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 加田屋と二人、待ち合わせの場所へと移動する。


 流石に王族であるレティシア王女と共に移動するのは、あらゆる意味合いにて危険な行為だし、何より彼女は彼女でホスト役の一人でもある為にこなさねばならない役割があり、その準備の為に既に別行動となっている。

 俺や加田屋付きの使用人さん達も、既に着替え終わっているし、何より戦勝祝いの席には使用人を帯同しては行けない決まりらしいので、今は同行している訳ではない。


 故に、ここ最近では珍しい事に本当の意味で俺と加田屋の『二人きり』と言う状態となっていたりした。


 一応、俺は主賓の一人と言う事で、元の世界のタキシードに似た礼服の一種を纏い、腰に昨日も使った刀を差した出で立ちとなっている。

 そこから少しグレードが下がった功労者として参加する加田屋は、魔法使い然としたデザインのローブを金糸銀糸を使って豪奢に飾り立てたモノを纏っており、その手には物語等にてお決まりの『THE・魔法使いの杖』とでも呼ぶべき捻くれた杖が握られている。


 着替えが終わった時は、互いが互いの服装を見て、互いに『似合ってねぇ!』と言い合ったモノだが、それは今は置いておくとしよう。


 ちなみに、俺達が宴に参加するのに普通に武装している事については、特に問題がある訳ではない。

 何せ、この宴を開く際の名目が名目だし、元々が武偏主義を掲げていた(傾倒していた?)風潮が在る国だけに、見せる様にでも武装しておかないとむしろ絡まれて危ないのだそうだ。

 まぁ、そうは言っても今回は国王主催での宴であるので、そうそうそんな事は起きないだろうけど。



 ……フラグじゃないからな?まだ、この程度じゃ立ってないよね……?



 内心にて、そんな風に祈りながら、最近は殆ど無かった野郎だけの二人歩きと言う事で、色々と馬鹿話をしながら歩いて行く。


 俺が今は普通に歩けている事、時折以前の様に歩けなくなることを加田屋がからかい混じりに会話に乗せると、俺は反撃とばかりに加田屋が獣人の女性やエルフの女性にばかり声を掛けている事と、その結果(所謂勝率)を槍玉に挙げて反撃する。


 それにより、互いに被弾しあってダメージを受けたり、相手の間抜けぶりを大笑いしてやったりと、かつて教室でやっていた様な『年頃の男子生徒の馬鹿騒ぎ』とでも言うべきモノを、久し振りに繰り広げて行く。



 ……実際には、まだそんなに経っている訳でないのに、大分久方ぶりだと認識してしまうと言う事は、この世界に染まりつつ在ると言う事なのだろうけど、果たしてそれが良いことなのか、そうでないのか……。



 何処と無く懐かしさと薄ら寒さを感じつつ、それでも道中を加田屋との馬鹿話に費やしながら歩いて行くと、漸く待ち合わせの場所へと到着した。


 渡されていた時計によって時刻を確認すると、一応まだ約束をした時刻よりも少し前では在るのだが、既に女性陣は着替えを終えて着飾った状態にて到着していたらしく、若干の気まずさが俺達の元へと襲来する。



『女を待たせる男はクズだ。先に着いて待ってる位で丁度良いんだよ!』



 とは、かつての部隊にて『姐さん』と呼ばれていた先輩隊員からの教えだっただろうか?


 当初は、理不尽この上無い主張だ、と噴飯極まりない心境であったが、ソレを守っている以上は相手の機嫌を損ねる事無く接する事が出来たので恐らくは正しい教えではあったのだろう。


 故に、やや早足になりながら、何処ぞの安い恋愛小説の様に



「すみません!お待たせしました!」



 と声を掛けてから歩み寄る。


 己の行動でありながら、これは男女逆では?と内心にて突っ込みを入れていると、俺からの声かけによってこちらに気付いたらしい女性陣がこちらへと振り返る。


 そして、そんな彼女達の艶姿を直視し思わず固まる俺と、俺の隣にいて同じく直視してしまい、あまりの麗しさに思わず『目が~、目が~!』と声を挙げながら目を手で押さえてその場に踞ってしまっている加田屋。


 しかし、それは当然の反応だろう。

 渾身の精神力を注ぎ込んだ為にどうにか固まる程度で済んでいるが、少しでも気を抜けば加田屋と同じ様な反応をしないで済む自信が無い。


 それほどに、ここにいる女性陣の晴れ姿は美しく、麗しく、艶やかである、と言う事だ。


 四人いる女性陣の中で、まず俺が視線を向けたのは、既に番となっている獣人の二人。


 俺の番であり、実際に関係を結んでいるララさんは普段は下ろしている髪を結い上げ、その白く輝く艶やかな背中を惜し気もなく衆目へと晒している。


 ララさんと同じく俺の番となる予定となってるルルさんも、ララさんとは逆に普段は上げている髪を下ろし、その縞模様の入った綺麗な髪と褐色に焼けた肌を惜し気もなく晒しながら、ララさんと同じ様程に豊かで深く魅力的な谷間を大胆に衆目へと晒している。


 二人は解放しているのが前面か後方かの違いは在るが、良く似ている細い布を纏めた様なデザインのドレスを着ていた。

 恐らくだが、獣人達の正装の類いなのだろう。

 二人ともに、大変に魅力的で麗しい。良いと思います!



