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「―――途中、思わぬ余興が在りはしたが、皆楽しんでくれたと思う。宴も闌になりつつ在る故に、あまり羽目を外して『救世主』様に迷惑を掛けぬ様に。
これにて私は退席するが、皆はまだ宴を楽しんで欲しい」
少し前の決闘騒ぎへと特に言及する事無く、オルランドゥ王が最後に一言壇上から声を掛けると、そのまま戦勝祝いの会場として使われている部屋から退席して行く。
それに合わせ、一度は談笑の手を休めていた者達の大半が、話を中断していた相手と会話を再開させ、そうでない者は今回の戦勝祝いにて新たに親交を深めた相手と共に連れ立って場所を移すべく、部屋から退出して行く。
相も変わらず壁際にて隠れてそれらを観察していた俺は、衣装と合わせてセットされていた懐中時計にてチラリと時刻を確認する。
すると、オルランドゥ王が言っていた通り、結構良い時間帯へと突入していたので、一応主賓扱いになっているとは言え、俺もここら辺でトンズラさせてもらうのが良さそうだ、と判断を下し、ララさんやルルさんにも一言掛けておくべく、少し前までよりも明らかに人口密度が下がった会場を見回して二人の姿を探して行く。
暫く周囲を見回していると、二人が比較的長身であった為に割りと簡単に見付ける事は出来たので、手を上げてアピールしつつ声を掛けようとしたのだが、一緒に居る人影を見て慌てて動作を取り止めて口を閉ざす。
何故なら、そこに一緒に居たのは俺と踊る事でララさんの言う処の『群れ』に入る事を肯定したセレティさんだけでなく、何故か顔を赤らめて俯き気味に視線を下げている桐谷さんの姿までもが在ったからだ。
騎士服に似たパンツスタイルの服装であり、どちらかと言えば『凛々しい』だとか『キリッとしている』だとかの形容が該当するであろう状態の彼女だが、その顔を赤らめながら胸の下で組み合わせた指をモジモジと突き合わせ、時折ララさんやルルさんによって何を耳元へと囁かれると、その度に更に顔色を赤く染め上げ頭の上から湯気を上げながら更に深く顔を俯けて行っている。
その姿は大変に愛らしく、普段の気安くも女性らしさを忘れない姿との共通点だとか、現在の服装とのギャップ等から思わずクラっとキてしまいそうになるが、敢えてそこは一旦踏み留まり冷静になる。
……こうまでも意味有り気な反応をされてしまうと勘違いしてしまいそうになるが、それだけは有り得ない。
何せ、彼女が俺にそう言う感情を抱く理由が無い。
向こうの世界でも、なに暮れと無く世話を焼いて面倒を見てくれていたが、それはあくまでも身体が不自由だった俺を憐れんでの行動だ。
そこに、好意は、存在しない。存在、しえない。
故に、俺は勘違いはしない。
勘違いは、していない。
……とは言え、そうすると先程の行動とセリフが不可解になるが、そこはアルコールか何かで酔っていたのか、もしくは『友人として』俺に対する暴言を見過ごせなかった、とかそう言う事だろう。多分。きっと。恐らく……。
それに、こちらの勘違いの類いだと理解していても、流石にさっきの今で顔を合わせて反応せずにいられる自信があまり無いから、俺の方が顔を合わせにくい、と何となく思ってしまっている事も無関係ではない、とだけ言っておく。
……流石に、好意は無い、と理解していても、それでも反応してしまうかも知れないのだから仕方無いよね?
『思春期だもの』なんて青臭い事を言うつもりはあんまり無いけど、それでも俺も一応年頃の男の子ですので、多少はそう言う事に反応してしまったとしても、不可抗力の類いだと思いたい。割りと切実に。
そんな訳で、今桐谷さんとは顔を合わせるのは俺の尊厳的に少し厳しいので、こうして二の足を踏みながら観察している、と言う訳なのだ。
このまま挨拶もせずに会場を後にしてしまえば良いのだろが、それはそれで不義理な様な気もするし、何よりララさん辺りに後で何かしらされそうな気もするしなぁ……。
なんて考えていると、背後からゆっくりと、しかし確実に俺へと目掛けて進んで来る気配が感じられた為に、俺の方からも特に慌てる事無くゆっくりと振り返る。
互いに敵意が無い事を示す為の行動を取った為に、取り敢えずは大丈夫だろう、と当たりを付けて視線を向けると、そこには見た覚えの在るような無い様な使用人さんの姿が一つ。
しかし、俺が気配を絶つ技術を使ったままの状態であるにも関わらず、その上で俺がここに居ると断定して接近して来たと言うのであれば、やはり見た目通りの存在では無いのだろう。
何せ、少なくとも感覚器の精度と言う意味合いでは、べらぼうに鋭いララさんよりも高いと言う事になるのだから、やはり半端無いと言わざるを得ない。
流石に動き回っていればララさんにもバレるが、こうして止まっていると中々彼女でも見付けられないんだけどなぁ、とか思いながら、微笑みと共に頭を下げ、無言のままに手振りや表情にて同行を促す彼女(外見的には只人の女性に見える……一応は)の後へと着いて移動する。
身振り手振り表情だけの指示なのに、それでいて相手に不快感を与えず尚且つ丁寧さを出すなんて真似が出来るんだなぁ、なんて考えながら着いて行くと、会場に設えられたバルコニーへと到着する。
そこには、うっすらと人影が見えており、気配からしても誰かがいる。しかも、その誰かは俺も知っている人物であった様に見てとれた。
なので俺は、特に緊張する事はせず、しかし相手が相手なので内心での警戒度を引き上げながらその人影へと話し掛ける。
「……お招き頂き恐悦至極、とでも言えば良いですかね?レティシア第二王女殿下?」
「……こちらも、ご足労頂き感謝致します、とでも言えば良いですか?『救世主』タキガワ様?」
互いに牽制のジャブを放つが、特に効果は無かったらしい。
もっとも、この程度の皮肉や嫌味の類いで効くのなら、ここまで俺も警戒はしなかっただろうけど。
「…………それで?一体何の用だ?
