表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/100

4

 


「ごめん、私もう行くね?今日日直だから職員室行かなきゃならないの」


「分かった。じゃあ、俺は先に教室行ってるよ」


「うん。また教室で!じゃあね!」



 学校へと到着して靴を履き替えると、思い出した様に謝りながら、元気に職員室へと向かって駆けて行く桐谷さん。


 そんな彼女を、下駄箱で軽く手を振りながら見送る俺の肩を、彼女の姿が完全に無くなった後で背後から乱暴に『誰か』が突き飛ばす。


 当然、『誰か』が背後から近付いて来ているのなんてとっくに察知してはいたのだが、回避する方が面倒な事になる、との判断の元にわざと避ける様な事はせず、そのまま突き飛ばされて床へと倒れ込む。


 当然、来ると分かっている状態で加えられた危害で負傷する程に鈍っている訳では無いので、そこはキッチリ受け身を取って衝撃を殺しておくが、然りとて無傷でいる方が不自然だし、何より俺はこの学校では『過去の事故で身体が不自由になっている』と言う設定になっている為に、如何にも『身体を打ち付けてダメージを受けました』と言った風な呻き声を出して誤魔化しておく。


 乱暴なヤツもいるものだ、と何処か他人事の様に内心にて呟きを漏らしていると、動かし辛い身体にて立ち上がろうとしていた俺の頭を『誰か』が乱暴に踏みつけて来た。

 当然、それも予想の範囲内であったし、何より部隊に居た時に受けた『扱き』の方が余程痛くて怖かった覚えが在る。それに比べたら、まるで蚊に刺された程度の影響しかない。鬱陶しいのは否定しないけどね?


 そんな俺の事情など知った事ではないらしい『襲撃者さん』は、俺の頭を踏みつけた上で足をグリグリと捻る。

 無言のままに行われるそれは、何となく感じる雰囲気から『怨恨』や『怒り』と言った感情の他に『嫉妬』の様なモノが見え隠れしている様にも思われる。

 ……ぶっちゃけ、桐谷さん関連にて身に覚えが在り過ぎるから、いったい誰が?なんて戯言を言うつもりは無いけど、ここまでするかねぇ……?


 なんて事を思いながら、時折抵抗する様にもがいていたのだが、どうやら倒れた拍子に鞄から零れ落ちたクッキーの包みを見つけたのか、あからさまに纏う空気を攻撃的なモノへと変化させ、それまでの踏みにじるだけだった行動に蹴りや踏みつけ等の攻撃が追加された。


 そして、登校してきた生徒達が見てみぬフリをして通り過ぎて行く中、朝のHR前の予鈴が校舎へと響き渡り、それと同時に舌打ちと共に攻撃が止められる。


 そして



「……クソッ!なんで、こんな碌に抵抗すらしないヤツなんかに……!こいつさえいなければ……花怜は俺のモノだったのに……!」



 との呟きを残し、零れ落ちていたクッキーの包みを乱暴に拾い上げると、最後の仕上げとばかりに強めに俺の腹部へと蹴りを入れると、その場を後にして教室の方へと足早に去るのであった。


 ……そして、俺はその後ろ姿と呟きを溢した声、それと向かって行った方向から、攻撃してきた『誰かさん』が誰なのかを確認するのであった。



 …………はぁ、また深谷かよ。

 もう、いい加減にしてくれないモノかねぇ……?






 ******






 物理的に重い足を引き摺りながら、教室の前まで移動する。


 既にHRの時間は始まっている為に、他の生徒達は教室の中へと入っているので人目は特に無いのを幸いとして、教室へと入るよりも先に乱れた制服を手早く直し、付けられた埃や靴跡等を目につく範囲にて叩いて落として行く。


 大方落とし終えた事を確認してから教室の扉を開け、中へと踏み込む。

 すると、教室内の全ての人間から視線が集中して向けられる。


 教師に対して



「すみません、遅れました(・・・・・)



 と声を掛けて、唯一空いている自分の席へと向かって移動する。

 その最中にも、相変わらず向けられている『変わった行動をする少数』に対する好奇の視線に辟易しつつ、足を引き摺りながら席へと着く。


 すると、後ろの席に座っていた生徒が声を掛けて来た。



「……また、随分と手酷くやられたみたいだね。背中に、まだ靴跡残っているよ?」


「……マジで?大体払ったと思ってたんだけど」


「まぁ、真ん中付近に付いてるから、見落としても仕方無いよ。動かないで、僕が落としてあげるから」


「悪い。頼んだ」



 小声でのやり取りの後に、俺の背中の中央付近にて軽く叩かれた様な衝撃が発生する。

 しかし、それは先程までのそれとは異なり、俺の身体へと極力ダメージを与えない様に、との気配りが感じられるモノであった。


 ニ、三度衝撃が走った後、背後から



「もう大丈夫だよ」



 との声が掛けられたので、振り向きながら感謝を伝える。


 その視線の先にいるのは、このクラスでは桐谷さんと同じ位良く話す、『友人』と言っても良いであろう関係性に在る加田屋(かたや) 清司(せいじ)だ。

 外見としては、眼鏡を掛けたインドア派、と言った感じであり、その見た目に反せず全方位に対しての知識と見解を持つ、間違う事無き『オタク』だ。本人も、そう自称している。



