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「……ふぅ」



 人混みから逃れ、壁際へと退避してきた俺は、ひっそりと壁へと寄りかかりながら息を吐く。


 それと同時に部隊に所属していた時に覚えた、気配を消す技術を使って極限まで気配を薄くして、未だに獲物()を探して周囲を血走った目で見回しているお嬢様方(肉食獣達)をやり過ごす。


 ソレを見て再度溜め息を吐いてから視線を巡らせると、そこには自身に迫るお嬢様方(狩人達)の勢いにタジタジとなっている加田屋や、下衆な視線を隠そうともしていない貴族令息達(くそ野郎共)をドン引きした表情にてどうにかあしらっている桐谷さん、自ら声を掛けに行っているものの、全くもって相手にされず袖にされている深谷と言った元クラスメイト達の様々な姿。

 全くの無表情にて歯牙にも掛けないララさんに、笑顔でバッサリと切り捨てるルルさんの二人と、苛立ちを隠そうともせず心をへし折りに掛かるセレティさんに、笑顔のままで相手を掌握して跪かせているレティシア第二王女達と言った、普段とは別の姿を見せている知人・仲間達の姿が目に入ってきた。


 そんな彼ら彼女らの表情には、約一名を除いて一様に嬉しそう・楽しそうな色は浮かんでおらず、つい先程まで同じ場にいた俺と同様に何処か煤けて疲れた様な色が刻まれている。


 ウェイターとして飲み物を運んでいた使用人さんが近くを通った為に、こっそりと一つ掠め取って喉を潤しながら、何でこんなことになっているんだろうなぁ、と一人胸中にて呟く。



 ……始まりは、大した事は無かった。

 むしろ、拍子抜けする程に、穏やかに始まったと言っても良いだろう。



 オルランドゥ王の開会宣言と、一応主賓となっている俺の経歴と実際に挙げた戦果を発表し、それに続く形で主な戦果を挙げた人達が次々に紹介されていった。


 そして、そのついでに、俺が完全な生産系特化の存在であり、同じく紹介されたララさんの得物も俺の手による作品である、と紹介されてしまった事が、恐らくは事の転機となったのだろう。


 何せ、その直後に目の色を変えて俺の元に殺到し、一様に



『自分の専属になれ!』



 と命令口調にて、まるで自分達に従うのが当然とばかりに迫って来たのだ。


 当然、俺がそれに従うハズも無く、全ての誘いをバッサリと切り捨てた。

 すると、今度はあからさまに雰囲気や服装が妖しげな貴族令嬢達が、文字の通りに目を血走らせて俺へと様々な言い回しで肉体関係やそれに準ずる行為を迫って来たのだ。


 内心でドン引きしながら必死に対応していると、見かねた皆が助けに入ってくれたので一時的に攻勢は弱まったのだが、それでも押し寄せる人波が少なくなった訳でもなかったし、向こうは向こうで彼ら彼女らを中間に挟む事で俺へと接触しようと企む者も出てきたからか、先程の様に俺以外にもアプローチを仕掛け始めたので、結局こうして皆と離れ離れになってしまい、現在に至ると言う訳だ。


 こうして逃げ隠れているのも、いい加減あのアグレッシブ過ぎる程にグイグイと迫って来る癖に、こちらの話は欠片も聞こうとすらしないお嬢様方(肉食獣達)の相手を真面目にやるのが面倒になったから、と言うのが理由の大半を占めている。


 ちなみに、さっきからそんなお嬢様方(肉食獣達)に対してアプローチを繰り返している深谷なのだが、どうやら主賓()功績者(加田屋)が積極的に迫られているのを見て、召喚者であればそれだけであれだけモテる、ならば【勇者(ぶれいぶ)】である自分がそれ以上にモテないハズが無い!と誤解して、ああして恥を晒しているらしい。

 実際に、取り巻きの戦闘職の連中にそう漏らしているのを聞いたから、間違いは無いハズだ。


 そんなどうでも良い考察をして時間を潰していると、さっきまでしつこくまとわり付いて着ていた連中を振り払ったらしいララさんとルルさんが、その耳や鼻を動かしながらこちらへと近寄って来始めた。


 一応、俺の気配を消す技術は一線級であり、本気で隠れた俺を見付け出せたのはかつてこの技術を伝授してくれた本人位のモノだったので、恐らくはここに居る、と気付いて近寄って来た訳ではないハズだ。

 だが、あくまでもこの技術は『気配を薄くする』だけのモノであり、実際に姿が消えたりする訳ではない。路傍の石に誰も気を留めないのと原理は同じだ。


 なので、物理的にぶつかったりすれば否応なしに気付かれてしまうし、何か目印的なモノを付けられ、ソレを頼りに追い掛けられた場合も発見される可能性は高いと言わざるを得ないだろう。


 そして、この二人の場合は、恐らく俺の発している匂いや音、もしくは自分達で付けた匂いを頼りに探しているのだろう。

 現に、より付き合いが深く長く、それでいて嗅覚も優れている(らしい(本人談))ララさんの方が迷いも少なく、比較的真っ直ぐに俺の元へと進んで来ている。


 ルルさんの方は、どうやら耳を頼りにしているみたいなのだが、今一精度に欠けるのかアチコチにフラフラと行ったり来たりを繰り返していて、到達出来るかが見ていて心配になって来てしまう。