「……その、月並みですけど、お二人とも綺麗ですよ……」


「……ん。ありがとう」


「んふっふっ~!いや~、分かっちゃいたけど、こうして直接的に誉められると、なんだかむず痒いねぇ!」



 本当に月並みなセリフにて二人を称賛すると、そのまま固定したくなる程に魅力的な二人から視線を剥がすして移動させる。

 すると今度は、少々居心地悪そうに佇んでいるセレティさんの姿が目に止まる。


 エルフ特有の豪奢な金髪や長い耳を、蔓系の植物を模したと思われる神秘的なアクセサリーにて飾り立て、その抱けば折れてしまいそうな細身の身体をマーメイドラインの深緑色のドレスにて覆ったその姿は、本気で森の妖精にでも出会したかと錯覚する程に神秘的な美を放っていた。


 しかし、その表情は何処か暗く、普段は横に長くせり出している耳(少なくとも過去に会った時はそうなっていた)が今は若干ながらも下向きになっている処を見ると、どうやら自分が今ここに居るべきでは無い、とか考えているのだろう事が予想出来る。

 ……それと、多分無意識的になのだろうけど、肘上までの長手袋を嵌めた細く長くしなやかな腕にて、時折胸回りや腰回りを隠す様な素振りも見せている処を見ると、本当に内心では居心地が悪いのだろう。


 まぁ、ここに居る他の女性陣は、桐谷さんも含めて色々とボリュームが凄いからね。仕方無いよね(涙)。



「……気にするな、と言っても貴女は気にするでしょうから敢えて言いません。ですが、そんなに沈んだ顔をしていては、折角のドレスが台無しですよ?もちろん、貴女の美貌もね?」


「……ふぅ、分かったよ。あんたにそんな事言われちゃ、流石にウチが何時までもくよくよしていられないじゃないさ。それに、あんまりそう言うお世辞の類いは番の前では慎む事をお薦めするよ?獣人って言うのは、1度自分達の輪に入れた相手には寛容だけど、そうでない相手に対しては悋気を剥き出しにするから、後が大変になるそうだからねぇ」


「なら、問題は無いですね。俺は、別にからかっている訳でも、お世辞で言っている訳でも無いですから」


「……っ!だ、だから!そう言う事を軽々しく言うんじゃないって言ってるんだよ!ウチみたいな年喰った三百路(みそじ)手前のババア相手に、そんな事言うと勘違いしたくなっちまうだろうが!!」



 こちらはこちらで先の二人とは別種の美を体現した様な彼女の、珍しく赤面して慌てている可愛らしい様子から視線を引き剥がし、最後に残った一人へと移動させる。


 そこには、他の三人とは異なり『美しい』『麗しい』と言うよりは『可愛らしい』『癒される』と言った表現が多く使われるであろう、俺達と同じ世界からこちらへと呼び出された美少女が存在していた。


 俺が視線を向けると何故か嬉しそうに微笑んで見せた彼女は、珍しくスカートでも、また他の三人の様にドレス姿と言う訳でも無く、意外な事にパンツスタイルの出で立ちであった。


 下に向けていた視線を上げれば、上半身も下半身と同じ様に白を基調とした騎士服をモチーフとしている事を彷彿とさせるデザインで纏められており、どちらかと言うと柔和な雰囲気の持ち主である彼女とは、一見相反しているデザインとなっている様にも見える。


 が、しかし、良く見てみれば彼女の柔和な雰囲気や女性らしい曲線を殺す事無く見事に取り入れ、その上で騎士服としてのデザインにより全体的な印象を引き締める事によって見事な調和を産み出していた。



「……凄いな。そんな格好初めて見たけど、とても似合ってるよ。正直、そう言う服装するイメージが無かったから意外だったけど、見違えるみたいだ」


「ふふっ、ありがとう!でも、私には他の三人みたいに、綺麗だ、とは言ってくれないんだね?」


「……そいつは失礼。でも、個人的な主観として、桐谷さんは綺麗系って言うよりも可愛い系だと思ってるから、あまりそう言う言葉は出にくいんだ。だから、と言う訳でも無いけど、そこら辺の追及は緩くして貰えるとありがたいんですが?

 もちろん、その服装の桐谷さんも、凄く可愛いと思ってますよ?」


「……もう!そんな事言われちゃったら、何時までも怒っている訳にも行かないじゃないの!

 でも、可愛いって言ってくれたのは嬉しかったよ♪ありがとうね!滝川君も、格好良く決まってるから、自信もって良いよ!」


「ははっ、そいつはどうも。

 まぁ、似合ってないのは、自分が一番理解してますから」


「…………もう、本気で言ってるのに……」



 最後に聞き取れない程の小さな呟きと共に膨れてしまった桐谷さんだったが、そんな状態でも彼女の魅力は損なわれないらしく、危うく見惚れる処だった。


 しかし、他の女性陣、特にララさんからのジトりとした視線と、礼服であるにも関わらず普段と同じ様なスキンシップを仕掛けて来た為に、危うい処で回避される事となる。


 そんな感じで暫く皆でじゃれあっていると、時計を確認していた加田屋が開催の時刻が迫っている事を告げて来た為に、皆一様に気を取り直して会場へと移動を開始するのであった。

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