「……しかし、さっきも言ったけど、随分と手酷くやられたね?相手は何時も通りの?」


「……あぁ、何時ものあいつさ」


「道理で、ね。珍しく、HR開始ギリギリで教室に入ってきて、何時もの通りに桐谷さんに絡んでいた訳だ」



 加田屋の言葉に釣られる形で視線を向ければ、そこには美男美女で会話している二人組の姿が在った。


 美女の方は、会話の流れから察せられるとは思うが、少し前まで俺と一緒にいた桐谷さん。

 そして、桐谷さんへと話し掛けている美男こそが、このクラスの上位カーストの中心人物であり、つい先程まで俺へと暴力を振るっていた『誰かさん』でもある深谷(ふかや) 雅人(まさと)だ。


 どうやら、先程の言動と言い、積極的に桐谷さんへと話し掛けている姿勢と言い、彼女へと好意を抱いて積極的にアピールしているのだろう事が伺える。その為か、初期の顔合わせから何かにつけて彼女が気に掛けている俺と言う存在が気に食わないらしく、幾度となく先程の様な行為をされている。

 もっとも、そうして暴行されている俺としては、あの程度でどうにか成る程柔な精神はしていないし、何より先程も言った通りに部隊での扱きの方が余程キツいし痛かった。だから、あの程度ではどうにもなりはしない。

 おまけに、そうして俺へと暴行を加えつつ、自分を上げて良く見せようとしている事は既に桐谷さんにはバレているみたいなので、その手のアピールは無意味になっていると言う事を、本人は知らずにいるみたいだけどね?


 実際、今も様々な話題にて彼女へと話し掛け、それとなく誉めそやし、更には俺の鞄から入手したクッキーを、俺が捨てようとしていた所を見付けて没収させてもらった、とか言う根も葉も無い真っ赤な嘘にて報告しながら口にし、登校中にて俺が口にした様な感想を彼女を称えながら伝えている。


 しかし、それらの行動はどうやら功を奏してはいないらしく、桐谷さんの顔に浮かんでいるのはあくまでも愛想笑いであるし、深谷がクッキーの包みを取り出した時には、遠目に見ても解る程度には怒りの感情を発露させていた。


 そんな二人のやり取りを、加田屋は呆れた様子を隠そうともせず、俺は冷めきった瞳にて冷ややかに眺めていた。



「端から見てても目が無いって解るのに、何であそこまでしつこく言い寄れるんだろうね?」


「さあね。それだけ、彼女に執着している、ってことじゃないのか?もっとも、その執着心を俺の方にまで向けないで欲しいモノだけどね。

 むしろ、何で俺に対して突っ掛かって来るんだろうかね?関係無いよな?」


「……まぁ、君がそうおもうのなら、そうなんだろうさ……。でも、もし桐谷さんから話があったら、関係無いなんて嘯いていないで、真剣に聞いてあげなきゃダメだよ?」


「……?まぁ、そう言う機会が在れば、な」



 そこで教師による朝のHRが終わり、授業が開始されるまでの僅かな時間の隙間に突入する。


 他のクラスメイト達が、それぞれ席を立って駄弁ったり、桐谷さんが席を立ってこちらへと向かって来たり、深谷がそれを追い掛けようとしたりする最中、俺と加田屋は鞄や机の中からそれぞれ小説を取り出してページを開こうとする。



「……また、異世界転生してチートで無双する系か?」


「そう言う滝川君は、何時も通りにスローライフ系?」


「あぁ。わざわざ異世界に呼び出され、死の危険と隣り合わせの状態で魔物と闘わされるのなんて、俺はゴメンだよ」


「そう?ゲームみたいに、チート貰って無双するのが、この手の作品の醍醐味じゃないの?少なくとも、僕はそう思うけど?」


「別段、その意見を否定はしないけど、俺はわざわざ血塗れになってまで殺し合いをしたいとは思えないね。自身で経験するのであれば、やっぱりスローライフ系だろう?少なくとも、俺はわざわざ血塗れにはなりたくないからな」



 そんな、端から聞いているだけならば、ただ単に老成している、程度にしか思わないだろうが、既に地獄の様な戦争にて悲惨に過ぎる光景を嫌と言う程に見てきてしまった俺にとっては、それが偽りならざる本音であった。


 そんな本音を溢したからか、もしくはただの偶然かは判断しかねるが、それとタイミングを同じくして、俺達の足元が突然強い光を発しながら、何やら意味在りげな形を取り始める。

 そして、次の瞬間には一際強い光が放たれ、それが晴れた時には、俺達の姿は教室ではなく見たことも無い空間に在るのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