 そんな二人を見ていると、一人で隠れているのがなんだか寂しいと言うか侘しいと言うか、兎に角微妙な気持ちになってきたので、一瞬だけ消していた気配を解放し、わざと二人に現在地が分かる様にアピールしておく。


 すると、ほぼ目の前と言っても良い位置に居たからか、その一瞬でバッチリと俺の事を認識したらしい二人が、表情と耳や尻尾に出ている喜色を隠そうともせず足早に俺の処へと進み出て来た。


 その様子は人に良く懐いた犬や猫を彷彿とさせるモノであり、擦れ違った人々は直前までの姿との違いに皆揃って二度見する程であった。

 もっとも、俺の元へと到着すると同時に、セットしてある髪が乱れたり、バッチリ決めていたメイクが落ちるのも気にせずに俺の胸元へと額や旋毛の辺りをグリグリとこすり付け、ゴロゴロと喉を鳴らしたりブンブンと尻尾を振り回したりしている姿を見れば、まず間違いなく犬猫の類いではあるまいか?との思いを抱かざるを得ないだろう。

 少なくとも、俺はそう思ってしまった。まぁ、可愛らしいから良いのだけどね?


 そんな二人を受け止めた俺は、再度視線とお嬢様方(捕食者達)が集まってくる前に人混みの中へと飛び込み、再度撹乱してから壁際へと退避すると、そこで漸く未だにじゃれ付いている二人の耳や頭を撫で回す。


 すると、本当に二人ともに成人して成熟した大人の女性だとは思えない位に可愛らしい様相を見せてくれた。

 なので、俺も調子に乗って更に激しく二人と戯れるのだが、これまでの経験からこう言う場面にて絶対に守らなくてはならない事が在る。



 それは、彼女らの尻尾に触れる事、だ。



 話は多少変わるのだが、彼女ら獣人は、割りとスキンシップを取るのを好む傾向があり、その際に当然の様に耳や尻尾に触れられる事となる。


 だが、それはあくまでも幼少期に於ける家族との触れ合いや、極親しい同性。もしくは、番の関係にある異性に限った話である。


 幼い頃の家族との触れ合いの際に、耳や尻尾に触れるのは良くある話であるし、ある程度大きくなるまでは基本的に触れられても気にはしないのだそうだ。

 そしてそれは、成長してから親しくなった同性の友人も同様であり、そう言う間柄の相手であれば、耳や尻尾に触れられたとしても親愛表現である為に、拒絶する事も過剰反応を起こす事も無いのだとか。


 更に言うのであれば、成人してから異性の友人に対しても、耳迄で在れば触るのを許可する事も無くはないそうだ。

 まぁ、あくまでも『許可する』だけなので、一方的に触られると不快だし、あまり積極的に触れて来る様な相手にはそもそも許可を出さないのだそうな。



 しかし、尻尾だけは話が異なる。



 彼らにとっては、神経の多く通った一際敏感な場所であるのと同時に、ある種の『性感帯』でも在るのだそうだ。

 それ故に、幼い頃はともかくとして、ある程度成長した段階にて異性の尻尾に気軽に触れる・触れられる事は忌避すべき事柄であり、ソレをして良いのは番となった相手のみである、と言う教えが守られているらしい。


 なので、彼らの尻尾に無理矢理触れようとする事は、こちらで言う処の強姦に相当する位の侮蔑的かつ尊厳を著しく損なう行為として認識されている為に、実際に行えば反撃で殺されたとしても文句は言えないし言わせない、と言う程に重い伝統なのだそうだ。

 実際に、過去に他国の王族が無理矢理尻尾を触ったとして反撃で殺され、ソレを理由に全面戦争を開戦するにまで至った例が歴史に刻まれているので、余程の阿呆で無い限りはソレを実際にやらかす間抜けは権力者に居なくなったのだとか。



 そんな訳で、俺の事を番だと公言している二人に関しては、俺は尻尾に触る権利を持っている、と言っても良い。むしろ、二人とも積極的に触らせようとしてくる程だ。

 ……しかし、そうであったとしても、俺はこんな公の場でソレをする訳には行かないのだ。


 それは何故か?


 理由は簡単。

 ソレをしてしまうと、俺が喰われる事になるからだ。もちろん、性的な意味合いで。


 ……少し前にも言ったと思うが、彼女らの尻尾はある種の『性感帯』となっている。

 なので、ソレを触られると、番として認めていない相手には極限の殺意しか湧かないが、番として認めた相手であるならばそれはもう、色々と『興奮』してそれはそれは大変な事になるのだ(経験者は語る)。


 故に、俺は一人でも大変な事になるソレを二人掛かりで、しかも人々の目が在る中で起こされる訳には行かない為に、必死に自ら擦り付けられてくるモフモフな尻尾達に触れない様に、全力で立ち回る事になるのであった。



 ……触った時の反応は可愛いんだよ?トロンとした目で擦り付きながら、もっと触ってくれ、と言わんばかりに尻尾をアピールし、触ったら触ったでそれはそれは可愛らしく蕩けて見せてくれるから。

 ……だけど、その後確実に襲われて、次の日の朝には三種の[スキル]を使わないとベッドから起きられなくなるので、流石に今は勘弁願いたいのですよマジで!

 だからわざわざ尻尾を擦り付けて触る様に誘導するのは止めろ下さいお願いですから話を聞いて!!?

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