俺もあんたも、互いにこんな事をする必要が無い事も、こんな事をしている暇は無い事も理解しているハズだろう?
ソレを押してでも、こうして直接的に顔を会わせる必要が在った、と言う事か?誰もいない、二人きりの状況で?」
「………………」
投げ掛ける言葉の通りに訝しむ表情を隠そうともしていない俺と、対照的に何処か悲しそうにしながら無言のままに黙り込むレティシア王女。
その年頃の少女その物と言った仕草と、少し前に受けた踊りの申し入れと言う二つの事実に、更なる戸惑いを覚えると同時に何か違和感が在る様にも思い始める。
……アレ?おかしいぞ?
彼女は、自分の利になる相手は取り込んで、そうでない相手は切り捨てる、ってタイプだったハズじゃないのか?
少なくとも、初見の時の対応だとか、その後の他の皆への対応だとかを鑑みると、割りと当たってはいたハズなんだけど……?
……それとも、もしかしてだけど、その前提認識自体が間違っていた、とかは無いよね?
最初のアレは初対面&悪印象有りの括りの人間だったからで、他の皆への対応も働きに応じたモノ。
俺への最近のアレコレの働き掛けも、どうにかして接点を持とうとしていたから、とか……?
……イヤイヤ、流石に都合良く考えすぎだろうに。
もし仮にそうだったとしたら、さっきのはガチでのプロポーズ紛いの何かって事になるし、今だって気になる相手に邪険にされて悲しんでる、って事になるんだぞ?
流石に、それは冗談が過ぎるってもんだぞ?ジョン。そもそも、彼女はそんなキャラじゃないだろう?HAHAHA!
「……そう、ですよね……。
私とタキガワ様は、確かにそうやって、気軽に言葉を交わす様な間柄では無かったです、よね……。
……いえ、最初の私からの対応を鑑みれば、そう思われても当然だったと言えるでしょう。それは……少々辛いモノが在りますが、私の不徳の成す処でしたので、仕方無いです、よね……。
…………でも、これだけは理解して頂きたいのです。当初はどうあれ、今の私は、貴方とお近づきになりたいだけなのだ、と……」
「……冗談じゃ無かったじゃねぇか、ガッデム!!?」
思わず近くに在った欄干に拳と額を叩き付ける俺。
突然の奇行に、慌てながらも俺を心配する様子を見せる彼女の姿に、それまでの認識とのギャップと、誤解していた事に対する罪悪感で思わずクラっとキてしまいそうになる。
しかし、慌てる事無く、打ち付けた際に出来た傷から出血しながらも、確認の為に彼女へと問い掛ける。
「……つまり?今までのアレコレは婉曲なアプローチの類いで?少し前のやり取りは純粋に俺に会いに来ていて?さっきの踊りに関しては正気で申し込んでいた、と?」
「………………えぇと、その……端的に言えば……そう言う事になり、ます……」
「……oh……」
その言葉により、言葉責めもかくや、と言わんばかりの反応を示し、元より赤かったその顔を更に真っ赤に染め上げるレティシア王女。
そんな、丸っきり年頃の乙女感丸出しな反応を見せられた俺は、ハンカチにて止血している額から更に出血してくる様な錯覚を覚え、思わず夜空を仰いで視線を上へと向ける。
「…………レティシア王女殿下」
「……はい、なんでしょうか……?」
「……ここで、俺と踊っては貰えませんか……?」
「…………え……?」
目を丸くして顔を上げるレティシア王女。
その顔には、突然の提案に戸惑いの色が強く出ていたが、同時に隠しきれない喜色も浮かんでいた。
「……先程は、貴女の真意を図りかねていたのでお受け出来ませんでしたし、何よりあそこでお受けする事は、貴女の今後に良い影響を与えはしなかったでしょう。
……しかし、今は天上の月を除けば誰も見てはいません。なら、貴女の望みを一時叶える事に、誰も文句は言わないでしょう。ですのでどうか、俺と踊っては貰えませんか?」
……我ながら臭いと言うか、痛いと言うか、とにかく、後で思い出してのたうち回るであろう俺のセリフに対し、最初は驚いた様子を見せていたレティシア王女は、赤らめた顔に微笑みを浮かべると、俺へと飛び付く様に抱き着いて来ながら、承諾の意を返して来るのであった。
……なお、この後申し込んだ通りに踊ったのだが、終始リードされっぱなしでした。
流石は生粋の王族。ほぼ脳筋に近い風潮とは言え、その辺は完璧だったみたいだぜぃ……。
まぁ、レティシア王女が楽しそうにしていたから良いとしておくかね。
取り敢えず、戦勝祝いはここまで
次回からまた生産ライフに戻ります




