさんと、今回の発起人であるルルさんはともかくとして、最初は顔を真っ赤にしながらアワアワとしていた桐谷さんや、自分の身体に自信が無かったらしくオドオドと引っ込み思案な様子を見せていたセレティさんも、今では隙あらば迷わず襲い掛かって来る捕食者となってしまっており、かつての面影は最早欠片も残ってはいないので恐らくは本気で襲うつもりだったのだろう。
レティシアさんにしても、流石に婚前交渉はどうなの!?と言う立場に在る為に、この場にいる面子の中では唯一関係を持っていない人物なのだが、他の面子から何やら吹き込まれたのか、それとも自主的に話を聞き出しているのかは定かではない(出来れば後者で在って欲しくはない)が、矢鱈と最近は誘いを掛けてくる様な言動が目につく様になり、正直どうしたものだろうか?と悩ましく思っていたりする。
……正直に言えば、そうやって好意を向けてくれるのは嬉しくはある。まぁ、今を持ってしても、何故にそんな感情を向けてくるのかは理解し難いが。
それに、俺も男である以上、そう言う欲求が少なからず在る事は否定しないし出来ない。
が、だからと言って、そう言う方面に集中して訴え掛けて来るのは、ちょっとどうかと思う。
もう少し、アプローチするにしても、やり方を考えるべきじゃないのかね?
何もお色気に全力で振り切らなくとも、もう少し健全なアプローチとかを目指してみるべきなのでは?まぁ、嫌いじゃないけどね?
なんて想いを、込めたり込めなかったりしながら、四人へと視線を向けて参加するか否かを問い掛けた。
一応、要警護要員である俺の安全は確保されているからか、身体を動かすのが好きなララさんは割りと乗り気な様子であり、既に着けて行く装備品の類いを準備し始めていた。
セレティさんは悩んでいる様子だが、案外とこの手の催し事は好きらしいので、多分このままなら参加の方向に転がるだろう。
桐谷さんも、案外と身体を動かすのは好きらしいし、素材が手に入り次第桐谷さんの装備を作製する約束になっているので、多分参加するのではないだろうか?
レティシアさんに関しては、実戦経験がそこまで多くない(本人談)のと、手元に一線級の得物が無い事から参加を見送ろうとしていたみたいだったのだが、取り敢えず作るだけ作っておいて部屋の片隅に転がしていた弓が幾振りか在り、ソレを渡してみた処嬉々として支度を始めたので、本心では参加してみたかったのだろうと思われる。
結局皆で参加する事になるのね、と思いながら視線をルルさんへと戻すと、そこには既にポーチや巨大なリュックを背中に背負い、その上で肩に巨大な戦鎚を担いでヤル気満々で鼻息を荒くし、期待から瞳をキラキラと輝かせている彼女の姿が在った。
そんな彼女の様子に苦笑を溢した俺は、俺専属になっているらしい使用人さんにオルランドゥ王へと伝言を頼むと、何が在ったとしても大丈夫な様にする為に準備を始めるのであった。
……しかし、それにしてもダンジョンか……。
なにか、面白いモノでも見付かれば良いんだけどなぁ……。




